第9話 事態急転
私と先生はパトカーへ乗せられて警視庁へと到着した。
美鈴さんは原田先生の事務所へ戻って待機だ。
私は一度先生とは別々の部屋に連れて行かれて聴取を受けた。
恐らく別々に同じ質問をされて、話の整合を確認するためだろう。
私に質問をする人は女性の刑事さんで、威圧的な部分も無く優しい人だった。
両親の遺産相続に関する件で、原田先生を立てて対処して貰っていることなどを伝えると、頷きながらパソコンで文章にしていた。
一通りの事を聞かれた後は、未成年の私は既に代理人として原田先生を立てているので、その後の連絡は全て原田先生を通して行われる事になった。
私に質問をした女性刑事さんの綾瀬さんという方が、当面私の部屋で倒れていた男の身柄が確保されるまで、護衛としてつく事になり、学校の行き帰りなどは一緒に行動するように伝えられた。
警察の覆面パトカーで私と先生は取り敢えず、綾瀬さんに事務所まで送り届けて貰うと「それじゃ遠藤さん。明日の朝学校に登校する時間に私が迎えに来るわね」と言って戻って行かれた。
先生の事務所でテレビを見ると、私の部屋で倒れていた男がパトカーの警官二名を殺害して逃走中である事が大きく報道されている。
まだ私に関する遺産相続系の話などはこの時点では報道されてはいない。
私がスマホを確認すると、伯父からの着信が20件ほども入っていた。
先生に確認する。
「伯父からの電話は対応はどうしたらいいんでしょうか?」
「それは、もう既に家庭裁判所から通達が出ているから直接さやかちゃんが喋らない方が良いです。すべての連絡は私を通して行う様に伝えましょう」
そう言って早速伯父へと連絡を取った。
「先生。どうでしたか? 伯父さん」
「どうもこうも無いですね。さやかを出せの一点張りですよ。当然それは出来ないと伝えましたけどね」
「そう言えば、監査請求に対してさやかさんが本来受け取る筈であったご両親の遺産と、ご両親やお兄さんの保険金。それにご両親の残した預金通帳や金融資産の総額の確定が通知されました。総額で3億7436万4523円だったそうです。相続対象者はさやかさんのみで、相続税やマンション売却後の所得税を引かれた後の金額で2億円程の現金が残っていなければならなかったのですが、後見人としての報酬額を一般的に考えられる高い水準でも月に10万円を超える事はあり得ません。ですが、すでにさやかちゃんの名義で保有してある現金が5000万円程しか残っていませんでした」
「そんなに……使っちゃってたんだ。酷い……」
「これから先は、未成年後見人である遠藤浩一さんの資産状況を把握して、金融資産や不動産の凍結をして出来る限りの回収をすると言う手続きに移行していきます。それと並行して遠藤浩一さんに対して刑事責任を追及するのかどうかと言う判断を、さやかちゃんが下して訴え出る事になりますが、どうしますか?」
「少し考えさせてください……」
「ねぇ。さやかちゃん。ちょっといいかな?」
「美鈴さん。なんでしょうか」
「あのね、こういう事は有耶無耶にしてしまうと、ただ、さやかちゃんが損をするだけで終わってしまって、遠藤浩一さんと叔母さんの沢村真澄さんのどちらも、ただ、さやかちゃんを恨んで文句を言い続けるだけになるよ。訴えなくても文句は言うでしょうけどね。さやかちゃんが受け取れる筈だった正当な金額を求めて、法的に訴え出る事は最低限必要な事なの。恐らく、資産を全部差し押さえたとしても半分も回収できずに、本人達は自己破産をして終わりになってしまうでしょうけど……」
「そうなんですね……」
「それとだ。忘れてはならない事は、全てを無かったことにしようと既にヒットマンに狙われた事実もある。私としても徹底的に追及するのが正しいと思う」
「先生…… 解りました。すべてをお任せします。徹底的に争って下さい」
こうして私はその後の事を全て原田先生に任せた。
辛い状況にはなるけど、私が大学を卒業して就職をするまでには十分な額の金額も残っているんだし、深く考えない様にしよう。
その日は近所のスーパーで食材を買い込んで、美鈴さんのマンションで先生と三人で食事をした。
松阪牛を買ってすき焼きパーティをした。
とても美味しかったけど、これからの事を考えると気が重いな。
◇◆◇◆
翌朝、綾瀬さんが迎えに来て一緒に学校へと向かった。
パトカーで通学は勘弁してほしかったので、一緒に電車に乗り駅から学校までは歩いた。
学校の門が見えた辺りに来た時だった「さやか。この恩知らずがぁあ」そこには伯父さんと叔母さんが二人で立っていて、私に掴みかかろうとして来た。
当然のように綾瀬さんが、私を庇う様に立ちはだかった。
そこに更に…… 暴走車が伯父と叔母の後ろから突っ込んできた。
綾瀬さんが咄嗟にに私を突き飛ばす。
私は大きく転んだけど怪我は無かった。
暴走車は、伯父と叔母それに綾瀬さん迄巻き込んで電柱に激突した。
伯父と叔母は10m以上も跳ね飛ばされ、恐らくこれは即死だ。
綾瀬さんも足は変な方向へ折れ曲がり、口から血を吐いていた。
通学時間の校門の側で起こった惨劇に辺りは騒然としている。
電柱にぶつかって止まった車からは、警官を殺害して逃走していた東南アジア系の男がヨロヨロと降りて来て、走り去ろうとしている。
『さやか。私に任せなさい』
『ソフィア。お願い。綾瀬さんを助けて』
私の身体を支配したソフィアが、まず聖魔法を殺害犯へとぶつけてその場に倒した。
そして、綾瀬さんの手を握ると『フルリカバリー』と唱えた。
すると、綾瀬さんの身体を光が包み込み、怪我は完治していった。
破れた服はそのままだから、下着とか色々見えちゃならない物が露出してるけど……
辺りは騒然としたまま通学途中の生徒たちが遠巻きに取り囲んでいる。
私が綾瀬さんに「大丈夫ですか? 痛くないですか?」と問いかけていると、学校側から先生たちが5名程走って来た。
担任の杉下先生も居た。
「遠藤さん。大丈夫? 怪我は無い?」
「はい大丈夫です」
そう返事をしているうちに、パトカーや救急車が次々と到着して、伯父と叔母、殺人犯、そして綾瀬さんを搬送して行った。
その間に私は原田先生と美鈴さんに連絡をする。
私も再び警察へとパトカーで連れて行かれる事になり、超目立ってしまった。
パトカーへは杉下先生も一緒に乗ってくれて、警察へと到着すると原田先生と美鈴さんも既に到着していて一緒に話を聞く事になった。
昨日の刑事さんと同じ人が話を聞いてくれたので、事情は粗方把握していてそう時間は掛からなかったが、また学校休まなきゃいけなくなったじゃん。
私……進級できるのかな?
◇◆◇◆
結局、伯父と叔母は助からなかった。
殺人犯と伯父との繋がりも何の証拠も残っていない。
殺人犯は警察での取り調べを受けてはいるが、恐らくプロだろうからこの先も何も話す事は無いだろう。
「警官も殺害しているし、日本の法律で裁かれたとしても死刑以外は無いだろう」と、原田先生は言っていた。
良かったのかどうかは別として、私に対して1億5千万程の横領容疑があった伯父と叔母は、弁済の義務があり、二人の生命保険もそれに充当される事になった。
本来の受取人である二人の遺族は、遺産相続をしてしまうと私に対しての返済義務も負ってしまうので、資産と負債のバランスを考えると相続放棄を選択した。
そして、私の手元には満額とはいかなかったけど、1億5千万円程の金額が戻って来た。
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