11:王都へ
隠者の森から数十分。
王都メラディシアンの外壁沿いを歩きながら、ようやく王都メラディシアンの入り口の一つに辿り着いた。
入口はイリヤの予想通り混雑しており、長めの待機列が出来ていた。
「ほ、本当に大丈夫なんですよね?」
艶のある赤髪の上にピンク色のリボンがついた帽子をかぶり、貴族階級のお嬢様が着ていてもおかしくはない服を着て、それに見合う靴を履き、顔の汚れを落としたイリヤが心配そうに俺に訊ねた。
「安心しろ、大丈夫だ。見ろ、この列の誰もが、俺とイリヤを仲の良い兄妹だと勘違いしている」
後ろから「誘拐か?」とか「可哀そうに」とかひそひそ声で聞こえてくるのは気のせいだ。
「誰もが勘違いしていそうですね。それよりも、手を繋ぐ必要あります!?」
仲の良い兄妹に見せる為に俺達は手を繋いでいる。
どう見てもしっかり者の優しいお兄さんと、お転婆可愛さ増し増しな妹だろ。周りの奴らは目が曇っている。
「迷子になったら困るだろ」
「なりませんよ!そんな子供じゃないですよ!」
「いや、俺が」
「リヴェン――お、お兄ちゃん。が、ですか」
顔が赤くなっているのを見られたくないが為に、帽子を深くかぶりなおしつつ言う。
ほら、見てください。外でお兄ちゃんって言うのが恥ずかしいんですよ。可愛いでしょう、うちの妹。
と思いつつ、周りを見ると、痛い人物を見る目で見られていた。あと、殆どの人間が引いていた。
どうしてこうなったのでしょうか。それは一時間ほど前に遡る。
「何を言っているんですか?」
俺の発言にイリヤは馬鹿ですか?と目で訴えていた。
「聞こえただろ?さ、準備しないとな」
「待って、待ってください。最初に言っていたことと違いますよ!約束を破るんですか!」
接続を解除しようと立ち上がった俺の袖を引っ張ってイリヤは止める。
「約束は守る。イリヤは俺が守る。なのでイリヤを放っておいて、俺だけ王都に行けないだろ?だからイリヤも王都に行くんだ」
「や、意味不明ですよ。どうして王都に行くんですか?」
「そうだな。知識不足と魔力不足だ。今のところ人に接したのは数人程度、しかもそこまで友好的じゃない。知識を得ても図鑑程度だし。魔力も必要だし、これじゃあ、この先やっていけない。だろ?」
「魔結晶探知上げたじゃないですか」
「金の鉱山なんて掘りつくされているものだろ。実際なかったし。だからまずは王都に行って、魔力を補給する」
「奪うんですか?」
「そんな輩染みた事はしない。すればイリヤの身に危険が及ぶし、俺もいい立場にはならない。ちゃんと金を稼いで魔結晶を買う。そうすればコミュニケーションもできて、世間の事も知れるし、魔力も補給できる」
「住所不定無職で胡散臭さが漂う人に仕事がくればいいですね。まぁそもそも王都に入ることすら無理ですけど」
酷い物言いだが事実だ。胡散臭さが漂うは心外だがな。
イリヤは何も知らないんでしたよね。ふん、と鼻を鳴らした。
「検問だろ」
「そです。そゆのは知っているんですね」
「昔からあるシステムならな。検問は通れるから安心しろ」
検問に関しては、ちょっと強引になるかもしれないが、解決するであろう。
「じゃあイリヤは顔と身体を洗って汚れ落としてきて」
「わ、私は行くとは」
「王都に入ってみたくないのか?見た事もない魔遺物があるかもよ?そして俺がお金を稼いだら買ってやるぞ」
「ぐっ、ぬぬぬ」
滅茶苦茶悔しそうな顔をして考え込むイリヤ。俺の甘言と自分の理性を天秤にかけているのであろう。
「美味しいごはんもあるだろうなぁ、楽しそうな娯楽がより取り見取りなんだろうなぁ」
天秤に錘を追加する。イリヤの天秤が甘言の方にガクンと落ちた。
「わかりました。わかりましたよ!行きます、王都に行けばいいんでしょう!博物館に行きたいです!」
「おう、連れて行ってやる。で、だ、イリヤの服を貸してくれ」
「え」
「俺はイリヤみたいな少女に興味はないから安心しろ。変な期待させてすまなかったな。その服を治すんだよ、だから貸してくれ」
脛をバシバシと蹴られる。
誰も魅力がないとか、容姿が悪いとか言ってないんだけどな。なんでここまで怒りを顕わにするのか疑問に思うね。
「ほら見てないから、早く身体を洗ってきてくれ」
「見たら目に砂ねじ込みますからね」
「見惚れるもの何も持ってないだろ」
イリヤを見ない様に後ろを向いていたらスコンと後頭部に小石がぶつかった。まぁ今のは俺が悪いので甘んじて受けよう。
スルッと絹が肌に擦れる音が聞えた後に、足音が洞窟内に響き、泉の中に何かが入る音が聞えた。
イリヤの服を手に取って魔分子修復で修復する。
服は可愛らしい上品な服に戻った。あと、服の繊維についていたのか、ピンクのリボンがついた帽子も修復された。
見た目はこれで良しとして、においをどうするかなんだよな。
水で洗ったところで、王都に合ったにおいになるかと言われば否。どうするかな。
『検索。検証。結果。解答。植物諸事録から検索し、ご主人の視界情報と照らし合わせたところ、柑橘系の香料の材料となる実や花を発見。それらを、ろ過を使用し、小火、保存を合わせれば、香料が出来上がります』
凄いぞ玉座!偉いぞ玉座!王都に連れて行けないのが残念だ。
王都に行く間はスリープモードにしてから壁を作って玉座を隠しておく。
ここに置いて行くのは危険だけど、安全と言える場所があるのかと言われると、どこも危険なので、一番危険じゃない場所であり、俺にしか迷惑が掛からない場所はここしかない。
そういえば接続解除時の俺自身の魔力反応はどうなるんだ?
『解答。今より少し小さくなります』
それじゃあ駄目なんだよな。
俺自身が魔力を押さえる事はできないのか?昔はスキルを使ってやっていたから、出来るか怪しんだよ。
『解答。体内に保存を使用し、魔力吸収を保存内に使用すれば、事実上魔力感知に感知されない程の魔力になります』
お前本当に頭良いな!保存って体の中に作っても大丈夫なのか?
『解答。保存はご主人の外皮、内皮、胃などの臓器として使用することが出来ます』
そういう使い方もできるのね。今後の参考にさせてもらおう。
『返答。お褒めの言葉、感謝します』
じゃあこれから行おうと思っている予定全てを予測して、合計の魔力消費時間と活動限界時間を教えてくれ。
『検証。・・・検証中。・・・検証中。・・・検証中。・・・終了。結果。提示。解。魔力消費時間は二時間二十七分。解除後の活動限界時間は十二時間七分。総合活動限界時間は十五時間四十八分です』
斧と手袋の魔遺物を吸収しただけでかなり増えてないか!
あの手袋結構魔力を保有しているんだな。他の奴のも吸っておけばよかった。
これならもしも、もしもだぞ。戦闘をする場合があっても魔力が底を尽きることは無いな。
とりあえず香料から手をつけるか。
外に出る際に、俺のローブを千切って作ったタオルをイリヤに渡すと「変態!」とか言っていて水をかけられそうになったので、早足で香料の材料を探しに出かけた。
香料の材料を採取し終わるとイリヤは着替えており、馬子にも衣装とはこのことだった。
それから香料を作って、俺とイリヤに振る。
初めての香料製作は少し失敗であった。ニオイがキツかったのだ。
接続解除後の魔力も玉座に言われた通りにやってみると、出来た、らしい。
注意事項として、定期的に魔力を体内に戻さないと活動時間切れになるらしい。
それは保存に一時間ごとに極々小さな穴を開けて対処することにした。
そして玉座を隠し、洞窟の入り口もより入念に隠して、いざ出発。
と、言う感じで、道中隠者の森の派閥説明や貨幣価値の説明を受けながら王都へとやってきたのだ。
無事王都から帰還出来たら今度は隠者の森の西側や南側に行ってみようと思う。
イリヤの靴は集落から持ってきてもらった女児の靴らしきのを修復した。
王都に行くとは言わず、また集落を出てきたので、イリヤは叱られるのであろうが、俺には関係ないことだった。
「や、やっぱり変ですよ」
道中で周りの人間から怪しまれない様に兄妹だという設定にしておこうと取り決めたのに、イリヤは俺の事を兄と呼ぶのが恥ずかしいようで、周りの目を気にしている。
「イリヤは奴隷じゃないし、誘拐された子でもないだろ?その設定がいいならそうするけど」
「いっ、や、やです。リヴェンさんはお兄さんです。私の兄です。そうなんです」
自分に言い聞かせるように言うイリヤ。そんなに嫌か?傷つくぞ。
「それで、どうするんですか?順番回ってきますよ」
「これの事を心配しているのか?」
手にある通行許可証である紙を二枚見せる。
「ど、どうして!どうやったんです!」
周りに聞こえない様に小さな声で言う。
あまり大声では言えないがイリヤと俺が注目を集めていた時、前にいる男が持っていた紙の切れ端を破り取った。
後ろにいる俺達を確認してから、興味が薄れ、周りも視線を変える瞬間に破ったのでバレるリスクは低い。バレたらぶつかって謝ればいい。
で、破った切れ端を、もう一回千切って、二つになったのを魔分子修復で治す。これで通行許可証が二枚出来上がる訳だ。
「あとで話す。はい、無くすなよ」
「む、また子ども扱いしましたね」
「一度もイリヤを子ども扱いしていないぞ。お姫様扱いはしているけど」
「どこがですか、どこが!」
呆れた様子で俺の手から通行許可証を受け取った。
渡したところで、前の男の処理が終わり、俺達の順番が回ってくる。
「許可証を」
検問所の中にいるゴーグルをつけた兵士に言われ、手に持っている許可証を見せる。イリヤも背伸びをしながら検問官に見せた。
兵士のゴーグルが光って許可証を認識する。あれもまた魔遺物の一つだろう。
「よし、行っていいぞ。次」
何事もなく検問所を通ることが出来た。
イリヤは緊張していたのか、表情を強張らせながら、繋いでいて手に、しっとりと手汗を感じられた。
それも壁内に作られた歩道用通路を歩いて抜けた時には、花が咲いたような満面の明るい表情に変わっていた。
そんな表情を見て、多くの人が住まう大都会、王都メラディシアンへと入ったのだと実感できるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます