10:国外も動きます



 昔、昔、約二百七十年前程の昔。


 この世界の四大大陸の一つスヴェンダ大陸へと織田信長という転移者がやってきました。


 敦盛を演じているところ、武芸団の前に現れた初老の男。


 それがスヴェンダ大陸を統べる男になるとは誰も思いもしませんでした。



 信長様は類まれた戦争知識、武術の技術、年齢にそぐわない体力。


 これらの力を生かしてその武芸団の指揮者となり。手始めとして国盗りを開始しました。


 武芸団は極小国家を落とし、近隣諸国を堕として、一つの国になりました。


 その名も日出国。


 その頃には信長様は転移征服者、または大陸魔王と称されており、スヴェンダ大陸を制していました。


 野心家である信長様は隣国となった旧パラド共和国に攻め込むも、勇者グランベルに阻まれます。


 結局勇者グランベルと打ち解けて、パラド共和国と和平を結びます。


 その和平が無くなったのは信長様、勇者グランベルの死後。


 それはまた別の話。



 信長様はスヴェンダ大陸を五十八地域に分け、信頼できる者に統治を託しました。


 現在はその内三十二地域が信長様の血を引くものが統治しています。


 その中でも直系の織田家は四地域。


 四地域を治める、信延様、信久様、信定様、信千代様は信長様が持っていた特別なスキルを保有しています。それが直系たる証です。



 信長様のスキル延命長寿は自分の寿命を始め、万物の命を伸ばすことが出来ます。


 他にも色々出来るようですが、直系たる織田家の統治者しか真相は語られていません。



 暖かな日差しを受け、座敷でうっつらうっつらとしていると稚児の頃から聞かされていた話を思い出した。


 考え事をしていたら軽く寝ていたようだ。



 眠気を払うと、寝る前にかけていた通信が返ってきていた。


 通話状態にして通信に出ると、モニターに兄弟の顔がマルチに映し出された。



「信延、見たか?」



 最初に話したのは五男の信久。


 青色に髷を染めて、グリズリーの毛皮を羽織った武骨な男。武士よりもヴァイキングと称した方が適している。



「見たぞよ信久。突然だったの」



 それに答えるは八男の信延。


 黒い眼鏡、サングラスを着用して、焼けた肌に細身だが引き締まった筋肉が太陽の光を反射させている。



「唐突だったな。どうする信定」



 信延が長男であり、スヴェン大陸の現統治者である俺、信定に振る。



「まずは確認するに限る。信千代に任せればいい」



「その信千代は?」



「路銀だけを握り、既に早馬で発った」



「ぬはははは、信千代は抜け目ないの!ではわし等は座して待つかの」



「俺は寝て待つ」



 そう言うと映像通話で繋がっていたモニターの電源は落ちて、隻眼が目立つ信定の顔がモニターに反射する。


 隣国であるメラディシアン王国の隠者の森から突如発生した魔力に、我が日出国の世界魔力探知図が反応した。


 我が日出国でも滅多に目にかかれない反応に兄弟全員興味を示したが、行動に移したのは十三男の信千代だった。


 信千代は未だに領主としての自覚がない。


 興味があれば手形を持ち、何処へでも一人で行く。


 総祖先である信長様と同じく、大うつけ者よ。信長様よりは資質はないのが難点だが。



 しかしあの反応を見るやに・・・いやはや、憶測で物言うのはよすか。信千代の報告を寝て待つだけよ。



 信定は座布団を枕にして座敷の窓から受ける心地よい日差しを睡眠剤にして眠りに落ちるのであった。



     _________________________________________________________




「一!」



「「「「押忍!」」」」



 一人の掛け声に、総勢五百人程の人間が答えて、右手の正拳を突き出す。



「二!」



「「「「押忍!」」」」



 次の掛け声で同じように左手の正拳を突き出す。



「一!」



「「「「押忍!」」」」



「二!」



「「「「押忍!」」」」



 その行為を既に四百九十回は繰り返していた。


 汗水が胴着をびっしょりと濡らし、吸収されなかった汗水は水溜まりとなって、彼ら彼女らの足元に出来上がっていた。


 しかしここにいるもの誰も音を上げず、倒れる事もなく、掛け声を出す師範の声に応えている。



「止め!」



 五百回を超えたところで師範の声でピタリと止まる。



「休め!」



 全員が寸分狂わず休めの態勢になる。



「休憩三十分のち聖堂へ集合!解散!」



 胸の前で手を斜め右上に突き出す敬礼をすると、全員が同じように敬礼をした。


 師範は壇上から降りて武道場を出た。



 ここは魔術教会総本山、ユクタム。


 険しい山々に囲まれたゼロミィ山脈の中にあるとされている。


 どの国のどの場所にあるかは、魔術教会の人間に聞かないと噂程度でしか誰も知らない。


 ユクタムは古来から人間の血に流れてきた魔素を高めるために各地から信者である魔術師が集まる聖地である。



 魔術は魔遺物と共に滅びたとされている。


 それは全て魔遺物という利便性の高い物に人間が手を付けたせいだ。


 魔術を極めれば、魔遺物など必要なく、健やかな身体を持ち、安定した精神を得られることが出来る。


 魔遺物なんてものは邪道であり、人類が手にするものではなかった。


 勇者は世界を救ったが、人間を救えなかった。



 魔術は最後の希望であり。魔遺物は絶望を齎す悪魔の諸物。


 それが魔術教会の教えである。



 魔術教会は各地に点在しており一つ一つに優れた師範代がいる。


 総本山には師範代よりも上級の階級を持ち、魔術の極みである魔法を探求する師範がいる。


 師範は十二人おり。師範になるには数々の修業と成果を上げなければいけない。



「ウォーカー師範!」



 そんな魔術教会総本山ユクタムの師範の一人である、ハクザ・ウォーカーは魔術管理課の修行者に声をかけられて、足を止めた。



「そんなに慌てて、どうかしましたか?」



「これをご確認ください!」



 修行者は一枚の白い紙を取り出す。


 この紙は念紙。念じたものを紙に書き写すことができる魔術が練られた素材で作られた紙。


 それを額に当ててハクザは魔術で読み取る。



「これは、いけませんね」



 読み取った内容はメラディシアン王国に驚異的な魔力反応。


 魔術でできた反応ではなく、魔遺物。


 この大きさの魔力は害意しか感じられない、魔術教会の理念に反している代物だった。


 ハクザは念紙に新たに書き込む。



「これは全ての師範に伝えていますね?現地の反応はどうですか?」



「はい!全師範にお伝えしています!現地ではリューベルト師範代が対応に当たられるようです!」



「彼ですか」



 少し心配ですね。と頭の中で思ったが、念紙には書き込まれなかった。



「出来ました。これをゲンドウ最高師範へ」



「了承致しました!では、失礼します!」



 敬礼をして修行者は早足に去っていく。



 魔術教会が発行する魔術新聞ユクタイムズ紙において、ハクザ・ウォーカー師範はこう語る。


 魔遺物の印象、ですか。それは最悪ですよ。使用している人物達を見ると説き伏せたくなりますね。


 魔遺物は悪魔の代物です。依存性が高く、一度使用すれば体を蝕み、人としての能力を著しく失わせます。


 私達は、魔遺物は受け入れません。


 ですが、魔遺物から解放されたい人達は、いつでも快く受け入れます。


 体の中の邪を払い、己の体に流れる魔素を高めましょう。


 そして魔遺物に支配されない体と精神を作り、共に魔遺物を世界から撤廃しましょう。



 修行者を見送ってハクザは旅支度をする為に自室へと向かいながら、腹の中で煮えたぎる感情を口にするのであった。



「魔遺物は私が全て破壊します」



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