7:スキルを収得しました
帰りはイリヤに気を使い歩いて帰った。
大体五分程度で泉へと戻って来られた。
ぶち壊した入り口を石で固めておく。ついで木の枝や、葉っぱで上からカモフラージュして完成。
人工的な入口になったのはご愛嬌ということで、俺はこういった作業は不得意なのだ。
仄かに明るい洞窟内に戻り、玉座がある広間までやってくる。
カモフラージュを作っている時に見つけた丸めの木を玉座の対面に置いて、イリヤの座る椅子を作ってやる。
それから玉座に座る。
にゅっと、背もたれ部分からチューブが出てきて、背中に接続された。
『接続。接続完了しました。接続状況100%。お帰りなさいませ、ご主人続いて情報を更新します。・・・更新中・・・更新中。・・・更新完了。収得したスキルが二十一個あります。確認しますか?』
二十一個?食べた魔遺物の数と合わないな。気になる、頼む。
『スキル名魔結晶探知。保存。魔分子修復。地図展開。小火。ろ過。小刃。小波動魔器。温度計測。時刻提示。日付提示。望遠。熱分布図望遠。地質計測。動物諸事録。植物諸事録。魔物諸事録。勇者伝記。蛇腹剣顕現。位置探知。熱探知を検知しました』
やっぱり増えてないか?保存ってなんだ?
『解答。保存は物を保存することができます』
イリヤが何の魔遺物か分からなかった魔遺物は何かを保存していた魔遺物なのか。
で、それが魔分子修復ってスキルになっているんだよな?
『解答。魔分子修復は魔力で出来た魔分子を物体に注入し、その物体を元に修復できます』
偉く科学的な医療技術だこと。
次だな。熱分布図望遠は?
『解答。熱分布図望遠は視界を望遠に加え、熱量で見ることができます』
これは分りにくいな。一回試しておくか、熱分布図望遠。
視界が目の前に座って暇そうにしているイリヤの可愛らしい顔のアップに変わると同時に、熱が分布された世界へと変わる。
熱分布ってサーモグラフィーかよ。そんな知識はない。
あ、でもこれ夜とか暗闇では便利だな。地形も把握できるし。
自分がやめると思うと視界は元へと戻った。
こんな魔遺物は食べてないけど、どうして収得したんだ?
『解答。魔力探知、温度計測、望遠を所持したことにより発現したと思われます』
ほう。一見必要のないスキルでも所持していれば、勝手に合体して新たなスキルになるのか。
あのゴミ山、ではなく宝の山をもっと食べればよかったな。
蛇腹剣がダントから貰った柄で、位置探知は、柄のどこかに付属していたんだろう。
やっぱり信用ならない。が、おかげでいいスキルを貰ったぞ。
これは特定したものを探知できるのか?
『解答。熱探知と併用して使用すれば、動物または魔物を探知可能です』
いいねぇいいねぇ。面倒事に巻き込まれずに済むじゃないか。
どれどれ、試しに熱探知と位置探知。
魔結晶探知みたいに立体的ではなく、平面的な画面が頭の中に浮かび上がり、俺を中心に波紋が広がっていく。
結果、問題を見つける。
画面の端が集落だった。集落のあった場所に四つの大きな熱反応があるので間違いない。
探知範囲は八百メートルあるかないか位か?森の中には小粒程度の反応がチラホラ、偶に中位二つあったりするのは動物だろう。
問題はこの洞窟の周りに四つ大きな反応があることだった。
お前もこの反応見えているんだろ?人だと思うか?
『解答。熱量の変化、動作を見るに人だと思われます』
だとすればマズいよな。
ここにはイリヤがいる。
一応イリヤを守るが、守り切れずにもしイリヤの奇跡スキルが発動すれば何が起こるか不安だ。
吐しゃ物が固形物になって出てくるんだぞ。イリヤが死ぬ予定が、俺が死ぬ奇跡になってもおかしくない。なので、イリヤを巻き込んだ戦闘は避けたい。
一番いいのはイリヤを一人でこの洞窟から集落へ帰す事。
イリヤ一人が襲われたら奇跡スキルでなんとか集落まで帰れるだろう。
しかしイリヤを脅威から守ると言った手前、そんな事をすれば俺の立場が危ういし、少ない良心がその行動を許さない。
接続解除後の俺の活動限界時間と、総合活動限界時間はどのくらいだ?
『検索。提示。解答。解除後の活動限界時間は五時間三十七分。総合活動限界時間は八時間四十分です』
予想外に増えていた。
あの防衛魔遺物を三つともすっからかんにしたのが功を奏したんだろう。
スキルも増えたから質問するのだが、これらのスキルは魔力を消費しているんだよな?
『解答。出力によって変えられます。スキルは吸収した従来の魔遺物の十分の一の魔力で使用しています』
今持っているスキルで一番消費量が大きいのから小さのまで羅列して、それぞれスキルを一時間使った場合の活動限界時間の消費量を算出してくれ。
『検証。・・・終了。検査。・・・終了。結果。提示。解答。小波動魔器、一度打ち尽くすまで計算に入れ、消費量ニ十分。熱分布図望遠、消費量十八分二十秒。蛇腹剣顕現、破損欠損は配慮せず十五分二秒。魔結晶探知、二分二十三秒。位置探知二分十八秒。熱探知二分十七秒。小火、二分。望遠。一分五十二秒。地質計測、温度計測、一分三十秒。地図展開、現在の地図で一分八秒。ろ過、四十七秒。時刻提示、日付提示、三十二秒。小刃、破損欠損は配慮せず三十秒。諸事録、植物諸事録、魔物諸事録、二十三秒。勇者伝記、十一秒。保存。零コンマ零八秒。魔力吸収は使用せず。魔力感知、遺物吸収においてはご主人が元から持っているスキルですので、使用時に魔力は減りません。魔分子修復は修復物体によって消費量が変化するので明確はできませんでした』
俺の腕が剣で斬られて、落ちた。それを直ぐに修復するとどれくらいだ?
『検証。終了。結果。提示。解答。消費量は五分九秒です』
腕が落ちて五分か。長いのか短いのか比べようがないな。
じゃあイリヤの座っている木を木屑程粉々にした場合はどれくらいだ?
『検証。終了。結果。提示。解答。消費量は十二分四十八秒です』
腕を戻すよりも時間がかかるのか。
正直お前がずっとこうやって喋ってくれていたらいいんだけどな。
『返答。接続していただければお望みは叶えられます』
お前を背負うのは滑稽だが、俺、パワー系になったから背負ない事もないんだよな。
これは目の前の問題が片付いたら追々考えるか。
スキルの消費量と活動限界人を聞いて名案も思いついたことだし。
俺が現代の人間と戦って勝てると思うか?
『解答。ご主人なら赤子の手を捻る程度でしょう。ただ、勇者のパーティーにいた魔法使いや神官クラスになると現状は怪しいです』
武装していたり、スキル持ちにはいい勝負ってところか。
この周りにいる奴らを魔力感知で感知してみると、微量ながら全員魔力を帯びていた。
何かしらの魔遺物を持っていると認識する。
「確認、取れましたか?」
イリヤが痺れを切らして質問してきた。
俺が玉座と話し込んで何分経ったのだろうか?
あ、十二分も経ってるの?そりゃ痺れを切らすよな。
「イリヤが調べようとしていた魔遺物の内容が分かったよ」
ダントの事は黙っておこう。
いらない不和を生みかねないし、俺が今からする対応に邪魔になるだけだ。
「本当ですか!何だったんですか!」
イリヤは目を輝かせて立ち上がった。
魔遺物って単語だけ言っていると、釣り針に餌を着けなくても、針だけに食いつくブルーギルのようだ。
「答えは玉座の裏にある」
訝し気な目で見られた。流石に疑うか。
「いいの?玉座の裏に来なくて、答えはそこにあるんだよ?」
ぐぬぬと歯を食いしばりながら渋々イリヤは玉座の裏へやってくる。
愛いやつめ。
「何にもないですよ!騙しましたね!って!何です!何です!」
玉座の裏へ行き、暗がりの中、目を凝らして答えを探していた阿保の子イリヤちゃんを、魔分子修復で修復した壁の中に閉じ込める。
玉座の裏は元々壁があったであろう。
思惑通り、あった訳で、イリヤを包み込むように壁を作って閉じ込めた。
問題の一つが解決したわけだ。今のでどれくらい?
『検査。終了。結果。提示。解答。二十五分です』
やっぱり元々無いものを魔力で補い修復するから、こういうのは結構持っていかれるのか。
まぁイリヤを巻き込んで、俺が死んでしまう事になる方が大問題なので、価値のある消費だ。
「これがイリヤの調べたかった魔遺物の力。ちょっと暫くそこにてくれ。イリヤを巻き込んだり、傷つけたくないだけだから」
「や、意味が分からないんですけど!?何を言っているんですか!暗いですよ!真っ暗ですよ!」
やんややんやと文句を言っている。
空気穴もないのによくはしゃぐことだ。
俺はすうっと大きく息を吸う。
そして腹に力が溜まったと感じたら、吸った息を声と共に放出した。
「周りにいる四人!洞窟に入ってきなよ!話をしようじゃないか!」
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