6:もう帰るよ
集落の奥には、それぞれの作業場のようなものが立ち並んでいた。
その中の作業場でも一際際立っている作業場にイリヤは入って行く。
作業場から魔遺物が流れ出ているんだけど、ゴミ屋敷か?
「時間ないんですよね?」
中から催促する声が聞えたので作業場の中に入る。
「うわぁ」
つい声が漏れた。
作業場の中は足の踏み場もないくらい魔遺物やガラクタが散乱していた。
だけど作業机の上だけは妙にきちんと片付けられている。
イリヤは「これじゃない」「これでもない」と言いながら、ゴミ・・・ガラクタの山の中を散策していた。
「なぁ結局俺は歓迎されているのかな?」
「感じている通りです。あ、でもダントは本当に歓迎していますよ。魔遺物大好きですから」
まだ探しながら返答する。
それって俺の中にある魔遺物を歓迎しているだけなんじゃないか?と無粋な事は聞かないのが大人。
「この集落には五人しかいないんだ?」
「そですよ。若い人たちはいません」
「なんで若い奴らはいないんだ?徴兵?」
「隠者の森にいる人達は徴兵されませんよ。単純にここの集落と肌が合わなくなっただけです」
そう話すイリヤはどこか寂しそうだった。
「あ、ありましたよ。これが魔結晶探知遺物です」
ピンポン玉程度の青い球体を俺の前まで持ってきた。
「これで魔結晶を探知して、魔力を吸収しましょう。そうすればお金も必要ないです」
「それの探知範囲とかはどれくらい?」
「えぇっと、この大きさなら、大体二キロメートルですかね。使い方は――」
「おっけー」
俺はイリヤから魔結晶探知遺物を取り上げて早速飲み込んだ。
頭の中で玉座の声はしなかった。これ玉座と繋がらないとスキル名分からなくね?
「説明しているじゃないですか!それで、使えますか?」
当てずっぽうで言ってみるか。
魔結晶探知!
身体がブルっと一度震えた。
すると頭の中で立体的な球体に波が広がっていくのが見えた。
波はある一定の所で消え、頭の中に映し出されている映像に光が点滅する。
この場所の近くに疎らに光がある。
左上の方に幾つもの光が輝く場所と、右の方に大きく輝く光があった。
なるほどなるほど、ソナーみたいな感じか。
近くにあるのが、この集落にあるもので、上にいっぱいあるのは王都だよな?
だとすれば右にあるのは手つかずの魔結晶って事か?
うーん。これ立体的だけど地形まで把握していないから分かりにくいな。
「使えた。ここ近辺と王都。んで右の方に大きなのが一つ。正直分かり辛いから、地図や地形を把握できる遺物ってない?」
「・・・」
「おーい」
「はっ!寝てました!最新の地図はありませんが、五十年ほど前のならばありますよ。えーっとどこにやったかな」
あからさまな嘘をついて、またガラクタの山を散策する。
嘘をついたので、罰として作業台にあった菱形で赤と黄色に色分けされている魔遺物を食べた。
物凄く苦いんだが・・・何の魔遺物かは帰ってから確認するか。
「ありました、これですね。これを、こうすると」
細丸い物体が二つついた魔遺物の、細丸い部分を持って引っ張ると、薄い粘膜のようなものが出てきて、その粘膜に地図が投影された。
巻物とかじゃないのか、これコンパクトだし便利だな。食べるけど。
「駄目ですよ。まだです。お預けです」
めっと言いながらイリヤは地図を俺から奪われないようにした。
「奪わないよ。約束する」
疑いの目を向けながらもイリヤは地図を作業台の上に置く。
「ここが私達のいる集落で、ここが王都です。それで先程右にあると言ったのが、ここです」
イリヤが指す場所の名前はヨーグジャ墓地と書かれていた。
「墓地に魔結晶があるの?」
「いえ、五十年前は墓地でしたが、今は廃品回収隠者の拠点になっています」
「そういうことね。じゃあ少なくとも二キロ内には天然の魔結晶はないと」
「そうなりますね。あ、どうぞ、まだあったので」
「じゃあ遠慮なく」
地図を戻してから飲み込む。
地図!と、唱えも発動しない。
さっきのように単純じゃないのか?地図展開?とか?
おっ。
頭の中で地図が浮かび上がる。
瞬間記憶術を覚えたみたいで面白いな。
この地図は王都メラディシアンを中心に作られているようだ。
王都の下に隠者の森があって、上の方はキュロス山脈が連なっている。
右側にはソニュー平野と大きな河川として重宝するリュート河川。川の周りには村々があり、地図の端の方にはエルゴンと言う大きな街があった。
左側はギュロウメイ平原と海。港町ファーや、ゼラゴンとウェルゴンという大きめな街。後は疎らに村々。
地形は変わっていないが、元々あった魔族の村や町が人族の住処になっている感じだった。
基盤があったら、そこに作るわな。
「どです?」
「いい感じ。もっと余っているのをくれ。あと有用性のあるやつ」
全部と言っていたが、ここにあるのを全部食べたら怪しまれそうなので、限定したものだけを食べて行こう。もちろん、口に入って喉を通るやつ。
「りょです」
それからイリヤが出してきたのは、吹いたら消えそうな程しか出ない点火器。
口の中で燃えないか心配だった。
三十ミリリットルはある程度ろ過できる、ろ過機。
大き目だったのでえずきながら呑んだ。
衝撃を与えるとナイフが飛び出す魔遺物。
これもまた中で飛び出さないかヒヤヒヤしたけど、なんとか飲み込めた。
壊れて動かなくなった扉の前にあった防衛魔遺物よりも一回り小さいやつ。
これが一番苦労した。
温度計。
前述のものが喉につかえたので、これで押し込んでいるところ、ドジっ子のイリヤが手を滑らせて一緒に入っていった。
四十年前のカレンダー付き時計。
多分ズレはないとのこと。
目に張る双眼鏡。
倍率は三から八まで調整可能、レンズの大きさの内容量は二十一らしい。
魔遺物の中で処理されているようだ。
地質調査棒。
伸ばせば十メートルだが、伸ばさずに飲んだ。
記録媒体一。動物のことが書かれた媒体。
百年前のもの。
記録媒体二。植物のことが書かれた媒体。
二百年前のもの。
記録媒体三。魔物の事が書かれた媒体。
百五十二年前のもの。
記録媒体四。勇者の伝記。
胸糞悪いが、歴史書なので食べる前に軽めに読んでおいた。
勇者は魔王討伐後に旧ロヤイザス王国の領主となる。
六人の妃と十七人の子宝に恵まれる。
しかしロヤイザス王に殺されかけて国外逃亡。
身を守ってくれたのが現メラディシアン王国になるパラド共和国。
そこでロヤイザスに反旗を翻して勇者が新たに作り上げた兵器、魔遺物を使い打ち滅ぼす。
マジか、あいつ、人と人の愛とか謳っていたのにマジか。
パラド共和国の大統領となり、それからも転移征服者ノブナガや隣国と争いながらも往年安らかに逝く。
うーん、この糞勇者、やっぱり俺の手で屠ってやりたかった。
それにしても魔遺物は勇者が作ったのか。要らない事しかしねぇな。死なねぇかな。
時間もないので気になった名前は見なかったことにしておく。
「あれ?ここにあった魔遺物」
魔遺物を吟味しているとイリヤは作業台の上にあった魔遺物が消えている事に気が付いた。
作業台の上をくまなく探して、下も他の必要の無さそうな遺物を投げ捨てながら探す。
そして腰を上げてジトーっとした目で俺を見た。
「答え聞きたくないです」
「そう。俺が食べた」
「聞きたくないって言いましたよね!」
「そうか?なんか聞きたそうな顔していたから」
「してませんよ!あぁ、私のコレクション達が変人の腹の中に収納されていく・・・」
コレクションと言う割には保存状態最悪だったけども。
俺のコレクションじゃないからどうでもいいけど、俺は綺麗に片付けるし、並べて眺められるようにするな。
「んで、あの魔遺物は何だったんだ?」
「わかりませんよ。それを調査しようと思っていたんですから」
ぷりぷりと頬を膨らませながら言うイリヤは愛らしかった。
「なら戻ってから教えてあげよう」
「もう戻りましょう。これ以上荒らされたくないです」
「あ、じゃあこれも」
「本当に怒りますよ!叩きますよ!」
そんな行動、俺には抑止力にならないけど、流石にこれ以上イリヤの機嫌を損なうのは得策じゃない。
「冗談だよ。じゃあ戻ろうか」
手に取った魔遺物を戻し、笑って言っても、イリヤは憎ったらしいものを見る目付きで俺を見るだけだった。
ゴミ作業場、もとい魔遺物の作業場から出る。
時計が起動出来たら正確な時間とかが判るが、例の如く起動できないので、大凡、十分くらい経ったと思う。
吸収した魔力も考えて残り十分程だろうか。
「ん?もう帰るのか?」
外へ出るとダントが奥の作業場から出てくるところだった。
「うん、帰る。色んな魔遺物が見れて楽しかったよ」
「そうかそうか。じゃあ土産と言っては何だが、お近づきの印としてこれ、やるよ」
縫い合わせて付けたポケットから剣の柄のようなものを取り出して、俺の手を握る様に渡した。
「ダント、いいの?」
「イリヤの初めての男友達だぞ。色目使わないでどうするんだよ」
「そ、そんなんじゃないよ!」
からかわれるイリヤを微笑ましく笑いつつ、俺は手に握っている剣の柄眺める。
柄頭には緑色の球体が取り付けてあった。
探知機とかの役割を果たす魔遺物っぽくはないな。
「ありがとう。俺からは何も返せないけど貰っておくよ」
「喜んでもらえたら何よりだ。今度、それを使うところを見せてくれ」
「じゃあ、私達急ぐから、あ、すぐ帰ってくるからね、心配しないでよ」
「お転婆お姫様は常に心配されるものですよ」
優雅にお辞儀をしてイリヤと俺を見送るダント。
イリヤが老婆へと報告をしに行った。
その間、作業中のベランから凝視されている。
ダントの言う通りお姫様は心配されているようで。
「行きましょう」
老婆の元から戻ってきたイリヤは言う。
「あの御婆さんは?」
「ナゴ婆の事ですか?私の乳母です。優しくて料理も上手なんですよ」
「ふーん」と言ってから、垂れ下がった目でイリヤを心配そうに見送っているナゴ老婆を横目で見て、俺とイリヤは集落を後にした。
帰り道は防衛魔遺物に狙われることは無かった。
顔認識を俺がクリアしたのか、元々イリヤがいるから通れているのかは確かめようがなかった。
「ベランってさ、軍人か何かでしょ?」
集落を出て、入り口が木に隠れたところで俺は会話を始める。
「そですよ。元王国軍に在中していました。よくわかりましたね」
「まぁ見ればね。んで、あのガラルドって老人はここのリーダー格でイリヤの親代わり。元軍人って訳じゃなさそうだったから、何か物事を教える仕事に就いていた」
「そ、そです。ガラ爺は元々教授でした。凄いですね」
ガラルド老人のイリヤに対しての話し方と他の人間に対しての話し方で予想した。
二面性がある仕事。
それで隠者がつける仕事。
敵を作りやすい性格。
研究者と言うよりも、教鞭を持っている方が合っている。
「んで、ダント。彼は色々と胡散臭いかな。好きなタイプじゃない」
「確かにそですけど、仲良くはして欲しいです」
「表面上はするよ。彼の素性は?」
「当ててみてください?」
今までの仕返しなのかイリヤは得意げに言う。
「・・・彼は、そうだな。あの集落の中で一番日が浅い新人だな。イリヤよりも浅い。 抜け目なく、傲慢。自分の意見を曲げたがらない野心家。恐らく素性は研究者」
あともう一つは筋の通った言い訳上手。
俺のやり口と似ているから、自己嫌悪の意味も込めて好きなタイプじゃない。
「おぉ、凄いです」
パチパチと拍手されても、あまりいい気分ではない。
ダントは帰り際に俺の手を包み込む様に握り、この柄を渡した。
その手口は人を安心させ、何か探りを入れる時の手口だ。
それにダントは「もう帰るのか?」と言った。
あの作業場では「戻る」と言う言葉しか使っていない。
なぜ「帰る」なのかは、話を盗み聞いていたからだろう。
ダントは俺が魔遺物だってことを理解していそうだ。
抜け目なく。傲慢。復唱しながら手にある柄を弄ぶ。
「これってなんの魔遺物?」
「それですか?武器ですよ。魔力が込められた手袋や衣服を着用していると、その柄に魔力が送られて剣になります。どんな剣なのかは起動してみないと分かりませんが、あのダントが物をくれるってリヴェンさん気に入られたんですね」
気にはなっているだろうな。
ダント自身が怪しいし、これがイリヤの言う魔遺物だと言う確証はない。
イリヤを信じていない訳ではない。ダントが信じられないだけだ。
なので手に持って帰るよりも、今、食べて分解した方が良さそうだな。
そう思いマジシャンが剣を呑む要領で柄を飲み込んだ。
「貰い物でも食べるんですね」
「貰ったら俺のだからな」
それがリヴェンニズム。
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