3:イリヤ語ります
さて、あいつの我儘を達成させるにあたって、俺がまずやらなければいけない行動をタスク化しておこう。
一つ。生き残った魔族を見つける。
まぁそもそもいるかは知らんが、魔力感知を使いながら世界を散策すれば見つけられるだろう。
二つ。魔力の供給。
一つ目に伴い最優先事項で解決しないといけない問題。
これを解決しなければまともに動くことはおろか、俺の生死に関わる。
この問題は迅速に解決しなければいけない。
三つ。現状の把握。
これも前述二つをやるに当たって大事な項目。
勇者が世界を救った英雄ならば魔族である俺は世界の敵であろう。
現、世界の知識をつけたいところだ。
まぁ大雑把に分けるとこうか。
これらを解決するには情報源が必要で、その情報源は今、目の前にいるし、玉座もある。
『返答。この洞窟外の情報はご主人が最新化してください』
俺が外に出て見聞きして来いって事ね。
つまりお前は外の情報は一切分からないって事だ。
返答や解答は無し。
都合が悪くなると黙るのやめろよな。あいつみたいだぞ。
「なぁイリヤ。その持っている魔遺物は俺を復活させる為に使ったんだよな」
「そです」
「それってまだ使えるのか?」
「使えます。ですが充填しないと」
「バッテリーみたいなものか」
そう言うとイリヤは聞いたこともない単語に難しい顔をするだけだった。
イリヤが持っている魔遺物を使えば俺の活動時間は伸びるだろう。
小さいバッテリーみたいだから十分とは言え無さそうだが。
そもそも俺はこの玉座から離れることができるのか?
『解答。接続を解除すればできます。検査。完了。提示。その場合活動限界時間は二十分です』
あのバッテリー魔遺物では二十分程度しか動けないのか。
まぁ今はそれでいいか。周りの状況を把握して地道にやっていこう。
因みに魔遺物になった俺の寿命は?
『解答。ありません』
魔力切れにならない限り死ぬ心配はないと、ご苦労。
「イリヤ、それをもう一回使いたいから充填してくれ」
「む、無理です」
「どうしてだ?金がかかるとかか?」
人族が魔力開発なんてスキル持ってないだろうし、充填には金がかかるだろうと予測する。
「お金もかかります・・・」
も。か。まぁイリヤの見た目からして金持って無さそうだしな。
「他にもあるのか?」
「この魔遺物は他の魔遺物の魔力を吸収するんです。本来は魔結晶から魔力を抽出するんですが、私は、私に攻撃してきた魔遺物の魔力球を吸収したんです」
「え?お前何かに狙われているって事?」
「いえ、そういう訳じゃないんですけど。えぇっと、リヴェンさんは王国の制度に詳し――い訳ないですよね」
「ここ三百年の歴史や世界の現状は知らんな。よかったら手短に教えてくれるか?」
「わかりました」
イリヤは説明し始める。
まず、この場所はメラディシアン王国、王都メラディシアンの領土内にある隠者の森と言う場所にあるイリヤしか知らない洞窟の中らしい。
メラディシアン王国は勇者の血統の国であり、勇者から八親等離れた王が百年前に建国した国。
現、王であるドレイズ・デブレ・ラ・メラディシアンの王政は前王よりも酷く、貴族階級がのさばり、平民は殆ど奴隷扱い。
更にその下に至っては国外へと追放されて、魔物の餌食。
上だけが甘い汁を飲み、下は苦汁の日々。まぁどこにでもある酷い王政のようだ。
そんな王都には何人も寄せ付けない壁があり、魔物、盗賊、国賊、ありとあらゆる敵を寄せ付けることは無い。
そもそも王都で戦争が起こったことは無い。
つまり誇張され過ぎた唯の壁である。
その壁に近づき、触れると、警告なしに戦闘用の魔遺物を放たれて死刑になるようだ。
で、その制度を利用してイリヤは魔遺物に充填し、生活面を工面している薬草作りの材料集め中に偶々見つけていた俺に使用したとのこと。
話の経緯を聞いて俺は考える。
この感じだと表立って魔族はいないようだな。野放しになった魔物程度ぐらいはいるだろうが。
知識や知恵がある魔族は隠れて暮らしていそうだ。
これは魔物と魔族の魔力を見分けるスキルが無くなったから、魔族探しは前途多難だな。
ふと湧き出た疑問をイリヤに言う。
「お前なんでそこまでして俺を起動させたかったんだ?」
「人型の魔遺物が珍しかったので、と」
「いやいやだからと言って無茶し過ぎだろ。死んでたかもしれないんだぞ?」
「や、その・・・あの・・・」
バツが悪そうな表情をし、手を組んで親指を動かす。
小さな子に説教している気分だ。実際しているのだけど。
とにかく、好奇心で俺を起動させる為だけに、そんな危険を冒すような人間には思えなし、何かを隠しているのは明らか。
真実を語る様に。と言わんばかりにイリヤを見つめ続ける。
「あの、その」と言っていたイリヤは「うぅ~」と唸りだし、涙目になってきた。
それでも穴が開く様にイリヤを見つめ続ける。
「誰にも、言わないで貰えますか?」
観念したのか上目遣いでイリヤは言った。
「俺には言う相手がいない」
いても、言われたくないことは必要でない限りは言わない。
勇者死ね。とかは日常で語尾になるほどに言っていたけど。
「あ、あの、私、スキルを所持しているんです」
「ほう。どんな?」
スキルと聞いて千個のスキルを収集した収集癖の俺は少し身を乗り出して訊ねた。
「奇跡スキルです」
なんか聞き覚えのあるスキル名だった。
「奇跡スキルってあれだろ。死んだりすると生き返るみたいなやつだろ」
「はい。本来は一回限りですけど、私の身の回りに起こる命に関わる出来事は全て回避されるんです」
奇跡スキルは一回ポッキリだ。
イリヤが言う奇跡スキルは奇跡というよりも幸運っぽいけど、幸運とは少し違う。
幸運スキルは事象が起こる前から回避してくれたり、願えば自分の身に幸運をもたらしてくれる。
奇跡は事象が起こった後でないと発動しない。
それが何回も使えるとなると、奇跡とは言えないんじゃないか?
うーむ、幸運と奇跡が合体したようなスキルと捉えればいいか。
「そのスキルがあるから無茶が出来たって事か」
「です。それにこのスキルのおかげでリヴェンさんと出会えたんだと思うんです」
「そうかもな」
「私、魔遺物を集めるのが趣味なんです。だからリヴェンさんを起動して、その従者、じゃなくてお友達になろうとしたんです」
体の良い言葉に置き換えたけど、従者って言ったよな。
魔遺物は道具みたいな認識なんだろうな。
「おう、じゃあ友達になろう。それで外に出て、それを充填しにいこう」
「うぇ!だ、駄目です。あ、や、お友達になるのはいいんですが、外は駄目です」
イリヤは慌てふためく。
あからさまで怪しい態度をとっているように見えるが、これがイリヤの純粋な対応なのだろう。
「どうして駄目なんだ?」
「えっと、あれです、えぇっと」
「イリヤ。お互いを信頼し合うには嘘や隠し事は無しだ。俺からも言っておく。俺はこの椅子から接続を解除する事が出来る。そうしたら一人で何でもできる。今、座っているのはイリヤの為に座っているんだ」
「私の為?」
「このまま無知な俺はその魔遺物を求めて王都へ行くだろう。そうすればイリヤと同じことをするか、もしくは王都に無断で入る。そしてもしも俺が王都で捕まれば不法入国の犯罪者だ。拷問や尋問の果てにイリヤの事を話してしまうだろう。そうなればイリヤは生きている事になり、この森に追手がやってくるだろう。俺はそうならない為に、今、イリヤと腹を割って話しているんだよ。わかるか?」
実際イリヤが協力的じゃなければ、そうしていただろう。
嘘は言っていない。耳あたりのいい言葉で肝心な事を伏せているだけだ。
イリヤは眉を顰めて考えた。
トントンと足を地面にリズム良く叩かせながら長考する。
イリヤは偶にアホの子そうな話し方をするけど、年の割にはしっかりと考え込んだり、言葉を選んだり、判断力に優れている。恐らく親はおらず、一人で生きてきたのだろう。
考えが纏まったのかイリヤは俺と目を合わせた。
「メラディシアン王国が建国された時の事です。この隠者の森には魔王城とみられる遺跡があったんです。その遺跡を調査する為に王は隠者達を派遣したのが名前の由来です。隠者達は森を住処にして遺跡を調査していましたが、調査経費を無断で使い込み、連帯責任で多くの隠者が王国を追放されました。そしてそのままこの森に居住まい、今に至ります」
息継ぎをしてイリヤを続ける。
「ここを出れば廃品回収隠者の人達がいます。私の住む地域の廃品回収隠者の方々は隠者らしさもありながら、優しい人達です。ですが好戦的な人達もいます。廃品回収隠者と言うよりも野盗に近いです。その人達にリヴェンさんが見つかれば戦闘は避けられません。私はスキルで逃れられますが、他の廃品回収隠者の人達の身が危ないです。だから、外へ出ては駄目です」
目からは強い意志を感じる。嘘は言っていない。
イリヤは今まで接してきてくれた人達を巻き込みたくない一心で俺に告げている。
イリヤの意志も尊重してやりたいが、俺の目的が最優先事項だ。
となると、確認し忘れた事を聞いておこう。
聞き忘れていたが、俺が口から遺物を取り込むとどうなるんだ?
『解答。その遺物の能力を使用することが可能です』
イリヤに言葉を返す前に玉座に質問すると、そう返ってきた。
じゃああれを食べれば俺は魔力を吸収できるようになるって事か?
『解答。吸収した遺物の限度まで使用可能です』
俺は顎に手を置いて考える。そして妙案を思い付いた。
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