序:再起動
今日もメラディシアン王国王都メラディシアンの外壁からゴミが排出されるのをボーッと数人のみすぼらしい男女が木々の陰から眺めていた。
そんな様子を外壁の上で警備にあたっている兵士たちは気にもせずにカードゲームに勤しんでいた。
ビーッと機械的な音が鳴ると、木の陰にいた年齢がまばらの男女たちが日当たりの良い木の手前まで出てきた。
外壁の一部が開いてダストシュートの出口が現れ、そこから王都の色んな区画から集められたゴミが幾つも排出された。
ゴミの中には机や箪笥、日用品に、服から食べ物、腐敗物も混じっており、兵士達は腐敗臭を感じて「うへ~」と言って鼻を摘まんだ。
男女たちは臭いを気にすることもなく、各々自分たちが求めているゴミを選出し始める。
食べかけで泥の付いた食べ物でも麻袋に入れ、使えると思うものは紐状にした葉の繊維で括る。
運が悪いと取り合いになり、力の強い者が力の弱い者を力に物言わせて取り上げる光景も見られた。
その選出が終わると自分たちが来た森の中へと踵を返して消えていく。
それが
兵士達は廃品回収隠者が殺人を犯そうが見ず知らずである。
しかしたった一つ、外壁に触れた場合は即刻死刑である。
そんな死にたがりが外壁の周りに居座っているはずはないので、兵士達はカードゲームに興じられるのであった。
「お?またあの子供だ」
顎の長い兵士がゴミの山に遅れてやってきた子供を見つける。
「ん?あぁ、あいつか、お前も物好きだな。ほら、これ捨てるからカード寄こせ」
長身の兵士が、いつもの赤毛の子供と認識してから、カードを催促する。
「ほらよ。いやなーんか気になるんだよな。いつも遅れてきてゴミ漁ってるくせに、ちゃんと生きてやがる」
子供の廃品回収隠者は珍しくはない。
ただ真っ赤な赤毛が物珍しく、兵士達の目に留まっているだけであった。
「ちゃんと生きているって言えますかね。あ、コールです」
物腰の低い兵士は賭けに使っているチップを三枚出す。
「マジかよ、うっわ、どうすっかなぁ・・・」
顎の長い兵士は顎を掻いて考える。
その間にも眼下にいる赤毛の子供はゴミを黙々と漁っている。
「おい長考はやめろよ、日が暮れちまう」
「わかってるよ・・・おい。おい、あれ見ろ!」
顎の長い兵士は外壁の下を慌てて指さす。
「その手には食いませんよ先輩。早く言ってください」
「そうだぞ。前もそうやって有耶無耶にした」
「い、いや違う。冗談じゃなくて、大真面目だって!早く下を見ろって!」
あまりにも迫真な演技なので長身の兵士と物腰の低い兵士はお互い顔を見合わせた後に、やれやれと言った感じで、言われた通りに下を見てみる。
すると物腰の低い兵士も顎の長い兵士と同じように取り乱し始める。
「こ、この場合ってどうするんですか!?」
「どうするも何も規定通り行うだけだろ。やるぞ、構えろ」
三人の兵士が見たのは赤毛の子供が外壁に触れている場面であった。
コンコンと外壁を叩いていたり、顔を近づけて材質を観察したり、耳に当てたりと、外壁を調べていた。
メラディシアン王国第三十四条第二項にもある通り、メラディシアン王国の外壁を許可なく触れた場合は警告なしの即刻死刑。
兵士達は右手に装着していた波動型魔遺物を起動して構え、赤毛の子供に向けた。
「装填」
左腰に付いている革袋の中から一般的成人男性の人差し指程度の大きさで筒状の弾を波動型魔遺物に装填する。
装填すると波動型魔遺物の口径内がオレンジ色に光り、徐々に赤へと変色していく。
「発射」
最大限に溜まった瞬間に、長身の兵士の合図で、波動型魔遺物に付属してある突起物を引き、エネルギー弾を発射した。
大きな衝撃音と共に赤毛の子供が立っていた場所は土煙に包まれる。
「な、なぁ俺、流石に今日は堪えるわ」
「先輩あの子くらいのお子さんいましたもんね。うぅ俺も飯、一日は通らなそうです・・・」
「仕方ないだろ。これが俺達の仕事だ」
波動型魔遺物に撃たれた人間はどうなるか。
王国兵士になるのに必要な免許試験で、そんな簡単な問題が出題される。
答えは木っ端微塵になる。
一発ならば的確に命中したとしても臓器や手足が飛び散って、無惨なバラバラ死体の出来上がり。
三発も命中すれば跡形もなく消え去っている。
兵士達は習った通りそうなったと確信して森へと足早に逃げていく影を見落とした。
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少女は走る。木々をかけ分けて、踏み慣らされていない雑草の上を裸足で駆ける。
途中顔見知りの廃品回収隠者から声をかけられても、手を振って対応するだけ。
それだけ急を要している。
森にある泉の畔。
そこには子供が入れる程度の洞窟への入り口がある。
少女は最初の目的地である洞窟の中へと入って行き、崩れた天井から差し込む僅かな光を頼りに、直線状に歩いて洞窟の奥底にある開けた空間へと辿り着く。
そして最終目的地である一つの石像の前へと息を整えて歩み寄り、手にしている魔遺物を石像へとかざした。
すると石像がみるみるうちに、灰色から色を取り戻していく。
その石像は男性の石像で、豪華な椅子に座って、泣いていた。見ているだけで悲壮感が溢れ出しそうな妙な石像だった。
魔遺物の力で石像は一人のフード付きのローブを着た青年と椅子に変化する。
何が起こったのかを瞬時に理解したのか、青年は流れ出る涙と鼻水を腕で拭った後に、目を閉じて大きく深呼吸した。
「また会えた」
そして目の前にいる少女にそう告げたのだった。
少女は後ろを振り返り、ここに自分しかいないことを確認した後に青年に向き直り、恥ずかしそうにもじもじと胸の前で指を交差させて言った。
「しょ、初対面です」
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『活性化中』
声が聞えた。
『活性化中』
低音で機械的な男性の声だった。
『活性化中』
うるさいなぁ、何度も同じことを言うなよ。
『お名前を入力してください』
悪態をつくと声は違う言葉を発した。
それと同時に俺はここで起きた。
そして寝惚けていた。
なに?名前を入力?入力ってどうすればいいんだ?
『お名前を入力してください』
質問には答えてくれないようだった。
てか、ここはどこだ?真っ暗で何も見えないんだけど?
『お名前を入力してください』
あぁもうなんだよ。
とりあえず名乗っておけばいいのか?
俺の名前はリヴェンだ。
『リヴェン様でよろしいですね?』
ゲームっぽいので、"はい"とか"いいえ"とかの表記が出るのかと思ったけど、辺りは真っ暗闇のままであり、声は俺の返答を待ち続けていた。
俺はリヴェンだ。それ以上も、それ以下でもない。
『リヴェン様で登録いたしました』
そう言うと静かになった。
え?終わり?名前入力だけの為に起こされたのか?
てか、俺はあいつに封印されたんじゃないのか?何が起こったんだ。
『再起動』
おい。勝手に再起動するな。まだ何も疑問に答えてないぞ。
『再起動』
当事者であろう俺の声を無視して機械的な声の主は勝手に再起動を図ったのだった。
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