転生魔王は勇者に敗北し、三百年後の世界で再起動します
須田原道則
王の目覚め
結:魔王の敗北
どこにでもある勇者と魔王の最終決戦。
魔王が居座る城に勇者一行が攻め入り、城に住まう魔物たちをばっさばっさと薙ぎ切り、薙ぎ倒し、薙ぎ払い、魔王城の階層を上へと上がってくる。
神からチートスキルを貰っている勇者は楽々と魔王の精鋭たちを倒して、ここまでやってきていた。
この戦いの結末は魔王の負けだと決まっていた。
それは現実世界なら普遍的な結末だろう。
それは人族が思い描くハッピーエンドだろう。
魔王はチートスキルを持ったチート勇者に手も足も出ず、勇者誕生から一年以内に攻め入られて負ける。
本来はそうなる未来だったかが、その未来は一人の青年によって三年後へと引き延ばされた。
そんな功績を残した青年は、三年しか持たなかったと後悔してから、遠隔で妨害していた手を止め、観念して魔王が座る玉座に背中を預けた。
既に勇者は階下までやってきている。
四天王のガンヴァルス将軍がこの魔王の部屋、玉座の間を出て数分。階下からは激しい衝撃音や衝撃が聞こえ、伝わっててくる。
そして「魔王様万歳!」との声が響くと共に爆発音が魔王城を揺らした。
この玉座の間には青年と魔王だけが最後の時を黙って待っていた。
「この三年色々あったよなぁ」
沈黙を破ったのはくるくると自らの綺麗な赤毛を弄る魔王だった。
体は少女のように小さく、子供です。と言われれば誰もが納得する体型。
勇者への遠隔攻撃や、四天王達に力を分け与えたりと、魔力を酷使し過ぎて元の身体より数段小さくなってしまった。
そんな魔王らしくない少女は感慨深く呟くのだった。
「お前が俺は転生者だ!とか戯けた事を抜かしたところから始まったんだよなぁ」
それを青年は下唇を噛んで黙って聞くだけ。
「お前の計らいで勇者を毒殺した時が一番盛り上がったよな。顔面蒼白になった勇者の映像で酒が美味いのなんの。あの時は初めて二日酔いになるまで飲んだよな。数日後に結局奇跡スキルで蘇った時は玉座から転げ落ちたけどな」
にひひと尖った歯を見せて笑う。
「お前はよくやったよ。今では知略で私を超える立派な魔王だ。ま、力では私の方が強いがな」
細い二の腕に無い力こぶを作って見せつける。
健気に笑い、哀愁すらも感じさせないよう気遣ってくれる魔王を青年は見つめて、目に涙を溜める。
「おいおい泣き虫は食べてないだろ。泣くなよ。男だろ?」
ポンポンと友と接するように優しく肩を叩かれて、青年が溜めていた感情が決壊した。
「俺が、俺がもっと強ければ・・・」
目頭を押さえて震えた口で青年は自責の念を吐き出す。
「何一丁前に責任感じてんだ。言っただろう、お前はよくやった。我々魔族が根絶する未来を三年も持ちこたえてくれた。それだけの年月があったから、生き残った魔族を避難させられた。根絶する未来は無くなったんだ。お前は胸を張れ。私が保証するよ。魔王のお墨付きなんて滅多にないぞ。しかも最後の魔王のだ」
「俺は――」
青年がまだ自分を責めようとするところに魔王の唇が青年の唇に重ねられ、黙らせられた。
黙っていれば美女と言われていた魔王との接吻に、外の喧騒が小さくなってゆく程に集中していたが、唇は惜しみもなく離れ、魔王のどんな宝石よりも綺麗な朱色の瞳も離れていく。
「褒美だ。有難く思えよ」
そう言って魔王は玉座にかけてあった自前の戦闘用のマントを羽織って、青年に背を向けて玉座の間の真ん中まで移動する。
青年も魔王と共に戦うために玉座の肘掛に力を入れて立ち上がろうとする。
しかし青年の腕はピクリとも動かせなかった。腕どころか、体全体がまるで玉座に固定されたように動かせなかった。
これは魔王だけが使える主に勇者に使われたくない聖剣とかを封印する為の魔術だと博識な青年は理解した。
「ま、待て、俺も戦う。戦える」
「はは、誰の前でその言葉を言える。私は魔王だぞ。それ以上に強い者がいるか」
「俺も一緒に戦わせろ!お前と共に死ねるなら本望だ!だからこの封印を解け!」
魔族の間で影の魔王と揶揄される青年が魔王と共に戦えば光明が見えるかもしれないだろう。
「・・・・・・」
魔王は背中を向けたまま黙る。ドタドタと階段を上ってくる足音が近づいてくる。
「お前は本当に優しい奴だな」
魔王はくるりと振り返った。朱色の瞳からは大粒の涙がほろほろと流れ落ちていた。
初めて対面で見せる魔王の涙に青年は言葉を詰まらせる。
影の魔王と言われるがこそ、魔王は青年を封印する。
「お前とは一緒に死んでやらん。お前は生きろ。生きて、魔王として残った魔族を導いてくれ。それが私の願いだ」
魔王が言い終わると青年の座る玉座が魔王の城の壁の中へとのめり込み始める。
このまま壁と一体化して事が終わるまで封印される。
青年には封印魔術を振りほどく力はない。
だから最後に魔王に言いたいことを言おうと決意した。
「我儘魔王が!俺に魔族を導く力なんて無いのはお前が一番知っているだろ!お前じゃなきゃ駄目なんだ!俺が身代わりになる!だからお前は逃げろ!」
魔王は耳をかさずに優しく微笑むだけだった。
それでも青年は涙か鼻水かわからない水を口に感じながら叫ぶ。
今生の別れと覚悟して叫ぶ。
「お前がいないと俺は何もできない!お前が、お前達がいたからやってこれた!だから!お前も生きろ!生きてまた会うぞ!俺はお前が!」
青年の言葉はそこで終わり、完全に封印されて壁の一部となった。
「私もだよ」
魔王は壁にボソリと言葉を投げかけると、涙を拭いて、丁度開け放たれた玉座の間の扉の前にいる勇者一行と対峙する。
「我が名はリーチファルト・ゾディアック。最強で最悪の魔王である!勇者よ!死ぬがよい!」
結末は魔王を討ち滅ぼし、勇者が王都で凱旋し、その英雄譚は後世にまで語り継がれる。そんなありふれた結末。
これは結末から始まる復活の物語である。――ネロ・ギェア
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