最終話 数千年前の君達へ/『トモダチ』
「.......サリー........。入院してたのは.........あなただった............。」
ジャパリ・ホスピタル六階の病室。""何か"を奪った相手の姿に成り代われる"セルリアン。『トモダチ』が居た。
『オトモダチ ニ ナロウヨ』
『トモダチ』は不気味に笑った。母体であるサリー・ヴィルヘルムの顔で。
かばんが動揺する。
「こ、コイツは.......この写真の女の子そっくり.........。」
ヒューゴも動揺する。
「ね、ねぇ.....ちゃん.......?い、いや......違う......姉ちゃんはこんな.......」
フレンズに、姿を変えるセルリアン。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『_____コイツは.......ッ!!姿形も匂いも完璧に◆>/←だけどセルリアンよ!!』
『_____コイツは.......ッ!!姿形も匂いも完璧にサーバルだけどセルリアンよ!!』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「........お前は!!お前はぁ!!!!!!」
........キュルルは思い出していた。
「........お前だけは!!!お前だけは!!絶対に許さない!!!!お前は!!!」
最高の友達であり、大好きなフレンズだったカラカル。それを奪った相手だった。
.......あの時はサーバルに姿を変え、カラカルに近付いた。そしてカラカルはそれを見抜けなかった。姿や匂いすらもトレースしていたのだ。
『クケッ キュルル!そんなに怒るんじゃないわよ!』
『トモダチ』がカラカルの物真似をする。怒りで頭がどうにかなりそうだった。
「..........表に出ろぉおッッ!!!!」
迷わず触腕でその身体を吹き飛ばし、窓から外に向かって追い出す。
「.........キュルルくん!!」
六階から迷わず飛び降りる。セル触腕があればこれくらいは怖くはない。そのまま着地する。
『クケッ クケッ りんのすけ 大好き からかるなんて いらない りんのすけは わたしだけのもの』
チーターの姿に変身した『トモダチ』が言う。
「黙れ!!!ボクは"リンノスケ"じゃあない!!!"キュルル"だ!!!大切な人に付けてもらった大事な名前だ!!!!」
キュルルは、このパークで誰も持っていないものを持っていた。優しい性格の反面、相手を確実に仕留めて殺すという残虐な一面を、セルリアンから産まれた少年は持っていた。
「......全部!!お前だったんだな!!!ボクがセルリロイド化したあの研究所にめちゃくちゃな資料を置いたのも!!!エデンを洗脳したのも!!!エデン討伐戦の時にヒューゴを洗脳したのも!!!!全部お前だったんだな!!!」
『クケッ クケッ ごめんなさいなのだ.....』
今度はアライさんの姿に変身する。
「......ふざけるなよ!!!お前!!!」
その時、リーシャとサーバルも外に着地した。
「キュルル!かばんとヒューゴとイエイヌは階段から降りてる!!......サリーを倒そう。救ってあげよう!」
「.......君の妹の、サリーちゃんじゃないよ、こいつは。フレンズの姿を真似て騙して、狡猾に奪い取る。最低最悪のクソ野郎だ。パークの歴史上こいつほど悪いヤツはきっと居ないよ。こいつはボクが殺す。」
リーシャはキュルルの目に宿っている意志を悟った。生半可な気持ちではない、確かな殺意を。
「.........行くよ!」
サーバルも覚悟を決める。
『クケッ、ククッ、行くわよ!サーバル!』
『トモダチ』がカラカルに姿を変える。しかし、腕からセルリウムが伸びる。
「んみゃ?みゃッ!!」
カラカルの姿のせいで、反応が一瞬遅れたのだ。
「あっ、ぶなかったぁ......」
『よく避けるわね!次は逃げられないわよ!』
『トモダチ』が再びサーバルに触腕を向ける。
「ッ!!」
リーシャが懐に入り込み、セルリウム性の巨大なフォークで『トモダチ』を突き刺そうとする。
『やめてっ!リーシャ姉ちゃん!』
「ッ!!!??」
『トモダチ』は瞬間的に姿をサリーに変える。そのせいでリーシャはフォークを突き刺せなかった。
『邪魔しないで!お姉ちゃん!』
「ぐうああッ!!!」
リーシャはそのまま触腕で吹き飛ばされる。
その隙にキュルルも懐に入り込んだ。
『ちょっとキュルル!やめなさい!』
「.............。」
無表情で拳を刀に変え、カラカルの姿をしている『トモダチ』の腕を迷わず切り落とした。
『ぐっうっ!痛いじゃない!何するのよキュルル!』
「黙れ。お前は手足を切り落として地面に並べるんだから。少しでも苦しんで死んでよ。お前が物真似をして騙されたフレンズの苦しみに比べたら楽でしょ。」
キュルルは静かに殺意の炎を燃やしていた。セルリアンに対して抱く気持ちに、今までこんな気持ちは無かった。だがこのセルリアンだけは許してはいけないと思ったのだ。
『.......やだ!怖いわ!あたしはアンタをそんな子に育てた覚えはない!』
「........黙れって言ってるじゃん。ボクを育ててくれたのはカラカルとかばんさんだよ。お前じゃない。」
「.......私達の出番は無いかもね.....。」
「.......そうですね......。」
「....あれは姉ちゃん......なのかな......」
階段から降りてきていたかばん、イエイヌ、ヒューゴが到着した。
「......キュルル、私達ではアイツの姿につい戸惑ってしまう。私達はアイツが逃げないように包囲する。」
リーシャが耳打ちしてくる。
「任せてよ。アイツは殺すから。」
すると皆はキュルルと『トモダチ』を囲うように円になった。
『.......ぐッ!何よアンタ達!今キュルルに説教するところなんだから!』
ブンッ。
刀に変えた拳を振るう。こんな奴、ヴィズルナーラに比べたら。モノに比べたら。ファニー・ボンバーに比べたら。インビジブル・リッパーに比べたら。かばんさんに比べたら。アクジキに比べたら。
『ぐッ!!ああ!!やめてキュルル!!!』
無表情でキュルルは『トモダチ』のもう片方の腕と両脚を切り落す。すると『トモダチ』は変身を解いた。サリーでもない、醜い人型セルリアンになった。
『............!!』
「どうしてボクの前に現れたの?ボクがカラカルを奪われたあの時と一緒だと思ったの?変身が解けてるよ。もう一回カラカルの物真似でもしてみたら?」
キュルルは、四肢を切り落とされダルマ状態になった人型セルリアンに残酷に問い詰める。
「......ボクがセルリロイドになった研究所の施設にめちゃくちゃな資料を置いたのは.......ボク達を混乱させたかったんだよね?あわよくばエデンかヴィズルナーラと戦うボクらの漁夫の利を狙うつもりだったんだよね。」
『..............。』
胴体部分に迷わず刀を入れる。
グシャッ!!
『.............!!』
「.......今更喋れないふりしないでよ。.......まあ、もうどうでもいいか。じゃあね。二度と生まれてこないでね。」
「.............。」
「.............。」
周りで見ていたギャラリーは、少しだけキュルルの残虐性に畏怖した。
キュルルはそのまま刀を振り、『トモダチ』の身体をバラバラにした。
『____________!!』
ぱっかーん...........!!
..........恐らく、今までこいつが溜め込んでいたであろう、大量の輝きが見える形で空に帰っていく。色んなフレンズに帰っていっているのだ。
ギャラリーは、キュルルへの気持ちにより少しの間動けなかった。だが、晴れ渡った空に輝きが帰っていく様を見て安心した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
..........見上げた空は青く澄み渡っていた。太陽は高く、パークセントラルにある泉の水に反射してキラキラしていた。.........これで、このパークを覆っていた暗雲は、全て。全て消えたのだ。
エデンも、エデンの使徒のS級セルリアン達も、ヴィズラナーラも、フレンズに姿を変える人型セルリアンの噂も、アクジキの正体もか。
..................全てが、終わったのだ。
「...................終わった。..........全てが。」
「......みんな、終わったよ。」
......振り返るキュルルの目に殺意の炎は宿っておらず、いつもの優しい少年に戻っていた。
「キュルルくん!!」
かばんさんが涙ながらに駆け寄ってくる。
「あぶっ!......ふへへ、かばんさん.....」
かばんさんの胸に抱かれる。
「......良かった!!キミが少し.....遠くに行ってしまうような気がして........でも、これで全て......全て終わったんだね.......。」
かばんさんが泣きながらボクを離さない。_______暖かい。久しぶりだな。こんなに温もりを感じたのは。
「えへへ、かばんさん......ボクはどこにも行きませんよ......。」
みんなが微笑む。クールな反面案外涙脆いリーシャは涙を流していた。正真正銘、ハッピーエンドだ。
「........良かった。......これで、当面パークが抱える問題は全部消えたね。」
かばんさんが微笑む。
「ええ........。本当に。良かったです。」
すると、5m程奥の方で_______________。
キラキラとした虹色の光を纏いながら。
「おや?あの子は..........?」
_______________________え?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「.........お、おい!!オーストラリアデビル!!あれ!!あそこ!!!」
「どうしたのタスマニアデビル"ちゃん"?..........えッ!?!?」
指さした先には。
「ふぁーーーーっはっはっはっは!!冥界より舞い戻ったり!!我が翼達よ!!待たせたな!!再びこの地に混沌を振り撒かん!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「.........ぎ、ギンギツネ。あれ、あれ見て。」
「ん?どうしたのキタキツネ.....?ええええッ!?!?あ、アナタは!!!?」
温泉に浸かっていたフレンズは。
「おや、ギンギツネにキタキツネ。お久しぶりですね。少し温泉を借りていますよ。なにせ、ここに戻ってきたばかりなので」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「キュルル、アイツの中からあたしは見てたわよ」
_______________________え?
「か、かばん、ちゃん..............。」
「え?な、何?サーバルちゃん?泣いてどうしたの?」
「思い出したの.......かばんちゃん.......全部.......」
「さ、サーバルちゃん?」
「......強くなったわね!........よく倒してくれたわ。アイツのこと」
駆け寄る。勝手に涙が出る。
「はっ、はっ、はっ!ほ、本当に.......」
その胸に飛び込んだ。
「ええ、ホントよ!.......私の姿に変身したアイツをよく躊躇いもなく倒したわ。........本当に、偉いわね。キュルル!よくやったわ!」
この旅が始まって以来、一番よく泣いた。カラカルは、頭を撫でてくれた。
「あ、あああああぁぁぁあああああぁぁぁあああああぁぁぁああ!!あああぁぁぁあああああぁぁぁあああああぁぁぁ!!!!あああああぁぁぁあああああぁぁぁあああああぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!会いたかった!!!!!!!あああああぁぁぁ!!
会いたかったよおおおおおおおおおおお!!!!!うああああああぁぁ!!!!ぁ!!!!!ほんどうに!!会いたかった
!!!!あああああぁぁぁあああああぁぁぁ!!!!!!もう会えないと思っでだ!!!!!!!あああああぁぁぁあああああぁぁぁ!!!!!あああああぁぁぁ!!!」
久しぶりに飛び込んだカラカルの胸を、大量の涙で濡らした。
~~~~~~~~数日後~~~~~~~~~
研究所にてかばんさんが問う。膝にはサーバルが乗っている。
「.....うーんと、....カラカルちゃんはアイツの中に"記憶と魂"が閉じ込められてて、アイツが倒されたからそれが解放されてここに現れたってことかな?」
カラカルはボクを膝に抱きかかえながら答える。
「難しいことは分かんないんだけど......多分、アイツが覚えてたのよね。私達とか、他の奪われた子とかの事を。」
リーシャも口を挟む。
「サリーは直観像記憶が使えたから、その能力を『トモダチ』が奪ってたんだろうね。それを悪用していた。.....今回のケースならそれが良いように働いたけど。」
フレンズの姿や匂いを完璧に真似るセルリアン。アイツは『トモダチ』と名付けられていた。
「ふーむ.......嬉しい事に、タスマニアデビルさんからは、ブラックバックさんが"記憶を保持したまま"もう一度現れたという報告が来てる。しかも」
「ギンギツネさんからも同じような連絡が来てる。ジャパリ・ギンザで散ったはずのオイナリサマが再び記憶を保持したまま現れたんだって。本当に不思議な事もあるものね......『トモダチ』に感謝かもね。」
「その他にも沢山のフレンズさんから大事な記憶を思い出した、先代の自分と友達だった子を思い出した......っていう色んな報告が来てる。.....多分、奴は見てたんだろうね。このジャパリパークの歴史を間近で。」
サーバルが口を開いた。
「そうだよかばんちゃん!!やっと思い出せたんだから、かばんちゃんといーっぱい色んな所を旅したこと!」
「ね!思い出してくれて良かった.......懐かしいよね!」
かばんさんはサーバルを撫でる。
「おーい!来たぞー!!」
「民の命令により私が来た。」
「うん、呼ばれたから。」
研究所のドアが開く。
「ダイアウルフさん!キングコブラさん!アムールトラさん!」
呼んだのはボクだ。
「ふはは、まさかこのあたしを呼ぶとはな。お前もなかなか度胸があるじゃないか。しかもフレンズに姿を変えるセルリアンを倒したんだって?やるじゃないか」
ダイアウルフさんが笑いながらぐりぐりとボクの頭を撫でる。ついはにかんでしまう。
「.....しかし、私ももういい歳なのに、探検隊に招待されるとはねー.....」
かばんさんが言う。
「.....だって、かばんさんが居たらどんな時も大丈夫かなって思えるんです。ヴィズルナーラにも勝てましたし。」
書いた招待状を、かばんさんに渡した。その場にいる者は全員、かばんさんの方を向いた。
「......そうだね。キミたちが望むなら、私も頑張っちゃおうかな!」
かばんさんはそれを受け取り、はにかんだ。
~~~~~~~~四日前~~~~~~~~~
かばんとリーシャ、ダイアウルフは研究所で喋っていた。キュルルはヒューゴと『黒王形態』になる練習をしていた。
ダイアウルフが口を開いた。
「しかし、キュルルは本当にヒトなのか?ギンザではセルリアンの女王と融合しているように見えたが」
「ヒトとセルリアンのハーフ、セルリロイド。それの究極系だよ。女王の息子であるお陰で、なんでもやる。ギンザの時の融合は女王が身体の操作権限を握っていたみたいだし。」
かばんが口を開いた。
「......私が思うのはね。多分、『黒王形態』は女王じゃなくて、キュルルくん独自の能力なんじゃないかなって。」
「......え?でも、いくら女王の息子とは言ってもあの子は普通のヒトでしょ?ヒトに女王の力を使役することは......」
「後から聞いたんだけど、ギンザの時にキュルルくんに受肉した女王は、街や裏山に居たセルリアンを自分の支配下に置いた。そして、それを宙に浮かばせて握り潰した。」
「ありえないんだよね。支配下に置くなら出来るはずだけど、その自分の息子同然の存在のセルリアンを多数握り潰すなんて女王はしないはず。いくらキュルルくんの味方とはいえ、女王はセルリアン。更に操作権限は女王だった。」
「つまりどういう事だ?セルリアンの女王ではなく、キュルルが全てやっていたという事か?」
「......だと私は思うんだよね。そもそも女王は何千年も昔に倒されたし、女王の本体はすごくか弱いセルリアンなんだ。それに、『トモダチ』を倒してカラカルちゃんが戻ってきてから、女王と全く連絡が取れないそうだ。多分、女王は.......」
リーシャが言葉を繋げた。
「.......女王は、大事な友達を失ったキュルルの孤独心が創り出した偶像......だった。そして、自分では到底出来ない残酷な行為も、女王がやったと心に言い聞かせる......二重目の人格だったって事?かばんが言いたいのは」
「.....まあ、そんな所かな。初めてあの子が女王の能力を発動したのはギンザ。私が『モノ』に殺されかけていた時だった。あの子にとって、私は母親みたいなものだから。その唯一の拠り所を守る為に、きっと彼は覚醒したんだと思う。」
「つまり、カラカルが戻ってきた今は孤独心により創り出された女王と融合が出来ず、あの力は発揮できないという事か?」
「ううん、私が想像するのはその逆。彼は今まで自分は女王の息子であり、力は女王から借りていると思い込んでいたはず。だけど、孤独心が消えて女王と連絡が取れなくなった事で、彼自身で.......」
その時、ドタバタとドアを開けてキュルルとヒューゴが入ってきた。
「かばんさん!!皆!!ボク『黒王形態』になれました!!実母さんとは連絡が取れないままだけど.....勝手に力使っちゃっていいのかなぁ!?これで更に皆のお役に立てるはず!やったーー!!」
ヒューゴ君とキュルルくんが喜びあっていた。その姿はまるで友達同士だった。私も、母親として頑張らなくちゃ。
「.......信じられない、本当に.......。」
リーシャちゃんはクールビューティーな顔を驚き一色に染めていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「.......................フフ。行ッテラッシャイ 我ガ子ヨ。今ガ 巣立チノ 時ダ。」
_________女王は、暗闇の中で微笑んだ。
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~~~~~~~~三日前~~~~~~~~~
「ヒューゴ、ここに居たんだ。」
海が見える砂浜にヒューゴは座っていた。暮れかける日を見ていたようだ。
「.......ああ、キュルルくん。」
「どうしたの?最近元気ないように見えるけど」
横に座る。波の音が聞こえる。
「..........僕はエデンに造られたセルリアンだけど。多分、エデンに"僕を造れ"って洗脳して命令したのは、サリー姉ちゃんの身体を奪ってた『トモダチ』。」
「.....つまり、僕をこの時代に造ったのはサリー姉ちゃんのようなものだ。」
「.........僕はキュルルくんの事が好きだ。......だけど、この感情はサリー姉ちゃんの気持ちなんじゃないかって思う時があってね。少し悲しい気分になるんだ。そしたら、自分が生まれた意味ってなんだろうって思ってさ........。」
ヒューゴが座りながら下を向く。
「.....なぁんだ、ヒューゴはそんな事で悩んでたの?らしくないじゃん。確かに疑問だったけどさ。リーシャの弟とはいえ、なんでずっと昔に死んだはずのキミがこのパークに現れたのかは。」
「......でも、好きなら良いんじゃない?サリーさんに造ってもらったんだったら、精一杯その身体を楽しむべきだよ。........仕方ない、ボクが抱き締めてあげる。元気だしなよヒューゴ。」
ヒューゴは本当に、守りたくなるようなビジュアルをしている。......かわいいというか。サリーさんはきっとこの子を溺愛してたんだろうなぁ。夕暮れがイタズラして、ボクもらしくない事をしてしまった。
「.....キュルルくん......。」
抱き締めたまま喋る。
「.....サリーさんはきっと、キミの事が大好きだったんだよ。リーシャから聞いたけど、キミすごい子だったんでしょ?」
「何もかも凄くて。そんなキミともう一度会いたいって、きっとサリーさんは思ったんだよ。その思いをサリーさんに取り憑いてたセルリアンが奪って、キミを造った。」
「.....そうだね。......確かに。僕らしくなかったかもね。」
ヒューゴが抱き締め返してくる。
「.....うん。だからキミがボクを思う気持ちだって、きっと本物だよ。サリーさんは"リンノスケ君"が好きだったんであって、"キュルル"に興味は無いだろうしね。」
「.....そうだね。生まれた意味を問う事自体が、無意味なのかもしれない。僕はこの体を、キミを好きだという気持ちを。精一杯楽しむ事にするよ。」
夕暮れの砂浜で二人きりで抱き合う。なんだかドキドキしてしまう。そのままヒューゴに砂浜に押し倒される。
「あっ、ちょっと!それはダメだよヒューゴ!いくら楽しむって言ったってそれは!」
「ふふっ!甘いよキュルルくん!!」
ヒューゴは『キャサリン』を出し、ボクの腕を拘束した。
「あっ!ズルい!!ちょ、ちょっとヒューゴ!!服脱がさないでよヒューゴってば!!あはは!!くすぐったいって!」
「あ、こっちから声が......キュルルー、ヒューゴー、そろそろ帰っ................。」
.....突然現れたリーシャの目に飛び込んだのは半裸のキュルルに馬乗りになって拘束するヒューゴだった。
「あ、姉ちゃん。」
「り、リーシャ!」
「あ、......あ、あの......えっと......」
リーシャが顔を真っ赤にする。
「ち、違うってばリーシャ!!いやなにも違くないけど!!大事なものは奪われてないから大丈夫!!セーフだよセーフ!!あ!!これセルリアンジョークだ!!ヒューゴはボクの輝きも奪ってないよ!!」
かばんさんとダイアウルフさんが現れる。
「えっと.....り、リーシャちゃん。その......私達、親戚になるかもね!」
「な?アイツらはつがいだっただろう?何も珍しくはない。」
......しかし、案外ダイアウルフの言っている事は間違ってはいなかった。パークにはアニマル"ガール"同士のカップルなどごまんと居たからだ。
「大事なもの?.......唇のことならキミが知らない内に.....奪ってるかもよ?そう、あれは夜だった.....キミがヴィズラナーラの光線を弾き返した後寝込んでた時に.....」
「はぁ!?うっそでしょ!?ヒューゴお前人がめちゃくちゃ体力使って寝込んでる時になんて事を.......!?!?」
「嘘だよ♡」
「嘘かよっっっ!!!!!」
その場にいる全員がズッコケた。
~~~~~~~二日前~~~~~~~~~~
「もう、ヒューゴはほんと......なんかあの砂浜の時からやたらアプローチ激しいんだよ。ねえ、どう思うリーシャ、カラカル。」
リーシャとカラカルを連れて、ヒューゴのホテルに遊びに来ていた。イエイヌ、サーバルはかばんさんの研究所に居る。
「う、うーん.......。わ、私は.....えっと......」
「...........べっつに。」
カラカルは不満そうに、リーシャは顔を赤くする。
「あはは、キュルルくん。姉ちゃんもカラカルさんも困ってるよ。それにね、キュルルくん。」
ヒューゴが顎をクイッとする。もう!
「キミに関してライバルが多くてね。早めに僕の匂いを付けておくべきかなって思うんだ。」
ヒューゴがチラチラとカラカルの方を見た。恐ろしい気配を背後から感じた。やべっ。後ろを見ると鬼のような形相でカラカルが睨んでいた。
「ちょっとアンタ、ぱっかーんするわよ。アンタセルリアンなんでしょ。」
「おお、怖い怖い。ごめんなさいね?」
........その日は、研究所に帰ったあとカラカルに恐ろしい程に長風呂を強要され、お風呂から上がったら沢山身体を擦り付けられた。
~~~~~~~一日前~~~~~~~~~~
「.....で、どうするわけ?旅再開するの?」
カラカルが自室で招待状を書いているボクに聞いてきた。今は夜だ。
「ん~~........しばらくアイツの中に居たカラカルは知ってるかな、ジャパリパーク保安調査隊って知ってる?探検隊って言ったりもするんだけど」
「ああ知ってるわよ!昔の私も探検隊に居たみたいだからね。アイツの中に居た頃に色んな記憶を見たけど。」
カラカルがボクのベッドで寝転ぶ。カラカルを『トモダチ』に奪われてから、あのベッドで何度悪夢を見た事だろう。
でも、もう悪夢に怯える必要は無い。カラカルはここにいる。
「えっと.....その百代目の隊長さんになるんだ、ボク。明日結団式だよ。今はその招待状を書いてる」
「ええええーー!!あんな大役がアンタに務まるのかしら!?ちょっと心配だわー.....」
「.....カラカルは『トモダチ』の中から見てたんでしょ。ボクが頑張るところ。.....ボクも不安が無いって言ったら嘘になるけど....。」
振り返って笑う。
「.....まあそうね。やるからには頑張んなさいよ!それと、招待状書き終わったらちょっとこっち来なさい」
「ん?」
ベッドに誘われるままに座る。
「そうじゃなくて、寝るの」
.......
「......カラカル、ちょっと恥ずかしいよ.....」
「いーでしょ別に、久しぶりにアンタに会えたんだから。こっちは嬉しいのよ。」
まるで抱き枕のようにボクは抱き締められていた。
.........そのまま、僕達は夜を過ごした。.......
~~~~~~~~翌日~~~~~~~~~~
研究所をバックに、皆で写真を撮ろうとしていた。探検隊結団の時に撮る写真だ。
「はーい、じゃ並びなさい!ん、アムールトラはあたしから見てもうちょっと左ね!」
カメラマンはカラカルだ。
........
「おやおや!!ここか!?探検隊結団の儀を執り行っているというのは!!」
「あ、ブラックバックさん!良かった!本当にまたここに現れたんだね!」
かばんさんが言う。オーストラリアデビルさん、タスマニアデビルさんの二人も一緒だった。
「クク、かばんよ。光あるところ、必ず闇は訪れる!我が潰えることなどない!!」
「ホントだぜ!ブラックバックいきなりオレたちに逃げろって言ってよーー......」
「むむ、すまない......あの時は。」
「でも良かった!また会えて!」
「ふっ、かばんよ!!キュルルよ!!皆の者!!はっはっはっはっはっはっは!!!」
皆がブラックバックに注目した。
「聞いて驚け!!......我らは正式に!!!"ジャパリ"パーク保安"団"!!略して†暗黒探検隊†を結成した!!」
「だ、団員は私達だけだから募集中だよー!」
「ふっふっふ!お前らのライバルになる予定だぜ!」
「(全く略してなくない!?)」
と疑問が浮かんだ。
「ちょーーーーーーっと待ったなのだーーー!?」
おっと?
「ふっふっふ、そういう事ならアライさんを置いていかれては困るのだ!?」
「だよー。」
「アライさんは聞いたのだ。その昔、このパークの安全を守る為の団体があったと!!アライさん達も正式に"アライさん探検隊"を結成したのだ!」
「団員はアライさんと私だけだけどね~。こっちも団員募集中だよ~。」
「二人だけ!?探検隊として成立してるのそれはーー!!?」
思わずツッコミを入れてしまう。
「ま、まあ....探検隊が結構いくつもあった時代もあるみたいだし、いいんじゃないかな.......。」
かばんさんが苦笑いしながら言う。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「タイリクオオカミさん、お体は大丈夫なんですか!?」
アミメキリンが言う。
「ああ、もう完璧だよ。しかし最高のネタが手に入ったんだ。本当に強力なセルリアンだったのよ?もうなんでも斬るしなんでも焼いちゃうの!ギロギロと戦わせてみるのも面白いかも......!」
続いてアリツカゲラがお茶を持ってくる。
「無理はなさらないで下さいね、オオカミさん。」
「ああ。アリツさん、ありがとう。大丈夫だよ。漫画家っていうのは無理するのが常だからね」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「オイナリサマ?大丈夫だったんですか?」
ギンギツネが心配する。
「ええ。私は力を使い果たして天に帰りましたが、運命の巡り合わせか再びここに戻ってこられたようです。」
「お、オイナリサマも、げぇむ、する?たのしいよ.....?」
キタキツネがゲームの筐体に隠れながら言う。
「ええ、是非とも!私は負けませんよ!いざ勝負です!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「セルリアンを食う人型セルリアン、『アクジキ』の正体とは、数千年前から生きているセルリロイドの"リーシャ・ヴィルヘルム"というれっきとしたヒトだったのです。」
博士がフレンズを集めて集会を開いていた。それに向けて言う。続いて助手。
「それから、フレンズの姿を真似るセルリアンは実在したのです。しかし、キュルル率いる群れが倒したのです。お前ら、安心するです。」
フレンズ達が歓喜にざわめいた。
「次に、"セルリロイド"の説明なのです。セルリロイドとは......」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「暇やな~~~.........。そうや、ワニズ。キュルルがなんや探検隊?っていうもん作ったらしいで、冷やかしに行かん?」
「誰がワニズだ!ああ!確か『アクジキ』とかもその探検隊に入ってるとか.....」
「なんやて!?アイツフレンズの姿に化けて襲うんちゃうん?!」
「それが違うそうだ。そういうセルリアンは別に居たけど、キュルル達が倒したみたいだ。で、『アクジキ』はヒトだって......しかもクールだけど結構良い人らしいよ。」
「へーー!!衝撃やな!よっしゃ!行こうやワニズ!『アクジキ』の顔拝みたいやん!行くで!クロヒョウ!」
「あ、ああお姉ちゃんちょっと待ってーや~~......」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はい、じゃあ撮るわよ!もっと寄って!笑いなさーい!」
索敵に特化したサーバル、イエイヌさん、ヒューゴ。戦闘に特化したかばんさん、ダイアウルフさん、アムールトラさん、キングコブラさん。戦闘も、セルリウムによる治療も出来るリーシャとボク。
ひとまずは第百代目、ジャパリパーク保安調査隊の初期メンバーだ。.....こんなそうそうたるメンバーの隊長がボク.....正直務まるか心配だ。
......もちろん後から入りたい子には入ってもらうつもりだ。ブラックバックさんやアライさん達の探検隊に負けないようにしないと。
このジャパリパークを、もっと良くする為に。
ボクが、百代目を継ぐから。見てるかな、先代の隊長さん達は。...探検隊、復活したよ。
「..........はい、チーズ!!!!」
パシャリッ!
「.....ふふっ!キュルルさん!私の大切な写真が一枚増えました!」
........イエイヌさんが心から嬉しそうに笑っていた。
ぎこちない顔で笑うボク。
ボクの横で距離が近いヒューゴ。
少し恥ずかしそうにするリーシャ。
優しい笑顔のかばんさん。
かばんさんにくっつくサーバル。
最前列で座るイエイヌさん。
ほぼ無表情のキングコブラさん。
ボクの頭を笑って撫でるダイアウルフさん。
最後列で笑うアムールトラさん。
_____その時の写真を九十九代目で途切れている、探検隊写真集の新しいページ、百代目のページに挿し込んだ。
百代目ジャパリパーク探検隊、結成!!!!
____________________fin。
けものフレンズ/THE WHITE ORDER めろんぞーん @Melonzone
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