十六話 『ずっと昔のお話』

...........ジャパリ・ホスピタル併設マンションに、私達ヴィルヘルム家が移ったのは三ヶ月前。父さんが医者としての能力をパークに買われ、就職したのだ。それに着いていく形で、私とサリーはここに来た。


「......どうかな、リーシャ。ここでの暮らしは、もう慣れたかな。」


父さんと二人の食卓。サリーは今日も病院から戻らない。


「うん.....フレンズ達はかわいいし、慣れたよ。......学校も遠隔で授業を受けられるから大丈夫。」


「そうか.....。サリーの容態は良い。目の悪化も鈍化している。きっとそのうち退院出来るだろう。」


「うん、良かった。明日、お見舞いに行く。」


サリーは、今は亡きヒューゴに負けず劣らずの天才だった。特に、絵を描くという事については。


「ごちそうさま。父さん。」


サリーは直観像記憶が使えるのだ。見たままをそのままに覚える素晴らしい才能だ。私、リーシャは何の才能もない。一番上の姉なのに情けなく感じる。


しかし、サリーは原因不明の目の病気を患ってしまった。眼球がゆっくりと腐っていく、謎の病。そこでジャパリ・ホスピタルに入院しているのだ。


自室に戻り、ベッドに倒れ込む。


......絵も、サッカーも、勉強も、何もかも天才だったヒューゴ。......直観像記憶が使え、絵の才能はヒューゴよりも上のサリー。


......母さんも、サリーや私にはちょっと厳しかったけど.....素敵な人だった。だが奪われた。.......母さんが溺愛していた、ヒューゴと共に。交通事故で。


......どうして、。どうせなら、ヒューゴの代わりに死んであげたかった。きっと痛い思いをしたはず。サリーもそうだ。私があの病気を代わりにかかってあげたい。そしたらあの子は、もっとお絵描きが沢山出来るはずなのに。


.......毎日、こんな思いをして涙が出る。今日もまた、枕を涙で濡らした。


~~~~~~~~翌日~~~~~~~~~~

「サリー、お見舞いに来たよ........。」


すると、サリーは見覚えの無い男の子と笑いあっていた。


「あ、お姉ちゃん!お友達が出来たんだよ!リンノスケっていうの!」


「あ、よろしくお願いします!サリーのお姉ちゃん?」


「そうだよ!お姉ちゃん、リンノスケね、今日から向かいのベッドで入院することになったの!」


「そう。それは良かった。リンノスケくん、仲良くしてあげてね。私ともよろしくね」


「はいっ、よろしくお願いします.....!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「へぇ~。リンノスケくんもお絵描き上手。凄いね......」


今は、二人が一緒のスケッチブックにお絵描きをしているのを見ている。


「えへへ......」


「お姉ちゃん!私の方が大人なの!....リンノスケはすごいけど!」


「サリーも上手だよ。私なんかよりずっとね」


すると、この病院で働いている父さんが病室に入ってくる。


「サリー、ちょっとこっちに来......おや?」


「あ、父さん!友達が出来たの!」


「.....そうか、確か.....向かいのベッドに来る事になった......桐生 凛之助君かね。」


父さんがリンノスケの近くにやってくる。


「.....是非、サリーと仲良くしてやってくれ。リンノスケ君。」


「はいっ!」


「では、サリー。こっちに来てくれないか。今日の容態をチェックしなくては。」


「分かった!じゃあね!また!」


サリーが病室から出ていく。


「そういえばお、お姉さん。お名前はなんて言うんですか?」


二人きりになった病室でリンノスケ君が尋ねてくる。確かにまだ自己紹介をしていなかった。


「私はリーシャだよ。リーシャ・ヴィルヘルム。この病院の横のマンションに住んでる。」


「じゃあ、退院したら是非遊びに行かせてください!」


「うん。来るといい。その時は歓迎するよ。」


この子は、人懐っこい所が少しヒューゴに似ている。ヒューゴよりも明るいけど、お絵描きをしている時の顔つきなんてそっくりだ。きっとサリーとは仲良くなれるだろう。


その後はサリーが戻ってくるまでお喋りをしていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「セルリウム人体変換技術?父さん、それは?」


私と父さんはマンションに居た。学校の遠隔授業が終わったあとの、いわゆる放課後の時間だった。


「パークに、私のように住み込みで働いている科学者が目を付けた技術だ。セルリアンの細胞を構築するセルリウム。"再現"する作用を人体の部位に変換しようという試みだ。万能細胞として使用出来ないかというものだ。私は医療班として従事している。」


「実験用マウスの脊椎を外し、そこにセルリウムを注入。だが実験は失敗......成功する時はあるが何度条件を変えて実験を重ねても、再現性が見られない......。」


「しかしそれを、人体の様々な部位に使用出来れば_____救える命がぐっと増えるはずだ。実験は進んでいる。その内、サリーも救われるはずだ。」


父さんの目付きが少し、怖かった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ある日、深夜に起きてしまった。尿意を感じ、トイレに向かう。すると父さんが起きて、部屋で電話をしていた。....あまり良くないと思いながらも、耳をそばだてて聞いた。


「.......ああ。実験体4が.......そうか。セルリアン化.......分かった。残念ながら、完全にセルリアン化してしまったものは治すことが出来ない。仕方ないが、実験体4は......うむ。.....」


「.......実験体3が危険状態でセルリウムの切除か。了解だ。施術日はいつになる。.......分かった。"セルリロイド技術"の実現に伴う犠牲はゼロには出来ないだろうが、君達科学者達も手早く完成させてくれ.......」


......何を、言ってるんだろう。気づかないふりをして、トイレに行った。


......"セルリアン化"というワードが頭を離れず、結局その日は眠れなかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

...........。


「ねぇ、お姉ちゃんってば!」


「えっ!?ああ!」


「あはは!リーシャちゃん何考えてたの?好きな人のこと?」


サーバルが病室を訪れていた。


「ふはえっ!?違うよ!ボーっとしてただけ。」


「お姉ちゃん、私が描いたサーバルと、リンノスケが描いたサーバル。どっちが似てる?」


スケッチブックには二人のサーバルが描かれていた。甲乙付け難い出来だ。


「どっちもかわいくて頼り甲斐のある私に似てるよねー!!」


「うん、どっちも似てるよ。二人ともすごいや。」


「あはは、やったー!」

「リンノスケ、やったね!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

.......セルリロイド。


その後何日かに渡って、父さんのデスクを秘密で覗き、情報を集めていた。


セルリアンへの対策がこのパークにはアニマルガールに頼ることしか出来ず、ヒトは無力である。そこで、ヒトの肉体にセルリウムを埋め込む事で人体兵器を造るという無謀な計画が秘密裏に進められていたのだ。


それがセルリロイド計画。私のお父さんは、その計画の主導者だった。.......なんとも酷い、非倫理的な話だ。.......だが、私に出来ることは何も無い。


.....たかが13歳の小娘が何を吠えたって誰も信じない。だから、これは黙っておこう。......それに、この技術が将来フレンズの為になるなら............。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

サリーの容態は日に日に悪化していった。視界がほぼ無いのを笑って誤魔化しているのが辛かった。サリーがスケッチブックに向かう日も減った。


今日もサリーのお見舞いに来ている。


「桐生君。診療の時間だよ。」


知らない医師がリンノスケを呼ぶ。


「あ、はい!今行きます!」


リンノスケはそのまま部屋から出ていった。


「ねぇ.....お姉ちゃん.......私ね、好きな人が居るんだ。」


「.........そう。それは誰?」


とは言いつつも、分かっていた。サリーは目が見えなくなっていくにつれて、どんどん表情が暗くなっていった。しかし、彼と_____リンノスケ君と居る時は、以前の明るいサリーのままだった。


「リンノスケ。.......ばらしちゃダメだよ?お姉ちゃん。告白は自分でするんだから!」


「そう。きっと........上手くいくよ。サリーは美人だからね。」


微笑みながら言う。


「にへへ、やったー!そしたらね、退院したらね、色んなちほーをリンノスケと回るんだ!今からわくわくするなぁ!」


「サリーならきっとその病気も治るよ。お姉ちゃんが祈ってあげる。治れ~。治れ~。」


念じる。


「あはは、お姉ちゃん変なの!....でもありがとう!」


頬を赤らめるサリー。自慢ではないが、私よりも全然かわいい。こんな子に好きになってもらえるなんてリンノスケも幸せ者だ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「サリー、容態はどうだ......。目の見え方は......」


「うん、お父さん!大丈夫だよ、ちゃんと見えてる!」


サリーは、父に診療してもらっていた。


「サリー......嘘はつかなくていい。本当はどうなんだ。この指は何本ある?」


「うーんと.....えーっと.....さ、三本?」


「.......一本だ。...........サリー........すまない.......。力になってやれなくて..........。」


父は頭を下に向け、懺悔を口にした。


「.......大丈夫だよお父さん。きっと治るから。......この病気も.......」


「サリー.......。私が......かならずお前を救ってみせる........。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「.....ですから。セルリウム人体変換技術の応用として眼球を......!!」


「......ダメだ!その人体変換技術はまだ実用的ではない!キミはそもそもパークの医者であって研究者ではないだろう!実用化するとしてあと50年はかかる!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「.......くそっ.......!頭の固い連中め......。50年なんて待っていられるか.......!」


帰路に着いていた。


「............................私が。.......この私が。.......お前を救ってみせる.......。大切な娘のサリーを......私は.....天才外科医、エドガー・ヴィルヘルムだ。」


決意を、固めた目をしながら。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「サリー。父さんだ。今から起こることは全て秘密だ。誰にも喋ってはいけないよ。」


エドガーは深夜、サリーの病室に訪れていた。手術記録などは権限によりいくらでも塗り替えられる。


「お父さん?こんな夜にどうしたの?」


「......お前を助けに来たんだ。必ず、救ってみせる。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エドガーは自分の娘に、メスを入れた。


「サリー、サリー?目を、開けられるかい?」


術後しばらくして、ぱちり、ぱちりとサリーはまばたきをした。


「.......わぁ!!見える!!!見えるよ父さん!!!」


「本当か!?この指は何本だ!?」


「四本!!父さん!!やった!!見える!」


「やったぞ!!セルリウム人体変換技術は成功だ!!!.....サリー、この事は絶対に誰にも話してはいけないよ。凛之助君やリーシャにもだ。お前は。いいな?」


エドガーは腐食したサリーの眼球を一度取り出し、それをセルリウムにコピーさせた物をもう一度埋め込んだのだ。


「うん!分かった!!....お父さん!!ありがとう!!」


~~~~~~~二週間後~~~~~~~~~

......神様が、サリーの視力を治してくれた。


そう思わざるを得ない、急回復だった。信じられない。......ありがとう、神様。


サリーはある日、突然目が見えるようになった。そのまま経過観察を続け、退院することが出来たのだ。


今はパークセントラルにある遊園地で、リンノスケと二人で遊んでいる。......ちなみに、今日の夕暮れ頃に観覧車の中で告白するらしい。サリーもロマンチストだ。


マンションの窓から、すぐ遊園地は見える。何なら観覧車の広場だって。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ジェットコースターは頂上まで上がっていく。


「ひいっ!こわ~い!」

「あははは!こわいね!」


そのまま山の上からジェットコースターは落下した。


「「うわ~~~~~~~~~~~~!!!!」」


......


『オヒルッ。オヒルゴハン』


「楽しかったね!お昼ご飯でもたべようか!」


「え?.....サリー?まだ朝9:00だよ?サリーは食いしん坊だね」


「えっ?....ああ!うん、お腹すいちゃったの!お昼ご飯食べよ?」


「うん、分かったよ!食べよう」


.......


「おや!?おふたりは?」


二人は疲れたので遊園地内のベンチに座っていた。そこにサーバルが現れる。


『アア、チーターダ。』


「あ!!チーターちゃん?」


「えっ!?私はサーバルだよ?」


するとニヤニヤとサーバルが笑う。事情を察した顔だ。


「サリーちゃん、リンノスケちゃん!今日一日ゆっくり遊園地楽しんでね!ふっふーん♪」


そのままサーバルはどこかに行ってしまう。鼻が良いサーバルは恋の匂いを感じ取ったのだ。


....


夕暮れ時。二人は観覧車に乗っていた。


「今日はすっごく楽しかった。リンノスケが一緒で良かった!」


「うん!ボクもサリーと一緒に遊べて楽しかったよ!」


.....観覧車が頂上付近まで登る。


「.....ねぇ、リンノスケ。あの......その......」


窓の外を見ていたリンノスケはサリーの方へ向く。


「ん?どうしたの?」


「.....えっと....。わ、私と......お、お嫁さんに......」


サリーは顔を真っ赤にして下を向く。


「えっ?!」


それを同じくらい顔を赤くしてリンノスケも見つめる。彼は雰囲気から察していた。


「.....だから!私をリンノスケのお嫁さんにして欲しいの!!」


真っ赤な顔を前に向け、真正面から思いを伝える。


「えええええええええええ!?!?」


「...........。」


「........分かった!!僕はサリーをお嫁さんにする!!だから....わぶっ!」


リンノスケはサリーに抱き着かれた。


「.....嬉しい!!ありがとう、リンノスケ!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「.....?あっ!!あの雰囲気はもしかして!」


何気なしに窓から遊園地の方を見ると、観覧車から見覚えのある二人が出てくる。サリーと、リンノスケだ。


.....しかも、手を繋いで!


....告白は成功したようだ!良かった!


すると、突然サリーが地面に倒れ伏す。


.......あら、サリーが倒れた。........えっ?



......................えっ?目から.......えっ!?



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「......手、繋ご。リンノスケ」


「う、うん......ちょっと恥ずかしいけど.....サリーの手は柔らかいね」


二人は観覧車から降りた。


『恋ノカガヤキ コクハク セイコウ クックックケ』


「えっ?リンノスケ?何か言った?」


「何も言ってないよ?どうしたの?」


二人は手を繋いだまま立ち止まった。否、サリーが立ち止まったのでリンノスケも立ち止まったのだ。


「あれ?何か変なのが見える......!うわっ!虫がいっぱい.......!!うう!」


サリーは手を離し、ぶんぶんと腕を振り回す。


「サリー!落ち着いて!虫なんて居ないよ!大丈夫だよ!」


『クックックケ 恋ノ カガヤキ 素敵ダァ』


「うっ!うっ!ううっ!!何っ!?嫌ッ!!やめて!!やめてぇえええ!!」


サリーはバタリと地面に倒れた。


「......サリー!!?サリー!?どうしたの!?誰か!!誰か居ませんかー!!」


するとサリーは起き上がり、膝で地面に立った。顔を上にあげた。


「虹................。』


もちろん、虹なんて出ていない。


『........がぱぁ。』


......すると、サリーの目から黒いドロドロが大量に噴出した。


.......セルリウムだ。


それは留まることを知らず、どんどん流れ出ていき、サリーの身体を覆った。それだけでは飽き足らず、周囲にも広がっていく。


「サリー!!??サリー!!!サリーー!!」


思わず距離を取り、サリーを中心にしたセルリウムの円から離れる。


.......そして、池のようになったセルリウムの円から沢山のセルリアンが現れた。


.........しかも、その中には過去このパークを危機に陥れたとされる"セルリアンの女王"まで居た。


「さ、サリー!!くっ!!ひとまず今は逃げないと.......!!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「はっ......!はっ......!はっ.......!はっ.........!.........!!あれは.......!!サリーが!!サリーが!!!」


リーシャはマンションから病院に向かって疾走していた。......既にこのパークセントラルの中には大量のセルリアンが発生している。発生源は恐らくサリー。


サリーは直観像記憶が使えた。だからきっと.......何かしらの原因でセルリウムと事故して、、、見たままの映像を再現してるんだ........。"セルリアンの女王"の姿や、過去のセルリアン達がどんどん復活していたのだ。サリーの目が急回復したのももしかして......!!


「......ッ!!父さん!!」


病院に行くまでもなく、外で職員の指示に追われている父を発見した。


その時偶然リンノスケと合流した。


「......リーシャ!!待って!!....良かった!見つけた!!」


「.......父さん!!サリーが!!目からセルリウムを噴き出して........!!ねぇ!!一体どういうこと!?サリーの目に何をしたの!?!?変だと思ってたの!!あれだけ急に視力が回復するなんて!!」


問い詰める。


「.......!!リーシャ!くっ.....説明は後だ!今はとりあえずリンノスケ君とこのパークから逃げなさい!!パニック状態だ!」


各ちほーでセルリアンが色めきだっているようだった。もちろん、パークセントラルの中自体もすごい数のセルリアンとフレンズが戦っている。 まるで戦場の中に居るようだった。


「嫌だよ!!サリーは!?あの子も連れて逃げないと!!もうヒューゴや母さんみたいに家族を失いたくない!!!」


「.......リーシャ!!すまない!!本当にすまない!!私が不甲斐ないせいで.......!!!」


すると父さんは、脚に注射器を刺した。中の液体は水色だった。程なくして、脚が獣脚類のように変化する。


「.......必ず後で説明する!!今はリンノスケ君と逃げなさい!!」


すると父さんはそのまま走り去ってしまった。


「嫌ッ!!嫌だッ!!父さん!!!いやあーーー!!」


......涙のせいで、接近してきているセルリアンに気付けなかった。


「危ないッ!!リーシャ!!!」


ドンッ


「えっ.....?」


リンノスケが身代わりになった。そして、どぷんと、そのセルリアンの身体の中にリンノスケが取り込まれた。


_________________女、王だった。


『___________。』


「い、.......」


こちらを一睨みされ、そのまま女王は行ってしまう。


「......いかないでよ...........リンノスケ.......サリー.......父さん......母さん......ヒューゴ........」


『............。』


「......どうして私を........一人にするの......私から......何もかも奪うの......もう.......奪わないでよ!!」


地面を蹴って走り出した。別のセルリアンが来ていたのだ。走って逃げる。


「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!ううっ!!みんなっ!!みんなぁっ!!ううっ!!」


職員やフレンズ、皆逃げていた。対処しきれない程のセルリアンの群れだった。


「はっ、はっ!ひっ!はっ!うぅっ......!!」


涙が出てくる。後ろを振り返るとまだ追ってきている。森の中の研究施設のような所に着いた。立ち入り禁止のパイロンが立っていた。


そこに入り込む。廊下を走っていると、地下に繋がる階段があった。それを降り、一つの部屋に逃げ込む。部屋の電気を消し、隅で息を潜める。


「................。」


『.............。』


最悪だ。セルリアンがこの地下階段を降りてきている音がする。.....バレませんように。


「................。」


『..............。』


ギィィ。


すると、部屋のドアが開いた。一つ目の化け物はこちらをギロリと睨んだ。


「どうしてよ.......なんで.....私から何もかも奪うの.......なんで....」


泣きながら後ずさりする。すると、カラリという音と共に手に注射器が当たった。


「......!?これは.......!!父さんの言ってた、あの......!!"セルリロイド"の薬!!こ、ここここここれを打てば........!!」


『.........。』


少しずつセルリアンは近づいてくる。


「.......怖いな....もしサリーみたいになっちゃったら.....失敗したらやだな.....。でも!!」


「ここでコイツに全てを奪われるのはもっと怖い!!待ってて皆!!私が!!助けに行くから!!」


注射器を左腕に刺した。一気に注入した時の痛みは、セルリアンに対する常識を超えた恐怖で特に感じなかった。


「.......あっ.....!!がっ......!!おっ!!ごっ!!ぉぉおおおおおおお!!!!!!」


なに これ あたまのなかに いろんな きおくが ながれこんで くる くるしい くるしい つらい しんどい なきたい かなしい しんどい つらい みんなどこ みんなどこ たすけて


「......おっ!!ごっ!!おおおごあああああああああああぁぁぁ!!!」


どこが じめんか わからない でも わたしは さりーを りんのすけを とうさんを たすけなくちゃ いけないんだ わたしは こんな きおくに 惑わされたりしない!!


「あああああぁぁぁあああああぁぁぁあああああぁぁぁ!!!!!!」


リーシャの腰から、黄色のセルリウムの翼のようなものが生えた。


『_________!!!』


........リーシャは、泣き喚きながらも追ってくるセルリアンを倒した。


「.......はぁっ.....はぁっ......はぁっ.......勝った.......勝った........倒せた..........」


へたりと座り込みながら、リーシャは過去、父から言われた言葉を思い出していた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『.....父さん。お肉食べたくないよ.....動物さん達が可哀想.....。』


『......リーシャ。分かった。私が食べよう。しかしリーシャ、生きる事とは汚れる事なんだ。私達はそういった摂理の下で生きている。汚れを知らない者など居ない。それを自覚して生きるんだよ.......。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「........生きる事とは.....汚れる事.......。」


「........私は勝ったんだ........だから.........。」


リーシャは、セルリアンの細胞を口にした。


「!?これは......!?」


すると、そのセルリアンについての情報と、そのセルリアンが奪っていた記憶が流れ込んできた。


過去、このセルリアンに何かを奪われる恐怖に顔を歪めるフレンズ達。その映像が流れてきた。恐怖は消え、"怒り"一色に感情が染まった。


「........絶対に許さない!!食い散らかして奪い返してやる!!記憶も存在も何もかも!!絶対にお前らを食い尽くしてやる!!」




...........それは、唯一無二の成功例のセルリロイド『アクジキ』が産声をあげた瞬間だった。



最終話に続く。

















































































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