四話 感情の振幅/『▅▅▅』


「.......ん.......。」


少年は、何処か分からない小屋で目を覚ました。正確に動いているか分からないデジタル時計を見ると10:23と表示されていた。


「おはよう。」


......モーニング・コールはアクジキによるものだった。木造の窓から射し込む光が優しく頬を撫でる。


「......仮面、着けないんだね。というか、なんで君が居るのさ。またボクは君に拉致されたの?ここどこ?」


目を擦りながら上体を起こす。様々な部位が筋肉痛だったがそのおかげで自分がまだ人間であることも自覚出来た。


「......いや、今回はかばんと正式に話を付けて一日だけキミを預かることになった。今日の18:00まで。元々は一週間のつもりだったけど.......」


経緯がさっぱり分からなかった。預かる?なんの話だ?


「.....何があったの?あの後。ボクは確か、気を失って.....」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ドサリ、と少年は倒れ込んで気絶した。


「はぁ.....寝てくれた.....。そうだ、治療をしないと」


無造作に落ちている、切り落とされたかばんの肘から先の左腕をセルリウムに吸収させた。そして、手をかばんの無くなった腕の上に置いた。


「セルリウム人体変換。フレンズにも出来たらいいけど.....取り込んだ腕の構造解析をセルリウムが出来たら不可能ではないはず」


すると、かばんの肘から先の無くなった部分が虹色の光とともに再現された。腕が完全に元通りになった。


「出来た!.....よし、サーバルにも......」


サーバルも同じ方法で、無くなった脚が再現されて現れた。


「ぅぐ......っ。」


かばんが、無くなった腕が元通りになった事により目を覚ました。


「あっ......オ、オハヨウ』


かばんは驚愕した。理由は言わずもがな再びあのセルリウムの仮面が居たからだ。アクジキ側も少し恥ずかしがり屋なので咄嗟に仮面を纏ったのだ。


「.....!!アクジキッ!!なんでキミがここに.....!!くっ....」


上体を起こしながら後ずさりするが、患部から血が出続けていたことによる貧血が発生していた。


「あれ!?僕の腕が.....!!確かアイツに切られたはずだったのに.....」


かばんが左腕をまじまじと見つめる。


『エット、私ガ.......』


アクジキがかばんの前に座る。


「.......キミが?.......治してくれたの?」


『サ、サーバルモ、無クナッタ脚ヲ治シタ。......細カイ傷ハ治セナイケド......』


アクジキは少し後悔していた。いくら挑発のためのパフォーマンスとはいえ、頬を舐めたり、血を啜った相手と話すのはどこかむず痒い気持ちになったのだ。


「そうか.......それもセルリロイドの力なんだね......。『インビジブル・リッパー』も、もしかしてキミが倒してくれたの.....?」


........情けない。キュルルくんをとんでもない目に遭わせた相手に、助けられてしまった。


『ウ、ウン。私ノ目的ハコノ子ノ覚醒ダッタ。ソノ事デ話シタイ事ガ.....』


アクジキはキュルルを指さし、"セルリロイド"の事、かばんが気を失ってから起きたことを全て話した上で______。


『一週間。ドウシテモ駄目?』


「.......ダメだね。皆を助けてくれたことには感謝してるけど、キュルル君を無理矢理セルリロイド化させたのは今でも許していない。それに彼は探検隊隊長になるためのお勉強がある」


アクジキが提案したのは、キュルルを一週間預かり、セルリロイドとしての......いわゆる修行をさせたいという提案だった。


『ハア......強情......』


力尽くではこの相手に勝てないことは分かっていた為、アクジキは妙な行動に出なかった。しばらくの沈黙があったが、かばんが静寂を切った。少しづつ、日が高くなり始めていた。


「.....じゃあ、腕相撲してキミが勝ったら思惑通り一週間キュルルくんを預ける。.....そうだね、でも私が勝っても......一日だけ、彼をキミに預けよう。セルリロイドになってしまった以上、せめて彼に色々と教えてあげて欲しいしね」


腕を組みながら、かばんは妥協点を伝えた。


『腕相撲.....?セル触腕ハ?』


「使っていいよ。じゃあ...やろっか。今はほら、私貧血だから本気で戦えないしさ?腕相撲でもして君と親睦を深めようと思ってね」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「......で、負けた。私も本気で勝つつもりでセル触腕を使ったけど、かばんも野生解放&ビーストモードを使ったらしい。右腕がちぎれるかと思った」


「(.......かばんさんおっとなげねぇ~~!!)」


もはや込み上げてくる笑いを下を向いて噛み潰す。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『グウウウ.......少シグライ手加減ヲ知ッテ......コレデ貧血状態ノ、更二手負イ.....?』


アクジキが右腕を抑えながら苦悶の声を漏らす。地面には叩きつけられた衝撃のヒビが入っていた。


『....ジジッ.......かば、ん......っかばんっ!!』


かばんが右腕に付けているモバイルラッキービーストから通信が入る。博士の声だ。


「あれ?コノハちゃん!どうしたの!?」


『どうしたもこーしたもねーです!!無事なのですか!?昨日から現れたあの超巨大セルリアンについて説明を求めるフレンズが研究所に殺到しているのです!!急いで戻って欲しいのです!!我々では何も分からないのです!!』


ハッとした。そうか、『エデン』の事だ。僕もあまり詳しいことは分からないが、一先ひとまず帰らなくては。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「.......それで、かばんとイエイヌ、サーバルを送り届けた。あの子達手負いだったし、途中セルリアンに襲われたら危ないから。きっと今頃質問攻めに遭ってる。」


アクジキが、僕が寝ているベッドの横に置いてある椅子に座る。


「君は優しいのか残酷なのか分からなくなってきたよ........。」


上半身を再び寝かせながらため息をつく。昨日を思い出す。身体がセルリウムに蝕まれそうになった。後少しでボクはセルリアンになっていたかもしれない。木の天井を見上げながらボーッとしているとアクジキが口を開いた。


「それから、えっと。今は"キュルル"って呼ばれてる?..........」


「ん?そうだよ?サーバルと、ボクの大事な人が付けてくれた」


また、あの時の事を思い出しそうになる。


「そう。キュルル、早速だけどセルリロイドとして大事な前提を二つ教える。」


アクジキが親指と人差し指で「2」のハンドサインを作る。上から顔を覗き込まれる。


「一つ目は自分を見失わないこと」

「二つ目は自分が思った時にセル触腕を出せること」


「自分を見失ったら、星の記憶に飲まれてしまう。そうなるとセルリアン側に意識が落ちて、そこから抜け出せなくなる。そして完全にセルリアン化する。初めに注射を打つ時に説明すべきだったけど......時間、無かったから」


身に覚えがありすぎる説明をされる。


「そうだよ!!あの時脊髄辺りまで注射器刺したよね!?ボク本当に死にかけたよ!?」


「うん......脳が近いから首に刺すのは本当はとても危険。でもほら、あの時キュルル椅子に座ってた。腰とか腕とかに刺す方法もあるらしいけど位置的に無理で」

「椅子に"拘束されてた"の間違いだけどね!?......まあ、結果的にボクは助かったから良いんだけどさ......それで、二つ目は?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

かばんはアクジキの予言通り沢山のフレンズの質問攻めに遭っていた。何故傷だらけなのか、あの超巨大セルリアンはなんなのか、攻撃してこないのか、等。


それを上手く説明し、時に答えに詰まったりしたがフレンズ間のパニックは起きなかった。殺到していたフレンズが霧散していき、日常が戻った。研究所の棚にモバイルラッキービーストを置いて、ベッドに倒れ込む。


「ふぅ。.......あ~~~~~!!久しぶりに色んなフレンズさんとお話したぁ~~~♡♡やっぱりフレンズさんはかわいいなあ........って、身体痛あ!!!」


跳ねた。やはり筋肉痛や身体中が切り傷、擦り傷、抉り傷だらけでは動くだけでも痛い。治る迄には少し時間がかかるだろう。


「もういい歳なのです」

「動き過ぎなのです」


博士と助手の二人がガチャリとドアを開け、おかゆを持ってくる。


「とッ!?とととと歳ッ!!??まだ若いけど!!??ほ、ほらこんなポーズも.......ぐわぁああ!精神的に無理いい!!うわあああ!!サーバルぢゃああ"あ"あんん!!」


かばんが動揺しながらセクシーなポーズを取ろうとする。しかし彼女の自制心が許さなかったようだ。悲しみに暮れてサーバルを部屋に呼ぶ。


「......バカなのです」

「......バカなのです」


「かばんちゃーーん!!呼んだ!?」


部屋に勢いよく入ってきたサーバルの喉や背中を撫でる。かばんが、ゴロゴロと言いはじめたサーバルの耳の間に顔を埋めて深呼吸する。


「......そういえば、キュルルはどうしたのですか?見当たらないようですが」


ミミちゃん助手が疑問を口にする。


「......ああ、それはね......。」


事の経緯を全て説明する。アクジキの正体が分かった事や、友達ではないにしても顔見知りになった事、パークが昔造ろうとしていた人体兵器"セルリロイド"の説明や、キュルルがそれにされた事も含めて。


「......なるほど。修行、ですか」

「うん。なってしまった以上は仕方ない。それに関してはアクジキに任せるのが良いと思ってね。だけど.......」


かばんの表情が曇る。それを心配し、サーバルが口を開く。


「キュルルちゃんが心配なの?かばんちゃん」


「まあね......いくら一日だけとはいっても心配だよ......あの能力が安全なら育ててやって欲しいという想いもあるけどね.....」


二人が持ってきてくれたおかゆは、完全に冷えてしまった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「自分が思った時に触腕が出せないと、セルリアンにやられてしまう。なので今から教えるのは基本の触腕を出すコツ。」


アクジキと僕は、お昼ごはんにパンを食べていた。


「思い出して欲しいんだけど、キュルルはインビジブル・リッパーを視認することが出来なかった。正解ヲ言ウト、コレヲ纏ウ事デ奴ノ周波数ヲ見ル事ガ出来タ。』


アクジキが再び顔に仮面を纏った。仮面を纏うと独特な音調になるのか。


「?よくわかんないんだけど、ボクそんなの出来るの?昨日は出来てた?」


『出来テタケド完璧デハナカッタ。特にキュルルは脳に近い場所にセルの萌芽がある。セルの具現は脳のイメージに強く作用される。」


懇切丁寧にアクジキが説明する。こんな顔も出来たのか。


「....でも、ぜんぶのセルリアンが透明化しないでしょ?アイツだけその、周波数が違ったの?」


「そう。何百年も昔に戦ったセルリアンがそれに似た能力を使ってきた。そのセルリアンは異常に強い上に摩訶不思議......勝てないと悟ったから全力で逃げたけど、ソイツには私の記憶を大部分奪われたまま.....。私の仇だ。」


悔しそうな顔でアクジキが言う。


「.....それで、コツって?ボクあの時どんなことしたっけ.....」


アクジキがパンを全て食べ終わる。.....やはり食べるのはとても早い。


「セルの具現イメージに、感情を振幅させる。極度に。」


「感情を....?」


食べる手が止まる。


「喜怒哀楽どんな感情でもいい。私がキュルルを挑発してたのはそういうこと。オススメは、何か大きく感情を揺さぶられた出来事を思い出すこと。そのタイミングでセルリウムを具現化させることで、トリガーになる。今迄に何かそういった出来事はあった?」


ドクン。


.......確かに、あの時僕が思い浮かべていたのは_______________


ドクン。


「......キュ、キュルル?大丈夫?」


突然声を掛けられ、ビクッとする。


「えっ?ああ........それと、セルリウムを具現化させるイメージね.......」


自分の手を見詰める。フレンズさんよりも圧倒的に細い。こんな手で、セルリウムを操れるのだろうか______


「イメージも、しやすいものとしにくいものがある。例えば手のひらから消しゴムをポンと出すイメージと、家一軒出すイメージでは訳が違う。そこは慣れ。」


「なるほどね...........」


話は、半分しか頭に入ってこなかった。時計をチラリと見ると14:56と表示されていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『.......ママ!!ヒューゴ!!!起きてよ!!ねえ!!』

『.......キャサリン........。ヒューゴ.........。』

『ヒューゴ......ママ......うぅ........。父さん......』


『.......残念ですが、奥さんと息子さんは.......対向車の居眠り運転で..........』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~『ん.........。あれ............ここ、どこ.........?僕は確か..........。』


同時刻、今は使用されていないジャパリパーク高級ホテルの一室で。


『........。ュー........ォ.......』


『母さん........。確か僕達........」


「.......サッカースクールに行くはずだったよね.........?」


サッカーユニフォームを着用し、肩甲骨まである金髪に毛先が紫色の少年。それから、2m程の黒い人型セルリアンが立っていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「では『エデン』の解決策を考える会議を始めるのです。」


かばんの研究所に、数々のフレンズが集められていた。椅子などは無いだだっ広く時計のみがある部屋に集められたその人数は、約30人程。


「ではまず、『エデン』の動向について。奴は昨晩ここから20km程離れた場所に飛来、現在は何の動向も無く沈黙しているのです。」


「待ってくれ、おかしくないか?」


ツチノコが立つ。


「セルリアンはそもそも、土に埋まっているセルリウムから発生する存在だろ?なんで空から来たんだ?」


「ああ、それなら」


かばんが立つ。


「昨日、ここから2km弱離れた研究施設支部に資料が遺されていた。奴は普段、宇宙に住んでいるらしい。セルリアンの性質も変わっていくものなのかもしれない。」


フレンズが少しざわめく。


「静まるのです。では、奴が沈黙していることに対して何か意見があれば言うのです」


「いいか?」


キングコブラが立つ。


「沈黙しているということは今は無害なのだろう?それならば今のうちに、付近のフレンズに逃げるように言うべきではないか?」


「あたしは思うんだが」


ダイアウルフが立つ。


「今すぐ倒すべきだ。奴は今、きっと力を溜めている。これが爆発したら面倒なことになるぞ。その場合はオオカミ仲間に協力を呼びかけるが」


ヒグマが続く。


「賛成だ。沈黙しているということは今がチャンス。四本の太い足をフレンズ総出で叩く。かばんを巨大セルリアンから助けたあの時みたいにな」


ギンギツネも続く。


「待ってよ、普段は宇宙に住んでるんでしょ?宇宙って凄まじい空間よ?そんな中で普段住んでる奴を倒すなんて不可能じゃないの?だったら逃げる方が論理的だと思うんだけど」


.......その後も長く、会議は続いた。


「........あっ、そろそろ17:00だ。イエイヌさん、キュルルくんを迎えに行ってくれない?私は身体が痛くってさ。」


18:00に、ここから3km程離れた小屋にキュルルを迎えに行く予定だった。


「はいっ!りょーかいです!!」


参加していたフレンズ達は一度そちらを見るが、すぐに会議に戻った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ダメ、まだ集中出来てない。」


汗が滴り落ちた。小屋の外は草原だったのでボクはそこで触腕を出す特訓をしていた。


「.....触腕が.....出てこない.....。そもそも、どうして感情を増幅させないと触腕は機能しないの?」


もう何分もイメージし続け、感情も増幅させようとしているが全く上手くいかない。あるいは、また星の記憶が流れ込んで来るんじゃないかという恐怖が、感情を引っ込めてしまう。


「"感情"は"輝き"。つまりセルリアンのエサであり動力源。この技術を造った人が、元々私達にある輝きを奪わない代わりに新しく産まれた輝きだけ吸収し動くようにプログラムしたそう。」


「......なるほどね.......。」


迷っていた。僕が昨日、セル触腕を出せた時に考えていたのは______。


カラカルのことだった。


でも.......セル触腕を出すトリガーがカラカルを想う事になって欲しくない。そんなのまるで死霊術じゃないか。


膝に手を着いて肩で呼吸をする。


「ねぇ。まだ迷ってる?キミには思い出したくない記憶がある。それをトリガーにするかどうか、キミは迷っているんでしょう?」


膝に手を着いて下を向いていた視界の、横からアクジキが囁く。図星だった。


_______思い出の中のカラカルが笑う。


「.......お前に.........」


膝から手を離す。


「..........お前に何が分かる!!愛してたんだ!!ずっと好きだった!!でもその想いは伝えられなかった!!伝えられないまま逝ってしまった!!」


アクジキの、薄緑の患者服に掴みかかる。


「......きっとその子は、キミが強く生きて欲しいと願ったはず。」


「!?」


「.....もしキュルルがその子と同じ立場だったら?自分の分も長生きして欲しいと思わない?」


掴んだ手を離した。


「.........ッ!」


「過去でもなんでも利用して強くなって。じゃないと、キミはまた何も守れない。同じ結末を辿ることになる。このパークさえも同様に。私が君をセルリロイドにしたのは、君が力を付けないとこのパークが滅ぶ未来が見えたから。」


....ボクが、強く、生きることを......


「.......分かったよ。やッてやる.........!!」


迷いは消えた。カラカルの分までボクは強く生きてやる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

キュルルさん、最近大変なことに巻き込まれていて大丈夫でしょうか.......。カラカルさんの事もあって、少し心配です。


もう日が落ちてきました。急ぎましょう。わんっ、わんっ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「こっちから感じるね.........。母さんもそう思うかな?」


『...........。』


「だよね。やっぱり、何があるんだろう。.....近付いてくるね。ワクワクするなあ」


サッカーユニフォームの少年が、草原に立った木の幹に寄りかかっていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

アクジキと別れ、草原を歩く。もう日が落ちそうだ。早くかばんさんの研究所に帰らないと。


木の下辺りを通り過ぎる。すると。


「....なっ!?」


紫色の、セルリウム。それがまるで紐のように木の上から垂れ下がり、一瞬の内にボクをぐるぐる巻きに拘束した。


「.......やあ。やっと会えたね。」


木の上から男の子が降りてきた。金色の髪の、毛先が紫色の少年だ。女の子のように中性的な顔立ちをしていた。


「僕はヒューゴ。ヒューゴ・ヴィルヘルム。いきなり拘束してごめんね?」


「あっ!えっ、....と、うん!そうだよ!離してよ!」


ボクは木の枝から逆さ吊りにされている。この子は息を飲むほどに魅力的な顔立ちをしていた。その為、少しばかり動揺した。


「ふふ、ごめんね。僕はここに生まれたばっかりでさ。キミの気配に惹かれてここに来たんだよ。キミは何か、ヒントになるかもしれないんだ.......」


すると、ヒューゴと名乗る少年は.......


「えっ!あっ!?ちょ!?ちょっと!?ヒューゴ君!?!?何するの!?」


逆さ吊りになって、露出しているボクのおでこ。


そこに____________


_______優しく口付けをした。


「......ん........」


「.......!!!ちょ、ちょっと....!?な、なな何するんだよう!!恥ずかしいじゃないか!!」


「ふふ、ごめんね?」


ヒューゴがイタズラ気味に笑う。なんなんだ、この子は。恥ずかしさで顔が真っ赤になるのが分かる。


「『母さん』、『運んで』。今からキミを僕のおうちに迎え入れてあげる。楽しみにしててよ♡」


『.............。』


するとヒューゴの傍から、黒い2m程もある女性の姿をした人型セルリアンが現れた。そして、そのままボクを担いだ。


今気付いたが、ボクを拘束した紫色のセルリウムの紐はヒューゴから出ていた。コイツは..............!?


「じゃあ、行こうか。僕のおうちへ。」


「え、えええええー!?ま、待ってよヒューゴーー!!ちょ、ちょっとー!!」


そのまま、ボクはまた拉致されてしまった。



.......遠くから、イエイヌさんが走ってきているように見えた。











五話に続く。
































































































































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