よくある異世界に行く話

みつき

第1話

 気が付いたら、僕は見知らぬ森の中にいた。あたりは薄暗く、見たこともない植物がそこら中に生えている。

 どうして、僕はここにいるのだろう。何も思い出せない。どうやってここに来たのか、何をしに来たのか。必死に頭をフル回転させるが、僕の脳から有益な情報は一切出てこなかった。落ち着け、と自分に言い聞かせる。

「まずは、わかることから整理しよう。」

 僕は脳内の思考を声に出した。この森は静まり返っており薄気味悪い。独り言を話していなければパニックになってしまう。

「僕の名前は五十嵐京也。唐栗高校に通う高校2年生。部活はやっていない。家族は父、母、妹の3人。好きな食べ物はミートボール。嫌いな食べ物はきゅうりとバナナ。」

「昨日......昨日と言っていいかわからないけれど、昨日は幼馴染の華奈と一緒に学校から帰って、それで......そうだ、華奈の家に少しお邪魔して、夕飯の前に家に帰ったんだ。」

「家族みんなで夕飯を食べて、風呂に入って、妹と駄弁って、そして布団に入った。そのあとは.........。」

「そのあとのことは......思い出せない......。」

 だとしたらそのあとに何かがあったのだ。

「僕が寝ている間に、何かがあって、今僕はここにいることになる。」

 けれど、寝ている間といっても、せいぜいが7、8時間だ。そんな短時間で人一人を森の奥深くまで運ぶことができるだろうか。

 あたりを見回す。背の高い木々とうっそうと繁る名前もわからない雑草。薄暗い。きっと、木が高いせいで地表まで太陽光が届かないのだろう。上を見上げても太陽はおろか空を見ることだってできなかった。知らない場所だ。こんなところには来たことがない。

「遭難、と言っていいのだろうか......。」

 右も左もわからない森の中。ここへ連れてこられた理由だってわからない。そもそもここは日本なのだろうか。もしかしたら名前も知らない国にいるのかもしれない。

「どうする.........?ここにいるか、ここから動くか。」

 遭難した時は、なるべくその場所から動かない方がいいという話をどこかで聞いたことがある。けれども、ここに居続けたところで現状を理解する情報を得られるかと言われると、可能性は薄そうだ。

「..................。」

 僕は前を見据える。そこには薄暗い闇がゆらゆらと蠢いているように見えた。

「もしかしたら、出口を見つけられるかもしれない。」

 そんな都合のいいことあるわけない。

「み、水とか食料だって、なければ、死んでしまう。」

 何日ここにいるつもりなんだ。

「ここにいたって何も変わらない。」

 誰かが来るかもしれない。例えば、僕を運んだ人とか。

「......その人が僕を助けてくれるのか?こんなところに連れてきたんだ。いい人なわけがなだろう?。」

 動けばその分、体力も消耗する。

「ここにいたって同じさ。早いか遅いかの違いだけだ。」

 助けが来るかもしれない。僕がいないことに気が付いた誰かが通報してくれているかもしれない。

「しつこい......!そうだとして、どうやってこの場所を見つける?いい加減、覚悟を決めろ。おびえてばかりはいられないんだ。」

 足がすくむ。怖い。ここがどこかわからないから。この先に何があるのかわからないから。

 闇は、恐怖を助長させる。いつだって恐怖は闇と共にあった。

「すぅぅぅ......ふぅぅぅ......。」

 一度深呼吸をした。

「......よしっ!」

 震える足に力を入れて、僕は闇の中へと入っていった。

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