第11話 自由なきシャバ僧 ②
真桐と知り合ったのは花と知り合ってしばらくした夏の終わりごろだった。
当時まだイメージアップのための再開発が途中だった釈葉綜は、やはり荒れた集団たちによく集会の場として使われていた。釈葉綜周辺地域に空き地がまだ残っていたため、釈葉綜高校ができた当初でもそれなりの数の不良集団がたむろしており、青教会は彼らの厚生を促す役割を担っていた。
真桐はその時勢力の一つであった『曼荼羅会』レディースの一員だった。花と透華はまだ入学したばかりで、青教会の一員として厚生対象であったレディース集団と相対し、その中で真桐と邂逅している。
ただ真桐は2人を意識していたが、2人は真桐の方には全くと言って良いほど意識はなかった。
レディース壊滅に追い込んだ青教会そのものよりも真っ当な組織に所属していながらも、「厚生」の名のもとにやりたい放題に暴れまわる有咲花、桐ヶ谷透華ら公権力に蹂躙される曼荼羅会を、当時真桐はただその崩壊を見つめるしかできなかった。
それからの真桐は花、透華に近づき「弟子にしてくださいっっ」と強引に近づいて何とかして2人の舎弟になろうと決意した。
最初は軽くあしらわれる程度であったが、真桐は時と場所を選ぶことはしなかった。それまで別の高校に在籍していた真桐は、わざわざ釈葉綜高校に転入してきては、何度も何度も舎弟にしてほしいと2人に頼み込んだ。最終的には花が折れる形で決着となった。一度は相対した仲ではあったが(なし崩し的にとはいえ)自分を迎え入れてくれた有咲花という人間に、真桐は人生で初めての敬意を持っていた。
彼女の「厚生」に惚れたというのもある。それ以上に有咲花という人間がいかに高潔な人間であることを目にしていったことで「ついていくべき人はこの人しかいない」。そう確信していった。
桐ヶ谷透華の印象は有咲にくっついている「ただ喧嘩が強いだけのやつ」というのが本音であった。
それから有咲、桐ヶ谷、真桐の三人は、良くつるむようになっていった。
「じゃあ、2人は自らあの組織に入ったということかい?」
「すくなくともこいつはそう。あたしは別に入る気はさらさらなかったけど……」
「透華はご両親が『青教会』の人だったのもあるし、わたしの誘いにのってくれたの」
「なるほど、やはり桐ヶ谷透華は有咲の腰巾着というわけだ」
「その腰巾着にやられたのはどこのどいつだったよ」
「あの場に有咲がいなければ、君に不覚をとることはなかった」
「要は花に見惚れてたってことだろうが。言い訳しやがって恥はねえのかよ」
「私は透華が腰巾着でも金魚のフンでも構わないよ」
「なんでいまこっちに火種まくような物言いした」
「愛しのご主人から許可をもらえてよかったじゃないか桐ヶ谷。そうだとも、たとえ君が金魚のフンだとしても有咲の魅力が落ちることはないのだから」
「てめぇ後で覚えてろよ……」
特に意味はないが、桐ヶ谷透華に突っかかって喧嘩を吹っかけてきてはそれをかわして、有咲花が場をいさめる、それをただじっと眺めているもう一人がいる。これらはいつも私たち4人の儀式みたいなものだった。
2人の言う『魔』というのは「抑圧された欲求が具現化されたもの」であるということは聞いていたが、私にはそれが見えていなかったし、自分を抑えるということはしたことはなかった。「自分に正直にあれ」とは私が最も重きを置いている信条だったというのもあるのだろう。
それでも3人で集まって何かをやるというのは、私にとってはとても有意義な時間であったのは確かだ。
だからこそ、こうした時間は永遠に続いてほしいと願わずにはいられなかった。
しかしその願いは空しくも、ぷっつりと途絶えてしまった。
有咲花はいなくなり、桐ヶ谷透華は亡者にとらわれている。
私はどうだ? うまく隠せているだろうか。惚れた女性の影を追っていることを。
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