異世界急行、途中下車〜クラス集団異世界転移から抜け出した俺が、やがて化け物になって特異点《イレギュラー》と呼ばれるまで〜
嗚呼坂
第1話 『
その日、和泉ヶ原学園高等部、2年3組の教室が消失した。
まるで、ジェンガでその教室だけを引き抜いたかのように、2年3組の教室だけが消え失せた。
怪奇現象などという言葉では、生ぬるいほどの怪奇。
この悪夢と呼ぶべき事件に、世間は騒ぎ立て、保護者は陰謀論を唱え、警察は真剣な捜査を行なった。
けれど、何も分からなかった。
動機どころか、そもそもどのような手段、方法を用いればクラスごと消滅させられるのか。有識者も科学者も、皆目見当がつかなかった。
それこそ、魔法の存在を想定でもしない限り。
事件は一瞬で迷宮入りを迎え、各種捜査機関はこの謎に事実上膝を屈した。
この事件は、世の中で、とある物語をもじって消失教室と呼ばれることとなる……。』
「……何という壮大なドッキリ?」
その言葉が思わず口をついて出た。
俺は、授業を受けてたはずなのに、気がついたら列車の中にいた。
実際はこれが列車かどうかなんて分からないが、前に見える座席の感じからして——ちと、古臭い見た目ではあるが——きっとこれは列車だろうと判断する。
状況が把握できない。意味が分からない。
脳内を疑問符が埋め尽くしたが、まあ、そんな日もあるのだろう、仕方ない。
仕方ないのだが……この匂いはいただけない。
微かに嗅いだことのない異臭が臭っている。
何の臭いなのかは分からんが、とりあえず換気しようか、と思い窓を見た。
——窓の外には、まるで銀河のような光景が浮かんでいる。
(いやいや、それなんて銀河鉄道?)
呆然としながら暫く景色を眺め続けた。
綺麗だな。
まあ、こんな日もあるのだろう。
窓を開けようとしたがガタついているのか開かない。
つまり、この異臭はどうにもならないということだ。
仕方ない。
気を取り直して目の前を見ると、前の座席に備え付けられたネットに入れられた雑誌が目に入る。
よく名前を聞く、有名な雑誌だ。
ただし、一つおかしなところがある。
発刊日が記憶にある最後の日からちょうど一年後になっていたのだ。
ナンダコレと思いながらも、知的好奇心に突き動かされた俺に読まない選択肢はなかった。
手を伸ばし、おもむろに取り寄せ、ペラペラとめくっていく。
有名人の不倫報道など、どうでもいい内容を流し読む。
続けてめくっていくと、一際目につくページにたどり着いた。
表題、〝消失教室〟から一年。
こんなちんけなタイトルに何故惹きつけられるのか。
それは分からないが、とりあえずリード文に目を通してみる。
「和泉ヶ原学園……俺たちの高校じゃないか」
読み進めて行くと、主に以下の2点が書いてあった。
・自分達の教室が世界から消え失せたこと。
・事件は迷宮入りしたこと。
「何という壮大なドッキリ?」
わざわざ一年後の発刊日の雑誌まで用意したドッキリとか、壮大すぎるだろう。
この雑誌が用意されているということは、スポンサーにこの雑誌の会社がいると言うことか?
壮大なドッキリすぎる。
(ん……? ドッキリだということは、どこかにカメラがあるのか)
そうに違いない。
そう思って視線を彷徨わせてカメラを探してみるが、見つからなかった。
それもそうか。
簡単なところに仕掛けたら、すぐに見つかってしまうもんな。
しかし、ドッキリだということは撮れ高がないと困るだろう。
やれやれ、仕方ない。
ここは一肌脱いで、引っかかったふりをしてあげるとしよう。
「ド、ドウイウコトナンダー、ナゼオレハレッシャノナカニイルンダー」
これだ。
こういうのが見たかったんだろう?
『って、大根役者か! そもそもキミさっき「何という壮大なドッキリ」って呟いてたよねえ!』
突如目の前にホログラムのようなナニカが浮かび上がる。
それは人の姿をしていて、ある種のマジシャンのテンプレートのような—— 頭にはシルクハット、顔には仮面、手にはステッキを身につけた——格好をしていた。
にしても、さっき喋ってた内容まで知っているとは……仕掛け人の人だろうか。
きっとそうに違いない。
その背中には『ドッキリ大成功!』と書かれた看板を背負っているのだろう。
「……ドッキリは、大成功ですか?」
『チャッチャラー、ドッキリ大成功〜! ってなるかい!』
見事なノリツッコミ。
芸能界の方だとしか思えない。
いつの間にホログラムのような技術が出来ていたのかは知らないが、今目の前にあるのだ。
知らないだけで完成していたのだろう。
『もう、全く。なんでボクがこんな目に……』
マジシャン風の人が何やら嘆いている。
何か嫌なことでもあったのだろうか。
「まぁ、そんな日もありますよ」
『誰のせいだい! 誰の! いや、一概に君のせいとも言えないケド……。あー! とにかく、状況を説明させてもらうよ』
状況を説明するも何もドッキリだということは最初から分かっているのだが……。
まあ、ここは一旦気付いてないフリをしておくか。
「なるほど……つまりこれはドッキリじゃないんですね」
『え、そうだけど……急に物分かり良くなったねキミ』
やはりこの反応が撮れ高的に正解だったみたいだ。
『ようやく気づいたみたいだけど、これはドッキリではありません。キミたち和泉ヶ原学園高等部2年3組は、まるごと異世界に来てもらうことになってます』
座席はくたびれていて、異臭のする列車……。
異世界に行くにしては残念すぎる乗り物だ。
それに2年3組をまるごと連れて行くと言っていたが、俺以外に乗っている気配もない。
やはり、ドッキリだと言わざるを得ない。
『キミたちには異世界適合度に応じてランクが設定されています。ちなみにキミは最低ランクのFランクね』
「Fランク?」
『そう、Fランク。だからプリインストールされるスキルも基本三種だけ。それにFランクの車両だから、乗ってる席もボロボロで、ちょっと変な臭いがするでしょ? これも全部キミがFランクだから。パートナーに選ばれたボクの身にもなってほしいってもんだよ』
なるほど、そうやって辻褄を合わせてくるか……。
流石テレビ局。
そこまで甘い綻びはないみたいだ。
にしても、この似非マジシャンがパートナーとはどういうことで?
聞いてみるか。
「パートナー?」
『そう、誠に遺憾ながら、ボク、レティシアはキミのパートナーに選ばれました……』
「そうか……レティ、よろしく」
『うっわキミ馴れ馴れしいね……あ、そういえば、キミの名前は?』
知らない人に名前を聞かれた時は答えないようにすべきだろう。
特にこのような怪しい格好をした相手には。
「俺は、エマノン、だ……」
『嘘だよね?! 絶対嘘だよね?! 一応クラス名簿貰ってるからね!? でももらった名簿にそんな名前ないから!』
「ちなみに絵馬に吞でエマノンだ……」
『あ、絵馬が苗字だったのね……なるほどなるほど、って、騙されるかーい!』
はぁ、はぁ、と目の前でマジシャンが息を切らしている。
『……埒が明かなそうだから先に説明をしようか。とにかくキミは今から異世界に転移するんだけど、その前段階としてキミの体には3つのスキルがインストールされています』
ふむ、そういえばこのオンボロ列車のセット裏はどうなっているのだろうか。
テレビの舞台裏、というのは些か興味がある。
『その3つとは【セーフティ】【マップ】【ステータス】の3つで……って何でキミ立ち上がってるの?』
相変わらず列車には自分の他に誰もいない。
マジシャン風の仕掛け人以外には。
他にクラスメイトがいるというなら確かめてやろう。
『ねえ、どこに行こうとしてんの? 別の車両にはアクセス権がないから行けないよ?』
列車の通路を歩き、別の車両への扉を開こうとしてみる。
ガタガタ、と揺すってみても開く気配はない。
『だから……無駄だって』
やはり、な。
きっと、車両のセットをいくつも作るのは大変だろうから、この車両しかないのだろう。
つまり、この扉の先なんて存在しないし、クラスメイトもこの場所にはいないのだ。
いや、そもそもこれは扉ではないのではないか?
まあ、それなら別の扉を開けてみよう。
外に繋がっているだろう扉に手をかけて、力を込める。
ギギギ、とドアの軋む音。
オンボロさをここまで再現してくるとは、流石は壮大なドッキリ。
ドッキリ——そう、ドッキリだ。
そもそも異世界だとか、スキルだとか……くだらない。
そんなので騙されるのは小学生くらいだろう。
『だ、か、らぁ、開かないってば……』
「……開け」
少しずつ扉が開いて行く。
ふん、やはり開くんじゃないか。
『……って、う、嘘でしょ! 何で開くの?!』
ミシミシと音を立てながら扉が開いて行く。
『ちょ、ちょっと待って! 開けるの待って! 危ないから! こんなとこで開けたら死んじゃうよ! 絶対に開けちゃダメ!』
幼稚な脅し文句だ。
それに、日本には絶対にダメだ、と言われるとしなければならないという文化がある。
「……ソレっ」
『ぎえーーーーー!』
そして、扉を開き切ると同時に、俺と似非マジシャンは列車の外に弾き出されるのだった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
NG:ノリツッコミが過剰すぎるレティシア
「……ドッキリは、大成功ですか?」
『チャッチャラー、ドッキリ大成功〜! それじゃ、セットの外行こか〜』
ガラガラ。
『ぎえーーーーー!』
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