異世界に来た僕はユニークスキル『直感』で危険を回避する

ZOMBIE DEATH

異世界に来た僕はユニークスキル『直感』で危険を回避する。

 轟音が響きわたり、あたり一面に沸き出す触手……


 虚無という虚な存在が『魔王』の持つユニークスキルの『創生』効果で実体化し巨大な触手が僕を地の底に引き摺り込もうとする。


 『Intuition!!』


 それを僕の持つユニークスキルの『直感』で回避する。


「人の子の『勇者』よ!これでコイツは実態になった。今から私がコイツに『封印』を施す!お前は私の意思を継ぎ『魔王』になってこの世界の生きる生命を守ってくれ!」


「決して、あの『欲深きの王達』の世界を作ってはならん!この虚無の根源はあの者が欲して呼び出した『欲望』が原因だ。異世界召喚の禁呪でお前達を呼び出した弊害だ!」


「いいか!我が城に宝珠がある……そこに我が蓄えし叡智が封じてある。それを使いこの世界を正しい方向へ導くのだ!この世界に生きる者全てが手を取って歩める未来のために!」



 魔王の言葉の最後だった……


 ここは『最果ての迷宮』と呼ばれる場所だ。



「死んでたまるか!こんな場所で!元の世界に帰るんだ!」


『Intuition!!』


 地面から伸びた巨大な目玉の化け物は目玉の身体から無数の触手を伸ばし僕を捕縛しようとする。


 一瞬の油断さえならない……僕は『直感』のスキルを使い寸手で交わし、巨大な目に剣を突き立てる。


「ギィョォォォォォォ!」


 奇妙な断末魔をあげて絶命する。


「フレアストライク!!」


 僕は振り向きざまに超高熱の槍魔法を唱えると、ブヨブヨに膨らんだ人面種の化け物に撃ち込むと、燃え上がり焼け爛れ動かなくなる。


 僕は頭で考えるより先に剣を振るい、『直感』のスキルで交わして魔法を放つ……この場所で生き残るためには他に手段がないからだ。




 異世界からの勇者と持て囃され、口車に乗ってしまった僕は『王国に裏切られた』


 国王は『魔王』と呼ばれる存在が、魔物を使いこの世界を脅かし人間を滅ぼす算段だと言われた。


 しかし実の所『魔王』はそんな事を考えていなかった……


 寧ろ魔王はこの世界を救うために『虚無』という化け物と死闘を繰り広げていた。


 多くの魔物を使い、無限とも言える闘いを数代にも及び行っていたのだ。



 僕がこの迷宮にたどり着いた時、魔王は自分の存在を封印の鍵にして『虚無』を封印する直前だった。


 歴代の魔王が時間をかけて、弱らせ今の世代の魔王が漸く封印できるまでになった。



 しかし『人間の王』は欲深き王であり、彼はこの世界の全てを欲した。


 その欲望は、僕にとっても人類にとっても最悪な形で成就する事になる。


 この世界の状況を知って尚、人間の王は魔王とその配下に戦闘を任せこの地を封印する準備を始めたのだ。


 この地に封印を張り『僕を含め多くの魔族諸共、次元の狭間に隔離』したのだ……



 魔王は魔族領に残して来た自分の眷属を救うために、虚無諸共この地で果てるつもりだった……しかし現状としては魔族が人間に滅ぼされるのは目に見えている。


 しかし、この虚無を放置などして置けない。


 世界を蝕み全ての生命を飲み込むだろう……そうなる事がわかっている以上、もはや魔族や人間などと言い争っている場合ではないのだ。


 その未来だけは、魔族を統べる者としてあってはならない。


 そう思った魔王は自分の後継者に『異世界人である僕』を選んだ。




 『虚無の本体』は封じられたが、この迷宮という存在が無くなることはない。


 迷宮は穢れを元に巨大化し、より深く深化する……穢れの元は人間が発する欲望だ。


 穢れは一箇所に集まると、ダンジョンを作りその中に魔物を生成する。


 そしてその魔物は、時を経て実体を手に入れてダンジョンからスタンピードと言う形で外に排出される……虚無の先兵としてだ。


 その魔物の多くは生きているものに無差別で襲いかかり更なる穢れを生み出させる。


 「恐怖」、「無念」、「怒り」など様々な負の感情が穢れになりまたダンジョンに流れ込む。



 魔族はこの世界そのものが生み出した存在だ……その存在はダンジョンから生まれる魔物に酷似している。


 それどころかダンジョンと同じ個体さえも居るくらいだ。


 理由は簡単で、この世界の神は『虚無』が生み出した個体と弱い『人間』を争わせても、結果的には虚無を強固なものにしてしまうと気が付いていた。


 争わせた時の人間が抱く負の感情が全て『虚無』に吸収され、それを元にダンジョンは増強されるからだ。




 その為より強固な個体である魔物をそのまま利用したのだ。


 この世界に生まれ出た個体としての存在は神も自由に使う事ができる。


 そして、発生由来が同じである『魔族』は穢れの発生の対象ではなく、『吸収』側になるのだ。


 これで、穢れの多くは『魔族』が吸収して力に変えれるはずだった……。




 ダンジョン以外の魔物個体の、その全ては『魔族』である。


 魔王が新たに生み出した別の生き物であり、穢れの個体とは別の物だからだ。


 魔族はその点を理解している。


 魔都と言うコミュニティを作り、共に意思疎通を図って共に生きていく魔物は『魔族』であると。



 しかし多くの『人族』はそれを理解しない……魔物と姿形が同じ『魔族』は変わらないとしか思えないからだ。


 魔族はこの世界を虚無の存在から守る為に作られた存在だと言うのに……


 

 魔王の『創生』のスキルは同じ眷属を生み出す力だ。しかし、存在の根本が『魔物』な為『人間』を作ることはできない。


 歴代の魔王は少しでも親密な関係を作るべく、知識ある人形の魔族を作った。



 しかし、この行動を人族の王は『脅威』と捉え人間の多くに『魔族』は打ち払うべし!と宣言したのだ。


 過去に『歴代の魔王』から『人族の王』には、この世界の置かれている現状と共に虚無の脅威を幾度も知らせたが、協力するどころか『異世界召喚』を頻繁に行う行為へと発展してしまう。


 この世界の『裏の事情』を知っている厄介者を始末したい『人間の王』の欲望からだった。


 彼等にとっては金が自由になり豪勢な生活ができれば後はどうでもよかった……虚無など戦った事がないのだ想像さえもできないのだ。


 


 人間の王にとって『魔王の存在』は権力を行使して、今の自分の地位を守る為のいい材料だったのだ。


 外敵がいれば皆の注目はそっちに集まる。


 その目が自分に向かない以上は、多少の強硬策でも『外敵排除』を名目で国内を自由にできたからだ。




 人族の王は何代にも渡り『異世界召喚』を行いこの世界に『異世界人』を呼び込んだ。


 その結果、彼等は魔物と戦い傷つき死んでいった。


 その負の感情を発する異世界人は、虚無の存在をより強固にするには持ってこいの逸材だった。


 『この世界に連れ込まれた苦しい思い』は虚無の存在をどんどん肥大させていった。


 

 魔王から託されたこの世界だが、僕は既にこの世界の住人に利用されて『人間』なのに『魔族』と共にここに封印されたのだ……それも同じ『人間』にだ。

 


 僕はこうしてこの地獄の様な『迷宮』に1人取り残され……虚無の根源から無限に発生する『純血の魔物』と死闘を繰り広げる事になる。


 多くの魔物を打ち倒し、その肉を喰らい空腹を満たして、力をつける……『ここに封印した人間共に対価を払わせる為に』



 ただ黙々と、魔物を狩り続ける日々が続き、ある時に意思の片隅に何かが入り込んだ。



『何故そこまでしている……何故あきらめない……諦めて全てを放棄すれば楽になれるものを………苦しみも何もない世界が待っているのだ……形ある物いつかは崩れて無くなる……無限に続く事な度ないのだぞ……』



 僕は『直感』でそれが『虚無の意識』だと気がついた。


 虚無に意識があるとは思っても見なかった。


「虚無か!?話せたんだな……俺はこんな所にまんまと口車に乗せられ連れて来られて来たマヌケさ!異世界から連れて来られて、『魔王』から世界を救うのが仕事だと思ったが、どうやら利用されただけだった様だ。」



「だから『人間共に落とし前をつけて貰う』ここに封印した落とし前で、『この世界の全てを消滅させる!』このクソッタレの世界なんぞ『俺は要らない!!』」



『おまえ人間のくせに……コッチ側か……消す者は自ら消える者でもあるんだぞ……我が虚無は全てを飲み込み消し去る。自分さえもだ……それが虚無であるが故に何にも縛られず、自分の存在も縛らない……何処にでもあり、どのにも無いモノ』



「難しい事はどうでも良い!……俺はこの『封印された最果ての迷宮』を出て俺を騙したこの世界の全部を消し去り、元の世界に帰るんだ!邪魔をするならおまえから消してやる!」



『面白いぞ!ニンゲン!オマエにオレをやろう………存分に使え………オマエの元の世界も消すなら喜んで手伝ってやろう………』



 この言葉を最後にダンジョンの魔物が僕を襲う事がなくなった……



 虚無であり、人間であり、異世界人である僕は『直感』で虚無の力を使い、この閉ざされた空間から出る方法を見つけた。



 こうして欲に塗れた愚かな人間の王達によって、人族と魔族の脅威になる『虚無の王』が生まれる事になった。



 そう……これは、この異世界が『僕の手で消滅するまで』のお話……


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