第9話 休日、没日
休日だ。長らく眠っていられるし、みんなはそれぞれのことに打ち込んでいるため、騒々しさが少ない。
疲れた平日のことを暫くの間──夢に見ていた。
まずはペンネームをバカにされたのは辛かったな。三桜には作品まで見られていたし、東京湾に身を沈めようか本気で迷った。
ゴソ……。
でも一番はえりだろう。
あそこまでの筋肉好きとならば、筋肉じゃなくては渡り合えないものがある。
日壁も鼻の下を伸ばして、えりと仲良くなってくれたし一石二鳥な日だった。
ゴソ……。
「……駄目だ。ゴキブリでも居るか?」
七星は寝ぼけた目をこすって辺りを見渡した。
案の条だ。
二本の触角が飛び出ている──黒い影を見つける───。
「てぇ、はぁ!!!!!!!!?」
それは明らかに例のGの大きさを超越している。
なおかつ灯台下暗し、正体はすぐ近くのベットに横たわっていた。
「何やってんだえり!!!!!!!」
「……ん、目覚めたか」
とてつもない糾弾をかました七星。
それもそのはず。女子高生である梢えりが、七星の隣からノロノロと上体を起こしたからである。
「そして、なんだその格好は!!」
「えーと……困ってそうだったからか?」
「今、絶賛困り果ててるんだよ!!!」
「なぜだ……」
なんとえりはバニーガールの服装をしていた。
……え、エロい。なんどもえりの下着姿で徘徊する姿を見ていたからえりをそういう目で見ることはなかったはずなのだが、つい胸元に目が吸い込まれる。
じゃなくて!
「まずいだろシチュエーションが!!」
「作品のため、私に友達というものを恵んでくれたお礼だ。するって言っただろ?」
た、たしかにと、思い返して相槌を打つ七星。
けどすぐに我に返って、
「なんで、その結果がなんで色仕掛けなんだよ!」
「だって、困ってそうだったから──小説」
「……はい?」
七星は余計にこの状況を理解できなくなってしまった。
小説のために──それでバニーガールえりは部屋に侵入──。
「ま、まさか。読んだのか俺の、小説」
「ああ、全話、徹夜してな」
もう空いた口が塞がらない。
あの鬱小説を、えりに、見られたことのショックが計り知れなかった。
「そうだなー私が思うに」
「あーもう言わないで……」
七星はえりを遮る。
そして、深く息を吐いて、デスクチェアに腰掛けた。
覚悟を決めて、えりに振り返った。
「ひどかっただろ。有名作家があんなもの読んだら失神するレベルだろ」
「悪くは無いけど、良くもない」
そうやってえりは布団を揉みながら言った。
悪くはないけど、よくもない────えりの立場なら当然の感想だ。
「もっと展開を個性的にすべきだと思った。『メイド喫茶で働くバニーガール装束のアイドルを勇者で探偵やってる俺の虜にする!』ていうタイトルならもっと出来ることがあるだろ」
七星は自分のノートパソコンを開いた。そして、ページを開く。
えりに感想を言われた。何ならタイトルまで覚えられている。
見られるだけで恥ずかしいのに、えりが真っ当な解析をしてくれている現実を七星は本当か疑ってしまう。
「ネタは面白い。けどバニーガールは賭け事の場に出没するもの、メイドは屋敷で元気に働くホワイトなイメージが強い、アイドルは両方と真反対で日の目を浴びて世間の前に立つ。しかし、ななせはその多面性を発揮できずに平坦な文章が出来上がっている」
「そうか……」
七星はメモを取り始めた。
「まぁ、要するに。もっといろんなシチュエーションだったり、キャラの個性を出せばいい。……ついでに言うと、ななせ、
「でも、リアルって……」
女性の現実を見て生活したせいで書けない。
つい、文句を他に当ててしまう自分が悲しくなってしまった。
「だから私がお礼になんでもいいぞ……小説のためになるならな」
「駄目ですよ、大切にしてください自分を。それに言われた通り
えりは本当に小説に熱意を込めて、一瞬一瞬を繰り返しているらしい。
求めるものを妄想だけじゃなく現実でも追求するし、他の作品だってとことん研究している。
「やっぱり、えりはマジもんの小説家ですね」
「一応人生も小説も先輩だ」
眩しい朝がやってきた。
少し騒々しかったけれど、いい休日スタートだ。
そんなとき。鍵をかけて居たはずの扉が不気味な音を立てて開いた。
ピッキングか、なにかだ。
「…………姫路七星」
七星をフルネームか、ペンネームで呼ぶやつなんて一人だ。
「誤解だ、三桜」
「……もうネットですでにコンクリートを注文しました」
「やめて、沈めないで東京湾に」
「なんで、えり姉はバニーガールなんですかね?」
「あはは。美佐穂を見習って、うさぎにでもなりきりたかったんじゃないか?」
すると、えりはピンと来ないような顔で、
「単純に七星にお礼がしたかっただけだが」
と、ありのままを伝えたのである。
つまり七星、死亡である。
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