第16話
「ちょっと、補佐官はいる?」
総統府の煉瓦造りの建物にカルナの声が響く。それを追いかけるように甲高い足音も聞こえてくる。ある意味、総統府のいつもの光景であった。
「はい、いますよ。何ですか」
うんざりとした様子で返事をする補佐官もいつもの光景である。だが、今回はその後に続くカルナの声が違っていた。
「すぐに私に近衛兵を何人か貸して。剣の腕もそうだけど、特に今回は頭の方もいい人をお願い」
カルナはいつもより低い声で補佐官に頼み込む。もっとも、補佐官はそんなカルナにちらりと視線を向けただけだった。
「近衛兵ですか。今度は何の事件に首を突っ込む気ですか」
補佐官は肩をすくめる。
「何の事件?決まっているじゃない。あなたも聞いているでしょ。バルドが殺されたのよ、あのバルドが!」
そう叫んだカルナは補佐官に詰め寄る。
「ええ、もちろん聞いていますよ。あれは悲しい事故でした」
そう言って補佐官は神妙な顔で目を伏せる。
「事故?へえ、あれが事故ね。剣で体を切られる事故って、どういう事故?」
唇の端をゆがめ、カルナは精一杯の皮肉を口にする。
「ええ、事故です。確かにバルドは血まみれで倒れていたところを発見されました。しかし、その傷が剣によるもの、それも細身の剣であるという証拠はどこにもありません」
「なにふざけたこと言っているの!そこまでわかっているんでしょ!なんでそれを事故だなんて言うの!?」
カルナの大声にも補佐官は顔色一つ変えない。ゆっくりと立ち上がり、カルナの横に立った。
「証拠がない以上、これは事件ではなく、事故になります」
まったく取り付く島のない補佐官の態度に、カルナは何かを察したようにうなずいた。
「……わかったわ。それじゃあ質問を変えるけど、この判断をしたのは誰?」
「これは国家運営審議会の決定によるものです」
「国家運営審議会……なるほどね。事情がわかったわ。剣舞披露会で優勝したような人が、どこの誰ともわからない人に殺されるようなことがあってはならない。何しろ剣舞披露会で優勝した剣士はこの国の頂点を極めた者だからね。そんなことがあったら、剣舞披露会の価値が下がってしまう。そういう理屈でしょう?補佐官」
「……」
補佐官は答えない。
「いいわ、あなたにも立場ってものがあるでしょうからね。これ以上のことは聞きません」
カルナはため息をつく。
「それにしてもお役所ね。権威を守るためにはどんな理屈だって通してしまう」
そこでカルナは頭を上げた。
「だったら、こちらも規則に基づいて国家運営審議会の臨時開催を求めます」
「バルドさんのことなら、もうあの決定は覆りませんよ」
「いいえ、そのことではありません。もっと別のことよ」
「別のこと?」
「ええ、これをきっかけにして堕落した魔導士協会を変えないと」
何か隠された意図を感じさせるカルナの強い口調に、補佐官は黙って開催通知に署名を記した。
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