第12話 かわいそうなわたし
※Twitterのフォロワーさんが募集されていたホラーお題を元に書かせて頂きました。
フリーペーパー編集者の宮脇さんが大学生の頃に見たものの話。
当時、生まれ育った大分県を離れて熊本県の大学に通っていた宮脇さんは、夏休みなどの長期休暇に入る度に1〜2日ほど地元へ帰り、不用品の処分や熊本のアパートに持って行く服などの整理をしていた。
大学2年生の夏休み、例によって地元へ帰省した宮脇さんは自室の押入に古いビデオデッキが仕舞われているのを見つけた。
思えば小学生の頃、このビデオデッキを使ってよく好きな歌番組を録画したものだ。懐かしい気持ちになりながら挿入口を捲ると、中にビデオテープが入っていた。
あら、だらしない。宮脇さんはビデオデッキのコンセントを繫ぎ、中からテープを取り出した。そしてラベルに書かれた題字を見て眉をひそめた。
『かわいそうなわたし』
こんなビデオあったか?
何の番組を撮ったものか、気になった宮脇さんはリビングのTVにビデオデッキを接続してみた。
ビデオデッキは三色端子を繋ぐ古い型ではあったが、幸い当時の宮脇さん宅ではまだブラウン管TVを使用しており三色端子に対応することができた。
ビデオデッキが正常に作動することを確認すると、宮脇さんはあのテープをビデオデッキに挿入し再生ボタンを押した。キュルキュルという音と共に、真っ暗だったTV画面にノイズ混じりの映像が流れ始める。
映像の冒頭には襦袢を着た小さな女の子が映っていた。沢山の花に囲まれた中で、腹の前に手を組んで横たわっている。まるで棺桶に納められた遺体のようだ。
宮脇さんは女の子の顔に見覚えがあった。10年以上も前に何度も見てきた顔。鏡の前で、父が撮った写真の中で見てきた顔。幼き日の宮脇さんの顔。
宮脇さんは思わずビデオを止めた。そしてテープを取り出し、題字の筆跡を確かめた。線が細く行書と楷書の中間といった形をしているその字は宮脇さんの母親が書く字によく似ていた。
お母さんに訊いてみようか。掃き出し窓1枚隔てた先の庭で洗濯物を取り込んでいる母親を見ながら宮脇さんは考えたが、すぐにやめておこうと思い直した。あの不可解な映像について母親が知っているとは思いたくなかった。
宮脇さんはテープをビデオデッキに突っ込むと、コンセントと端子を引き抜き自室の押入に戻した。
翌日、熊本に帰る為の荷物をまとめていた矢先に、宮脇さんはふと気になって、押入に仕舞ったビデオデッキの挿入口を捲ってみた。そこにテープは入っておらず、恐ろしくなった宮脇さんはビデオデッキをこっそり熊本に持ち帰りゴミとして処分した。
33歳になった宮脇さんはつい最近までこのことを忘れていたらしい。
では何故今になって思い出し、私に話してくれたのか。尋ねてみると、宮脇さんは鞄から1枚の封筒を取り出し、私に差し出してきた。
「同じタイトルのDVDが送られてきたんですよ。それでせっかくだし黒牟田さんのネタにしようと」
宮脇さんいわくDVDはまだ再生していないらしいが、例によって題字の筆跡は母親の字にそっくりらしい。
ただ、差出人の書かれていないこの封筒の消印は青森県の郵便局で押されていた。
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