第4話 電話

喫茶店でライター仲間の木村さんと仕事の愚痴を漏らし合っていた時、突如木村さんのスマホに電話がかかってきた。


「あっ、ちょうど良かった。黒牟田君、これ聞いて」


ニヤニヤと笑いながらそう言うと、木村さんは通話ボタンをタップしスピーカーモードに切り替えた。


すると、ザァザァという砂嵐のようなノイズに混じり人の声が聞こえてきた。


『おぬぃあぬぇるくぇつぃもいしぁたぁうぇどぅんぬぁんぬ』




「…面白いでしょ?」


目を輝かせて木村さんが言う。彼いわく、仕事の関係で古い文献を漁っていたらこんな電話がかかるようになったそうな。


「何を調べたんですか?ていうか何語なんですかコレは?」


毛の生えていない眉をひそめて尋ねる私に、木村さんは海外ドラマのワンシーンの如く大袈裟に肩をすくめて両手を上げてみせた。


「残念ながら何語かはぜんっぜんわからない。だいたい英語と中国語と韓国語しか話せないからね」


「言語能力つよっ」


「でも最近、死に前の人が書いた手記を調べてたから、それが関係あるかも。自殺した人の恨み節が綴られた遺書もあったし」


絶対それだよ。いくら仕事とはいえ危ないことはやめてくれ、なんならお祓いに行ってくれと説得するも、木村さんは馬耳東風といったところで「そのうちね」としか返さない。


「これ聞かせてビビらせたい人が何人かいるからね、それまでは残しておくつもりだよ。五嶋書房の金本君とぉ、樹君とぉ、あと同業者の八嶋さんとぉ…」


ビビらせたい相手の名前を次々と挙げる木村さんは何かに取り憑かれているかの如く活き活きとして楽しそうで、私は何かあったら無理矢理にでもお祓いに連れて行こうと決め込んだ。


ちなみにこの話を書いている現在、木村さんはレコーダーの不具合により録画予約していた番組が録れなかったことを除けば特に変わったことなど無く、元気に知人をビビらせている。

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