第2話 残り4日
「今日の夜ご飯はカニでーす!」
母が大きな声で、嬉しそうに言う。しかし私はカニが好きではない。食べたことは無いが好きではない。何故かは分からないが。
「えっマジ!?」
私の兄は嬉しそうに喜んでいる。
「しかも高いの! 高級なのよ!」
母はカニをまじまじと見つめ話している。
「えー!? 嬉しすぎるって!」
兄も一緒になってカニをじっと見ている。見ていても何も変わらないのに二人はカニをまじまじと見つめている。
「ほらほら、イス座って」
カニに夢中になってた兄をイスに誘導する。私もイスに座る。
「あれ? 伊月は嬉しくないの?」
ふとした瞬間、カニに夢中になってた母が私の存在に気づく。カニに負ける私。
「カニ……好きじゃない」
「なんで! おいしーのに!」
「要らない」
「えー。美味しいのに。その美味しさが分からないの?」
「うん」
家にはカニが好きな人しか居なく、共感が求められない。
「食べてみなさいよ! こんなの滅多に無いよ?」
こんなの滅多に無いって……。母と兄が好きならすぐ買ってくるでしょ。
「要らないって」
と言ってカニを母の方へ渡す。母はそれで満足したのか食べさせるのをやめて自分のを食べ進めた。
「美味しいね~」
「ほんと美味いな!」
美味しい美味しい言ってるけどそんなに美味しいものなのか? 私は食べたことが無いから分からない。
……食べたいと思っているのか?
いやでも食べたくない。要らない。頭の中の考えをすぐに消し去りご飯を食べる。
「もったいないな~」
「ほんとそう。もったいない」
二人ともわざとらしく言ってくる。白米が美味しいから良いし、白米の方が絶対美味しい。よし、そうだ。食べなくても良い。自分にそう言い聞かせた。
ーーーーー
4日後、カニを食べる機会もカニを好きになる機会なんてやってこないことを知った。
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