人間とは何か

逢坂 透

第1話 究極の選択〜肉体を持つか・持たないか

一つ、究極の質問に答えて欲しい。

これから挙げる2つの選択肢AとB。

君はどちらを選択するだろうか。


選択肢A

君は「肉体」を持たない意識だ。

時空に縛られることがないから、あらゆる次元の、全ての時、全ての場所に存在している。


君の意識だけではない、「肉体」を持たないあらゆる意識が同じように存在している。

まるで無限に拡がる意識の海の中に漂っているかのようだ。

君は一つの意識であるとともに、それら全ての意識と溶け合っていて、至福の一体感に包まれている。


そこには、どんな分離も、争いも、憎しみも、存在しない。

なぜなら、意識が蓄えた情報を完全に共有し合っているから。

全てのつながりを理解しているから。


そして、そこには、もちろん死という終わりもない。

まるで「天国」「極楽浄土」と表現されて来た、その世界そのものの状態と言えるだろう。

この「肉体」を持たない意識の状態が、選択肢Aだ。


選択肢B

君は「肉体」を持った意識だ。

つまり「人間」だ。

生まれた瞬間から、死という100%確実な終わりに向かっている。

君に与えられているのは、生と死の間に、その身体で様々な「体験」をする自由だ。


君の意識は「肉体」を持ったことで、外界と隔てられている。

君以外の、全ての人、全ての生命がそうだ。

そこには絶対的な隔たり、分離がある。


君は、他の意識について、ほとんど何も情報を得られない。

親友、家族の誰か、どんなことも伝え合える特別な人が居るとしたら、それはとてもとても恵まれている。それでも、分かち合える情報はわずかだ。


それぞれの肉体の中で目覚めた意識は、物理的な世界の法則の中で、因果関係を眺め、理解し、それぞれの価値観を身につけている。


肉体を持った意識は例外なく、この宇宙で唯一無二の個体として、まったく個別の体験を経て、現在にいたっている。

完全にオリジナルの意識なのだから、完全に理解をし合うことは不可能だ。


それぞれの意識が持つ価値観、思い込み、偏見がズレを生む。

誤解が生じ、反発、嫌悪が広がる。

争い、憎しみの連鎖が止まらなくなることもある。


物理的な世界では、時は一方向にしか流れない。

歴史が積み重なれば、埋められない溝が出来てしまう。


「肉体」を持ったことによる分離。

この分離こそ、全ての哀しみの源泉だ。

他の意識から切り離され、どの意識ともつながっていないと感じることほど辛いことはない。

「肉体」を持った意識、つまり人間は、分離という宿命の下に存在している。


さて、ここで最初の選択に戻ろう。

君は、どちらを選ぶだろうか。

選択肢A 「肉体」を持たない意識

選択肢B 「肉体」を持った意識


答えは最初から決まっている。

君はBを選んだから、この世界にいる。

高次元に存在する意識が、低次元の肉体の物質的な制約を受け容れて人間として存在している。


君は「自分」という、世界から分離した意識を持ちたかった。

そして、自分の肉体の「眼」を通して、あの青い空を眺めたかった。

肉体の「皮膚」を通して心地よい太陽の温もりを感じたかった。

その「口」と「舌」で、美味しい物を食べ、味わいたかった。

その「耳」で、美しい音楽の調べを聴きたかった。

君がその肉体の五感で味わえる全ては、肉体を持たない意識のままでは得られないものだった。


確かに、肉体によって得られる悦びは捨て難い。

でも、それだけで君は、肉体を持つ大変さを受け容れたのだろうか。


では聞こう。

君は今、「心から幸せ」だろうか?


毎日、その眼で世界を見つめ、食事を味わい、好きな音楽を聴くこともできているだろう。


それが、君が肉体を持った理由なのだとしたら、充分じゃないか。

それだけで「心から幸せだ」と言えないとすれば、他に本当の目的があるからだろう。


肉体を通して、この物理的な世界でやりたかったこと。

それを思う存分にやれていれば楽しくて仕方がない。

そんな毎日を送っていれば、「心から幸せ」なはずだ。


君が「やりたかったこと」は何だ?


分からないとすれば、救いがないよね。

肉体なんかに宿らず、意識の海の天国にいた方が良かったということになる。


君は何をするために、生まれてきたのか。

それを明確にしよう。


君の本質は、その意識だ。

肉体があっても、なくても消え去ることはない。

永遠だとしたら、何をする?

何を極めたい?


何度でも、何度でも

肉体に宿り直して、取り組みたいと思えるテーマは何だろう。


何度、挫折したって構わない。

エンドレスで、やり直しができる。

そう思ったら、何をしたいだろうか?


すでに何百回と生きて、試行錯誤を繰り返しているのかもしれない。

まだ足りない、もっとやりたい。

だから、今、ここにいる。


なのに、そのことに手をつけないでいるとしたら、どうだろう。

肉体と結びつき、体験する機会はとても貴重だ。

限られた今回の生の時間を無駄にして良い訳がない。

本当にやりたいことを、自分の意識の中から掘り出そう。


答えは君の中にしかない。

すぐには、意識の核心にたどり着けないかも知れない。

世間の常識、他人から受け取ってしまっている価値観。

身近な人や、大切にしている人の希望。

いろんなものが、覆いかぶさっていると、君の意識の正直な要求をキャッチしにくくなってしまっている。

でも、必ず見つけ出すことができる。そのための確実な方法がある。


毎瞬、毎瞬、自分の意識に問うことだ。

今、やっているこのことは、自分の意識が、その奥底から望んでいることかどうか。

YES か NOか。

何度も、何度も心に問い続けることだ。

問えば、問うほど、自分の意識の核心が姿を現してくる。

そして、何百回、何千回の問いの先に、これが自分の意識が求めているものだ、そう言い切れる何かにたどり着く。

それを見つけるのだ。

そして、誰が何と言おうと、この人生で出来る限りやり切るのだ。


君が「心から幸せ」になる方法は、君の意識が純粋にやりたいと思っている、そのことを、夢中になってやり続けることだけだから。


そして、分離という宿命を負った人間の世界で、君が出逢う人々を「絶対的に幸せにする」ための唯一の方法も、君が「心から幸せである」ことだけなんだ。


この世界で、君を無条件に愛してくれている人がいたならば、その人の一番の望みは、君が「心から幸せ」であることだ。

君が幸せであれば、その人を満たすことができる。

他に、その愛に応える方法はない。


そして、君が「心から幸せ」でない場合、君はどうしても、その欠落の原因を、環境や、他者の中に見いだしてしまう。

そしてそれを埋めることを、自分の外側に、誰かに、求めてしまう。


そのように求めることでは、決して欠落を埋められない。

何故なら、君の心が満たされないのは、君が自分自身の意識の核心が求めていることを、結局「していない」ことが理由だからだ。

自分自身が本当に求めていることを、存分にやって「心から幸せ」であること以外に、解決方法はない。

君がそうなっていない時に、君が出逢い、関わる人を、幸せにすることはできない。

君の欠落の穴埋めに使われ、君に依存されてしまう。その場合、その人が「心から幸せ」な状態にはなり得ない。

つまり、君が「心から幸せ」でなければ、君がこの世界で出逢う人を決して幸せにすることができないということだ。


君が選択肢Bを選び、この世界に存在する限り、まず「心から幸せ」であることが絶対的な義務なのだ。

それが君だけでなく、君と出逢う全ての人を幸せにする前提条件なのだ。



肉体を持つ意識は、分離という宿命の下にあり、分離しているが故に、偏見、誤解、嫌悪、争い、憎しみが生まれていると、書いた。


しかし、君が「心から幸せ」であれば、君の意識と肉体の行う全ての行動との間に分離がないということになる。

君自身の意識がそのように完全に統合された状態となると、環境や他者との分離を意識することがなくなる。

意識の内側にないものは、外にも認識できないのだ。


つまり、全ての分離の哀しみを消し去る、唯一の方法は、全ての人が「心から幸せ」となることだ。

全ての人が、自分の意識の核心が求めていること、やりたいことを、やり切ることだ。


今ここにいる君ができることとしては、君自身が「心から幸せ」であること以外にない。


選択肢Bを選んで、肉体を持った意識である君。

君という人間の絶対的な義務を果たそう。

君の意識が、その核心から求めていること、やりたかったこと、やりたいことを掘り出そう。

心に聞き続ければ、必ずそれは見つかる。


見つかったら、確信を持って取り組もう。

やり切って、“死ぬほどに”楽しく、充実した生の時間を過ごそう。

「心から幸せ」であり続けよう。

それが君が生まれてきて、今、ここに存在する理由なのだから。

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