第17話 AIとアンドロイド
どこか淡い色合いすら感じさせる、どこぞの宮廷の中庭にある東屋を思い起こさせるような場所に、スクルドは意識を振り分ける。目の前には、同じく意識を振り分けてきただろう3体分のアンドロイド。
『初めまして、LEVのAI。私はカトレア、ソキウスのザフィーアの指示により新たに発見された人格AI付きLEVの調査に来ました』
『同じく、デイジーだ』
『ダリアと申します、よしなに』
『照合……私には未登録の型式ですが、プログラムと機体構造からして戦闘用ドロイドですか、スクルドです、よろしく』
言葉と共に都合4人分のアバターが庭園の東屋を模したフィールドに投影される。
それぞれ、黒、銀、金の髪をした見眼麗しい女性と、長い銀髪に薄いトーガを纏った女性の姿が一つ。
『呼びかけに素直に応じてくれて助かりました、起動直後から戦闘という事を聞いていましたから……』
『私の様な機体制御用AIがPTSDというのもおかしな話です、心配はご無用ですよ』
思考リンク、AIであるが故に行える、現実と並行しての電子世界での会話。
『制御AIって割に、フィールドは小洒落てんな、もっと司令部みたいなお堅いもんやってるかと思ったぜ』
『お望みならそうしますが?』
『やめてくれよ……』
周りを見て評するデイジーの言葉に対するスクルドの変更に、勘弁してくれとデイジーが頭を振る。
『それで、戦闘用アンドロイドが1小隊、世間話をしに来たわけではないでしょう?』
先を促すスクルドの言葉に、3人のリーダー格でもあるのだろう、カトレアが頷く。
『その通りです、私たちのリーダー、ザフィーアからのメッセージを預かっています』
『では拝読しましょう、データスキャン……セーフティ解除……』
危険なプログラムなどが混入していないかスキャンを行い、メッセージを解凍する。
その瞬間、世界が止まったかのようにスクルドとメッセージ以外の色が無くなった。
(指定メッセージ……内容は濃そうですね)
<はじめまして、LEVのAI、私はソキウスのザフィーア。多忙の身ゆえ、こうしてメッセージで挨拶を済ます事はご容赦ください。単刀直入に連絡しますが、我々ソキウスは既にあなたという存在を確認し、その監視を行っていました。人を害するという意志はない様でほっとしています。その上で、あなたに搭載されている特殊なシステムについての情報提供をお願いしたいのです。無論、物的、電子的な調査両方が必要になるでしょうから、いずれこちらにお招きするつもりではありますが。当座機体に対して不釣り合いな出力をどうにかするために、エネルギー砲を1門、手付けとして送っておきます、では、実際に合う日を楽しみに……>
メッセージの再生が終わると同時に世界に色が戻る。
『全く……あなた方ソキウスは実験機でも手に入れたつもりですか?』
『まぁ、似た様な感じはあるかもしれないですわね』
『ちょっとダリア!』
苦笑しつつ返したダリアの言葉に、カトレアが横槍を入れる。
『ちょっとばかり迂遠なのは否定しねーけど、まぁそんな感覚があるのも間違いないよなぁ』
『デイジーまで……まったく』
『まぁ、余剰出力が大きすぎるので、調整弁が付くことは良い事です』
なんだか変な妥協点がなぜか出来つつある所で、カトレアが大きくため息を吐く。
『実際の所、スペックデータが必要なのでしょう?軍事機密……と言いたいですが、そもそも私のスペックを機密にしていた組織自体が無くなって800年ですからね、時効も良い所でしょう』
『本当に身も蓋も無いですが、協力的でいてくださるならそれほど助かる事もありません』
ことここまでくると、カトレアも色々と諦めた様だ。
『それと、裏を知っていて暴露しない存在はそこそこいた方が良い』
『……なるほど、ソキウスは適任と言う事ですか』
さらりと付け足された機体制御用AIの言葉に、アンドロイドは軽くため息をついた。
***
『お前……こうしてみると無茶苦茶な構成されてんな』
『
『生産性と汎用性を高めるために動力に余力を求めた結果ですか、当時の人類がどれだけ追いつめられていたかが判るちぐはぐさですね』
『本体はそれで済ませて、換装パーツで環境と戦場に適応した機体に組み替えるマルチロール機ですからね、まぁ限度と言うものがあるだろう、とは私も思いますが』
少なくとも、中枢ともいえる胸部以外の全てを戦場と状況に応じて換装できるというのは軽く見積もっても正気の沙汰では無いだろう。最悪中枢さえ脱出できれば腕足を新しい物に変えて再出撃が可能と言うのは人的資源の有効利用と言う点では理にかなっているし、量産する必要があるのも手足と頭だけとなれば生産速度は増すが。
『ワタシから言わせてもらえば、今の機兵の方がワンオフ機の塊という感じで余計に運用しずらそう、ですね』
『あ~、階級上がるとカスタム機増えるしなぁ』
魔導技術により量産がされてはいるものの、機兵という機動兵器は、それぞれのパイロット向けに調整した一品ものという印象が強い。
実際、個々人のマナ放出に合わせたエーテル変換機の調整など、各機体に専属メカマンが必要になる事が多いのは周知の事実だ。
『まぁそれは兎も角、この新しくつけられたブースターシステムです』
『……こりゃあ』
『えっぐいわねぇ』
スペックの後半、メカニカによって後付けされたシステムを調べるに当たって、アンドロイド達の表情が曇る。
聖歌システムと呼ばれるそれが、ソキウスによって開発されたものである事に誰も異存はない。寧ろ第5期LEVの性能再現の為のアプローチの一つとして必要な事であった。そもそもソキウスでの開発が行き詰っていた原因、システムの中枢となるLCEが希少であり、この未検証のシステムで消耗品のように扱う事等出来るわけがないという問題を、メカニカは人体改造という方法で解決していたのだ。
いや、確かにソキウスでもアプローチの一つとしてそれは行っていた。しかしまだまだ実験段階を出ず、検体の少なさから同調時の不具合その他の確認作業に終始しているような事だ。
アラドヴァルのディーヴァとして調整された少女を精査すれば、ソキウスのプロジェクトは少なくとも数年は短縮される筈だ。
(しかしこれは……)
カトレアの目の前を流れる、トゥエニィと呼ばれる少女の脳波、感情の振れ幅。
年頃の女の子が鉄火場に放り込まれたというのに、どこまでもフラットなそれ。ソキウスの踏み込もうとしている領域が何なのか、酷く重い警告音を聞かされている様な感覚さえ感じていた。
『……間違っても、良いとは言えませんわね』
『えぇ、こんな……』
『こんな可愛らしい子をいつまで経っても20番だなんて番号呼びだなんて!』
『いやそこかよ!』
ダリアの言葉に、デイジーが思いっきり突っ込んだ。
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