第7話 情報交換、AI,歴史を学ぶ

 そのころ、機兵の整備場では早速何人もの技術士官がアラドヴァルに張り付いて調査を始めていた。

 しかし……


「警告します、当機の主機稼働に関してはパイロット、リヒト・オプファーベルの搭乗が、全力稼働に関してはトゥエニィの搭乗が求められます」


 何か動かそうとすると、そう警告する「精霊の声」が響き、機体の移動もままならない。

 幸い既にハンガーに居るので、整備や調査にはそれほど困らないのだが、正直後方に持って行きたいのが技術者たちの本音だろう。


「皆さま、少し宜しいですか?精霊様とお話ができるか、試してみようと思います」


 そこに、一人の女性が現れた。年のころは20を少し超えたほど、空色の長い髪を靡かせてアラドヴァルに近づく。

 装甲に手を当てて目を瞑り、小さく息を吐く。


『Rcn643T7714、個体識別名『スクルド』、こちらに貴機に危害を加える意志はありません、個別回線を開いてください』

『アンドロイドですか、という事は、私もそれほど長く眠っていたわけではないのですね』


 意識の中に作り出された空間、そこに女性の姿が浮かび上がる。


『改めて、初めましてスクルド。私はソキウスのアンドロイド、イゾルデ』

『アラドヴァル制御AI、スクルドです。少なくとも、あなたは私よりも状況に詳しいようだ、現状の情報があればいただけると助かるのですが』


 空色の髪の女性は、少し考えるように顎に手を当てる。


『現在のデンバー国際空港周辺の情報は共有を行いました、全体の情報に関しては……少々すり合わせてからの方が無駄が少なく済みます』

『話が速いのは助かります、となれば楽しいガールズトーク、ですか』


 ばちり、と空間に紫電が走り、イゾルデの目の前にスクルドの姿が現れる。白銀の髪を束ね、薄手のローブのみを身に纏った姿で。


『では、こちらの情報を開示します』

『……それなりに特殊な形式で暗号化しているという自負があったのですが、案外と解析されているものですね』


 特に何かパッチを当てるまでもなく、流した情報が確認されているのを見て、スクルドが軽く呆れたように言う。

 互いに手を握り、目を閉じ……相互に流れ込む情報の波を受け止め、整える。


『眠りも眠ったり、800年以上ですか……製作者の全てが皆殺しにされている、というのは複雑な気分です』

『旧大戦で旧人類のほぼ全てが死滅しました、こればかりは誰にもどうにもできません』

『釘を刺さずとも、変なこと考えたりはしませんよ』


***


 かつて、人類はやらかした。

 第三次世界大戦、世界中誰もがそれを起こしてはいけないと認識しながら、やはり人類は核戦争を起こさずにいられなかった。

 その戦争で世界の総人口は半数となり、多くの国は機能不全を起こし、消え去った国も多くあった。

 それら人的リソースを補うために、生体兵器が作られ……それはお約束の様に暴走。

 人類は華麗なまでに自らの首を絞めた。バク転中に6回転半ひねり位加えながら。

 

『この生体兵器群も暴走ですか』

『それによる人類種保存のための計画は数多く起こりました、しかしどれも、失敗か、どうなったか判らないか、です』


 それからどれだけの時が流れたか、冷凍睡眠によって荒廃した地球環境が回復するのを待っていた人類……もはや、旧人類というべきそれが目覚めた

 彼らはWorld Assembly Reunited Earth Societyと呼ばれる組織を作り出し、復興を開始した。

 しかし、地球という惑星を再開拓するには、WARESはあまりにも小さく、旧人類は彼らより頑強で、魔素と呼ばれる特殊なエネルギーにも耐性がある新人類を作り出した。

 実質的な奴隷階級として酷使される事300年、新人類は旧人類に対して遂に反旗を翻す。歴史書でいう所の旧大戦が勃発し……WARES、旧人類はついに滅びの時を迎える事となった。


 新世歴332年……すなわち、聖華歴1年。新人類、つまり今の人類は、己自身を奴隷から解放した。

 それから200年の時をかけて人類は国家を作り……そして戦争は繰り返された。


『……しかしなんですね、偉そうに人類ほぼ皆殺しにして人類から独立した割には、人類の轍踏みまくり、二の舞も舞いまくりですね、新人類』

『スクルド、今の人類も、やはり人間なのです。そして歴史は常に螺旋を描きます』


 聖華歴が制定されて834年、人類は、やはり戦いを続けている。アメリカ大陸という、大きくはあるが一つの大陸に過ぎない場所で。

 人々は、戦争を繰り返していた。


『……国家運営的には、戻りも戻ったり、14~5世紀まで戻しましたか』

『違いは、ロボット兵器がある事、魔法がある事です』


 イゾルデの言葉に、スクルドは軽く頭を抱えて見せる。なんなんだこれは、日本のそういうアニメでも人類滅ぼしてなかったぞ、あ、ごめん嘘、案外何回も滅んでたわ人類。と言いたげにしていた。


『石器時代まで戻ったとしては、上々というべき所なのでしょうね』

『現在の技術、文化に関する情報も一緒に渡しておきました、特に機体識別は最優先での更新を』

『確かに、実戦データ付きの情報でなければどこぞのアニメの機体かと思う所です。デザイナーを聞きそうになりました』

『現状、共有できるデータはこんなものです』

『判りました、教えていただき感謝します。イゾルデ』


 微笑んで、イゾルデの姿が電脳空間から消える。回線が閉じられていることを確認し、スクルドの姿もそこから消えた。

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