第16話 VS ROKUNOKUNI ROUND2


筋肉質の男2人組、陸ノ国代表パオとラフは、試合開始のゴングが鳴っても、不動の構えを続けていた。


「なんのつもりや?」


何かの罠かと考え、怪訝な顔で平吉が問いかける。


「見ての通り、攻撃してくるのを待ってるんだよ」

「なんやて」

「せっかくここまで来たのに、相手はひょろいのと女ときた。一発も攻撃を当てずに帰るなんて可哀想だろ」

「おもろいやんけ」


パオとラフの挑発に乗り、平吉はゆっくりと2人の元へ近づいていく。


目と鼻の先まで歩を進め、その手がパオに触れようとした頃。


「やはり、シティーボーイは自然の怖さを知らないみたいだな!」


ニヤッと顔を歪めると、パオの体が突如肥大した。

重くなった図体を支えるため、四足歩行の格好となる。


弐ノ国代表のワンの時と違い、その見た目は実にアンバランスであった。

明らかに他よりも長く伸びる、ある部位があったのだ。


その部位とは、


「ぱおおおおおおおんん!!」


まるで象のように伸びる、であった。


木の幹のように太いその鼻が、射程圏内に入った平吉の体を薙ぎ払う。


モロにくらった平吉は、吹っ飛ばされた先で、倒れ込んだ。


「あいかわらずひどいな、パオ」

「よりによって俺の方に来るとは、運が悪かったな」

「アホいえ。俺の方でも結果は一緒だ」


横たわる平吉を見て、勝ち誇ったように2人が笑う。


「あとはあの女だな」

「そうだな・・・って、どこ行った?」


辺りを見渡すが、その姿はどこにもない。


「ここやで」


2人を小馬鹿にするようなその声に、パオとラフは揃って上を見た。


その視線の先には、本物の象のような格好のパオの背に跨る、架純の姿があった。


「ほう。どうやら厄介な才を持ってるみたいだな」

「試してみるかいな」


架純はパオの背中から飛び降りると、隣のラフに向かっていった。


ラフは格好の獲物が現れた嬉しさに目を輝かせ、


「モォ〜」


と鳴いた。


それと共に、パオと同じく図体が肥大化。


一部分が極端なのも同様で、長く伸びたが架純に襲いかかる。

架純はその速い動きに合わせてラフの首の上に手を置き、そのまま体を回転させて、攻撃を躱した。


「キリンの首を避けるとは、なかなかやるな」

「なんで『モォ〜』でキリンやねん!普通、牛やろ!」

「知らないのか?キリンはそうやって鳴くんだよ!」


再び襲いかかる首をジャンプして避け、架純はまたしても姿をくらました。


「っち。あの女面倒だな」

「だがこのリング上にいるのは確かだ」

「それもそうだな」


パオとラフは顔を見合わせると、その強靭な鼻と首を、それぞれ適当にぶん回し始めた。


その動きにより台風のような暴風が生まれ、リング上に自然災害が発生する。


そんな騒がしい光景を前に、ベンチの選手や観客はもちろん、試合中のパオとラフも、横たわる平吉の姿が消えていることに気づいていなかった。



「あんま煩くせんといてくれる。気が散るでありんす」


突如姿を見せた架純に、パオとラフは動きを止めた。


そして、自分の目を疑った。


そこには、姿があったのだ。


「時間つぶしに相手してあげるでありんす」


十数人もの架純たちが、2人相手に襲いかかる。


「おもしろい」

「うけてみろ」


パオとラフは、それを真正面から受け止める。

架純たちは二人の攻撃を一つずつ避けていたが、逃げ場を失って1人、また1人とやられていった。


「なんだこいつら。分身か何かか?」

「さあな。だが、どこかに本物がいるはずだ」


パオとラフのコンビネーションを前に、架純の数は順調に減っていき、ついにその数は0となった。


「本物はどこだ?」

「ここやで」


その声の方向に、2人の視線が一斉に向けられる。

そこには、目を瞑って2人を挑発する、架純の姿があった。


「やっと覚悟が決まったか」

「一瞬で楽にしてやるよ」


パオの鼻とラフの首が、架純めがけて迫る。


絶体絶命の状況に、架純は口角をニヤッと上げ、閉じていた目を開くと。


の仕込み、完了や」


と、呟いた。



「おおっと!一体何が起こったのでしょうか!?」


ミトの驚きの声が会場に響く。


それも無理はない。

自慢の鼻と首で猛威を振るっていたパオとラフが、突然、揃って倒れたのだ。


「天然のは慣れとんかもしれんけど、人工の毒は抗体が出来とらんみたいやな」


倒れる2匹の動物を眺め、架純が言い放つ。


「ちょっと。で、低俗な口調はやめてって言ったでありんす」


その背後に、もう一人の架純が出現し、膨れっ面で注意を始めた。

先にいた架純が「すまんすまん」と詫びを入れる。


一体なにが起こっているんだと、観客たちは揃って首を傾げた。



順に解説すると、試合開始の時点で、平吉の姿をしていたのは架純の『ハニーポット』による偽物であった。

して、架純の見た目をしていたのは、であった。


平吉イン架純は、攻撃を避けつつ、パオとラフにそれぞれ接触。

これにより『キャッシュポイズニング』の条件を達成。


それからは、本物の架純と共に姿を隠し、毒の調合に勤しんだというわけだ。


して、2人に注入した毒とは、


「どうや、相棒と記憶を入れ替えた気分は」


パオとラフ、お互いの記憶であった。


「「・・・・・」」


平吉の問いに、パオとラフは何も答えない。

どうにか立ち上がろうと試みるが、生まれたての子鹿のように上手くいかない様子だ。


「まあ、当然やろな。象やキリンの体動かすんも初めは大変やったみたいやないか。象がキリンを、キリンが象を操作するなんて、なおのこと難しいやろな」


魚に翼が生えたところで、急に空を飛んだりはしないだろう。


身体を使いこなすには相応の慣れが、その記憶が必要なのである。


「パオ選手にラフ選手、どうやら戦闘不能の模様。よって勝者は壱ノ国です!!!」


試合結果のアナウンスがあり、歓声が響く。


「平ちゃん、戻るでありんすよ」

「せやな」


リングを下りる架純に促され、平吉が返事する。


「その毒の抗体は、仲間を大切にする心や。精進するんやな」


最後にそんな捨て台詞を残し、平吉は仲間の待つベンチへと向かった。



「第2試合も壱ノ国の勝利!勝利条件の3勝まで残り1勝。早くも王手となりました!」


ミトの実況を背に、平吉・架純ペアがベンチに戻る。


「ご苦労だったな」

「ま、ええ運動になったわ」

「あちきは疲れたでありんす」


剛堂の労いの言葉に、二人がそれぞれ言葉を返す。


「はい、どうぞ!」

「真夏ちゃん、助かるわ〜」

「おおきにな」


そこに、ドリンクを持った真夏がやって来て、二人に手渡した。

腰に手を当て、それを一気に飲み干した平吉に、剛堂が声をかける。


「見てみろ。さすが自然に鍛えられてるだけはあるな」

「ん?ああ、そうみたいやな」


その視線の先のリング上。

そこには、少しぎこちなさを残しながらも、なんとかベンチへと戻っていくパオとラフの姿があった。


「しばらく解除せんと見守っとくか」

「見て楽しむの間違いだろ」

「ばれたか」


ケロッとした表情の平吉に、剛堂は苦く笑った。


さすがは自然と共存する国といったところか。

先にベンチに戻っていたチッタとラビも、すっかり回復していた。


海千兄弟の方に睨みを利かしているが、当の本人たちは、べちゃくちゃと喋りに夢中の様子だ。

気が早く、試合後の打ち上げの話などしている。


「さて、壱ノ国が早くも2勝し、陸ノ国が勝利するには、ここから3連勝をするしかなくなりました。一見、壱ノ国が有利に見えますが、最悪の場合、ここから1チームが3連戦を強いられる可能性もあります!よって、まだまだ結果は判りません!さあ、各国の代表は第3試合のチーム登録をお願いします!」


アナウンスを受け、壱ノ国からは剛堂が立ち上がる。


「といっても、お前たちしかいないんだがな」


視線を送るのは、透灰李空と墨桜京夜の2人である。


「頼めるな」

「任せてください」

「同じく」


実に頼もしいセリフに深く頷き、剛堂はパネルを操作した。

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