第15話 VS ROKUNOKUNI ROUND1


「皆様、大変お待たせしました!『TEENAGE STRUGGLE』第七試合。壱ノ国 VS 陸ノ国を開始します!!」

「ござるううううう!!」


解説者の不要な合いの手と共に、放送がスタートした。


さて、今回の会場であるが、実にシンプルな造りである。

案内人コーヤによって壱ノ国代表一行が連れてこられた場所には、通常のそれより1.5倍ほど大きいリングが一つだけ設置されていた。


前回の肆ノ国戦で使用した巨大リングと比べると、インパクトに欠けるのが正直な感想である。


「それでは、ルールを軽く説明しておきましょう!」

「ござるううぅぅ・・・」


卓男の合いの手が段々と小さくなっていく。

おそらくは、ミトが卓男のマイクのボリュームを落としたのだろう。


「試合形式は『ペア』。その名の通り、2人1組のチーム戦となります。今回は『BO5』を採用しており、両国3チームを選出。順に対戦して頂き、全チームが勝ち抜けした国の勝利となります」

「『BO』は『Best Of』の略で、最大試合数を表しているでござる」

「ちょっと、自分で音量上げないでくださいよ」

「ござるううぅぅ・・・」


またしても、卓男の声が小さくなっていった。


ストレートにいけば3試合。

2勝2敗にもつれこんだ場合、最大で5試合行われるというわけだ。


「尚、出場チームは試合の都度登録していただきます。負けたチームを連投するも、別のチームと変えるも各国の自由です」


リングの東側と西側には、それぞれ控え選手のためにベンチが設けられており、その前にチーム登録用のパネルが置いてある。


「それでは、両国の代表。1試合目の出場チームを登録してください!」


ミトのアナウンスに合わせて、各ベンチから1人がパネルに向かう。

壱ノ国からは監督の剛堂である。


「第1試合目の対戦カードが決定しました!壱ノ国からは、海千矛道選手・海千盾昌選手ペア。陸ノ国からは、チッタ選手・ラビ選手ペアです。呼ばれた選手はリング上にお願いします!」


壱ノ国ベンチに座る、海千兄弟が立ち上がる。


「んだらちょっくら仕事こなして来るべな」

「試合が終わったら皆で美味しい海鮮をいただくっぺ」


盾昌の首にかけられた、「サイカクセイキ」のスイッチもONになっており、準備は万端である。


おしゃべり兄弟の印象しかない李空は、その二つの背中を心配そうに見送った。




「うわ!同じ顔が2人っしょ!」

「ほんと!しかも片方はデブじゃない」


リングに上がってきた海千兄弟を見て、陸ノ国代表、チッタとラビが感想を述べる。


「これは最速記録狙えるっしょ!」

「私のね。負けた方が竜の世話1週間。覚えてるわよね」

「もちろんっしょ」


この2人、ここまで来る道中の竜の背で、痴話喧嘩を繰り広げていた男女である。

その言動から、スピードに自信を持ったコンビのようだ。


「あいづら盾のことデブ言うとうべな」

「んだな。デブは海の恵みを受けている証っぺな。最高の褒め言葉だべ」

「んだんだ。あいつら海の偉大さを知らないっぺな」


海千兄弟にしても、やる気は満タンのようである。


両チームの準備が整ったことを確認し、実況者ミトのアナウンスが鳴る。


「それでは、壱ノ国 VS 陸ノ国 第1試合。スタートです!!!」


瞬間。


チッタとラビの姿が消えた。



「ん、なかなかはやいっぺな」

「んだな」


目で同じ方向を追いながら、海千兄弟が呟く。


陸ノ国代表チッタとラビであるが、正確には、会場にいた観客の視界から消えたのだ。

2人のスピードへの自信はどうやら過信ではなかったようで、ものすごいスピードでリング上を駆け回っている。


海千兄弟は、本人たち曰く海に鍛えられた目で、その姿をかろうじて追っていた。


その目が伝える情報は、スピードの他にもう一つあった。

チッタとラビの風貌が、


チッタの方には長い尻尾が、ラビの方には長い耳が、それぞれ生えていた。

その見た目は、さながらチーターとうさぎである。


「あいつら、私たちのことが視えてるみたいよ」

「みたいっしょ。でも、いくら目で追えても身体は追いつかないっしょ!」


その言葉通り、チッタとラビの攻撃に、海千兄弟は反応できずにいた。


攻撃を入れては離れる、スピードを活かしたヒットアンドアウェイ。

一発のダメージはさほど大きくないが、それが何層にも重なり、海千兄弟の体に確実に蓄積しているように見えた。


「おらおら!早く倒れるっしょ!」

「やられるなら、私の攻撃でやられなさい!」


チーターのように横移動に強いチッタ。

うさぎのように縦移動に強いラビ。


まさに縦横無尽の攻撃が、海千兄弟を襲う。


「矛。そろそろいけるっぺか?」

「いつでもいけるっぺよ。いつものタイミングで頼むっぺな。盾」


攻撃を受けながら、何やら話し合う海千兄弟。


「『ブロードキャスト』」

「『リフレクション』」


矛道と盾昌の二人が、未知の言葉を口にする。


と同時に、


ぐわらごわどらぐあっしゃあああん


聞いたことのない爆音と眩い閃光が、会場を包んだ。



「仕事終わりだっぺな」

「だべな」


眩しさに思わず瞑った瞼を開くと、そこにはリング上で拳を交わす海千兄弟の姿があった。


「何が起きたんですか?」


ベンチから試合を観戦していた李空は、隣に座る剛堂に疑問を投げかけた。


「あいつらは2人揃うと最強なんだよ」


剛堂は誇らしげに答えた。


海千兄弟の才は、それぞれ『ブロードキャスト』と『リフレクション』という。


兄、矛道の『ブロードキャスト』は全方向への無差別攻撃である。

一見、強力な才に思えるが、その才には大きすぎる欠陥があった。


攻撃対象の無差別の中には、自分も含まれるのだ。

強力な攻撃の矛先が自分にも向き、無防備な身に降り注ぐのである。


そこで活躍するのが、弟、盾昌の才。『リフレクション』である。

端的に表現するならば「反射」。与えられるダメージを蓄積し、跳ね返す能力である。


こちらも強力な才に思えるが、重大な欠陥があった。

蓄積したダメージを放出する「リフレクションモード」になると、その場から一歩も動けないのである。


この言ってしまえば欠陥品の才たちであるが、合わさることで、最強の矛と盾になる。


お互いに才を発動すると、主人である矛道に降る『ブロードキャスト』の矛を、盾昌の『リフレクション』が弾くのである。


つまり、海千兄弟を除く周囲の人間全てに、無差別の矛が無慈悲に降り注ぐのであった。


「もう少しずれてると、俺たちも巻き添えをくらうとこだったな」


剛堂の言葉に視線を動かすと、壱ノ国代表ベンチの目の前にも、攻撃の跡が残っていた。


「海の力は強大だべなあ・・・」


そのパワーに、思わず海千兄弟の口調が移る李空であった。



「チッタ選手、ラビ選手戦闘不能!よって、第1試合は壱ノ国の勝利です!」

「やったでござるううぅぅ・・・」


海千兄弟の勝利で、第1試合は終了。

ミトのアナウンスを受け、会場に歓声が湧いた。


「続きまして、第2試合を行います。各国の代表はチームの登録をお願いします!」

「ミト殿!?拙者の解説はいらないでござるか?」

「はい。貴方の仕事はそこに座っていることですから」

「赤ちゃんは寝るのが仕事みたいに言わないで欲しいでござる」

「素晴らしい解説、ありがとうございます」

「え?ど、どういたしましてでござる!」


ミトと卓男の漫才をBGMに、ベンチの剛堂が立ち上がる。


「平吉。次、いけるか?」

「おう、任せとき」

「架純も頼むな」

「もちろんでありんす」


剛堂の呼びかけに応じ、壱ノ国代表ベンチから、平吉と架純がリングへ向かう。


「対戦カードが決まりました!壱ノ国代表、軒坂平吉選手・借倉架純選手ペア VS 陸ノ国代表、パオ選手・ラフ選手ペアです!該当する選手はスタンバイをお願いします!」


湧き上がる歓声に、架純が投げキッスで応える。

男の野太い声援が、一回り大きくなった。


「平吉、架純、頑張るっぺな。おでたちには海神さまがついてるっぺ。負けることはないべ。存分に暴れてくるといいべな」

「壱ノ国帰ったらみんなで宴会だっぺな。海に感謝して夜まで騒ぐべ」

「あ〜、わかったわかった。はよいけ!」


すれ違う海千兄弟を適当に遇らい、平吉と架純がリングへと向かう。


次いでリングに上がってきた、陸ノ国代表のパオとラフは、


「まったく簡単にやられやがって」

「これだからスピードしか取り柄のないゴミは」


すっかり伸びきっていたチッタとラビを掴み上げると、そのままリング外へと投げた。


その行動に、架純は顔をしかめ、平吉の眉間にシワが寄る。


「おい。そいつら仲間とちゃうんかい」

「あ?弱いやつは見捨てる。自然の世界は弱肉強食なんだよ」

「シティーボーイには分からないだろうがな」

「そうかい」


相手選手の返答に、平吉は自分を落ち着けるように深く息を吸い込むと、架純に向けてこう告げた。


「ちょっくら頭にきたさかい、はなからアレでいくで」

「奇遇やね。あちきも丁度そう思っとったところや」


神妙な面持ちで何やら企てるふたり。


一触即発の空気の中。


「それでは第2試合、スタートです!!!」


試合開始のゴングが鳴った。

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