第28話 俺だけのリラ

シエンside 6


 豹獣人の男に案内され地下から出てきたところは、見覚えのある玄関ホールだった。なんで、あのSクラス級の魔物が彷徨いている地下とココが繋がっているんだ?あの魔物共を飼っているとか言わないよな。


 いつも通される部屋に連れて行かれ、あの聖女と残りの4人の男がいた。聖女に護符の事を聞かれたが、素直に無くなったなんて言うことなんてできないだろう。絶対に俺が殺される。


 しかし、勇気を出して言葉にする。


「無くなった。」


 5人の男共から殺気を向けられた。やはりこうなった。殺気だけでマジ死にそうだ。聖女が手を叩くとその殺気が収まり、ホッとため息が漏れてしまった。


 護符が無くなったことをいつでも言ってくれてよかったのだと言われたが、そう思っているのは、聖女だけだろう。それから、昨日聖女から言われたことをリラに言ったかと確認された。


「言った。俺がこのような状況になっている理由を話した。」


「リラさん。その話を聞いて何を思いましたか?」


「私でなくても良いという結論でした。」


 ちょっと待ってくれ、リラじゃないと駄目だ。なんで聖女はそのリラの答えに頷いているんだ。


「シエン。ちょっと来い。」


 大兄と4人の男に部屋から連れ出されてしまった。俺はリラにリラじゃないと駄目だと言わなければならないのに!


「シエン。自分の気持ちをきちんと伝えたのか?」


 大兄からそう問われた。


「気持ち?最初から言っている。俺の聖女になって欲しいって。」


「それは君の気持ちじゃなくて希望だろう?」


 希望?気持ちとは違う?


「好きだって言った?」


 言っていない。


「リラは一人しかいないから、彼女の事をきちんと見ないと駄目だ。」


 一人しかいないのは当たり前だ。俺の番だから。


「番とかそういうことではなくて、リラという少女のことですよ。」


 あれ?これって聖女に言われた言葉?番ではなくてリラ自身を見ろってこと?でもリラは番だ。番だから惹かれるんだ。


「シエン。リラにきちんと気持ちを伝えなさい。」


 そう、大兄に背中を押され先程の部屋の扉の前に戻ると聖女がいらないことを言っていた。


「もし、本気で逃げたくなったら、私があげた外套を常に身につけておけばいいです。」


 外套!あの青い外套のことか!番の気配が全くわからなくなってしまうものなんて


「駄目だ!それは絶対に駄目だ。」


 俺は聖女の視界からリラを背中に隠す。


「リラは俺の唯一だ!俺の番だ!リラから離れるのは絶対に嫌だ。」


 俺が睨みつけるも、いつもの無表情で淡々と聖女は言う。


「シエンさん。それはリラさんの前で言ってはならないと言いましたよね。」


 リラに番だと告げてはならないということだろ?一番の問題はそこだ!


「そう!それだ!言ってはいけないのだったらどうリラに説明すればいいんだ!」


 俺が憤りを表すも聖女はため息を吐き。


「はぁ。だから、貴方の言葉でリラさんに言ってくださいといいましたよね。後ろのリラさんの顔を見てください。それが貴方の今までの行動の結果です。」


 聖女様にそう言われ、俺は振り向きリラを見る。リラは不可解な者を見る目を俺に向けていた。番である俺に対してその視線を向けるのか?


「なぜだ。なぜ、わからないんだ?」


「私に付き纏うのは、いい加減止めてくれないか?」


 番だと言っても分かってくれない。リラから俺を否定する言葉が出てきた。目の前が真っ暗になり、膝から崩れ落ちる。


「シエン。お前の気持ちを素直に言えと言っただろ?変革者に番の感知能力はない。」


 大兄からそんな言葉をかけられた。番の感知能力がない!そして、リラが初代様と同じ変革者!


 ああ、これで全てが繋がった。リラには俺が番だとわからないのも、聖女が何度も番に会っても番だと告げてはならないと言っていたことも、聖女の彼らが俺の気持ちをリラに伝えろと言ったことも全てがリラが変革者だと言うことだったのか。


 俺はリラを抱きしめ俺の気持ちを言葉にする。


「好きなんだ。俺はリラがいないと駄目なんだ。大好きなんだ!」


 俺の番。俺だけのリラ。



リラside


 シエンから好きだと言われた。言われたがそもそも


「それって、番だからか?」


 そう言うとシエンが固まってしまった。まぁ、そういうことだよな。あの鬼バ・・オリビアさんがズッキューンメロメロって言うぐらいだもんな。

 私どうこうではなく。


 番だから好き。番だから私ではないと駄目。じゃ、番で無ければ私に掛けられる言葉ではないと言うことだ。


 まぁ。そうだよな。こんな目つきの悪い女に好きだと言う変わり者なんて居ないということだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る