第26話 何も感じない

シエンside 4


「リラ。俺の聖女になって欲しい。」


 大兄に足止めをされてしまって・・・いや、自分の気持ちを素直に言うようにとか色々言われていたが、リラが先に帰ってしまったことで、イライラして殆ど聞いていなかった。先に帰ってしまったリラにやっと追いつき、そのリラに自分の気持を素直に言った。



 しかし何故か、目の前にパンを掲げられ、放り投げられた。もったいない!パンを確保し、リラの後を追っていく。どうやら、リラの仕事はパンを売り歩くことのようだ。

 リラの作ったパンを他の誰かの手に渡るのは癪に障る。


 リラに近づいて来るヤツを睨みつけると、直ぐに去っていった。うん。これでいい。


 リラはため息を吐いて、踵を返してもと来た道を戻っていく。どうしたのだろう。 


 昨日連れてこられた冒険者ギルドに向かうようだ。中に入って早々、オリビアに近寄ってリラは言った。


「オリビアさん。シエンさんが邪魔なので、早く国に帰してもらえません?」


 ジャマ・・・邪魔?俺が?


「そう言われましても、私は炎国を追放された身ですから。」


「でも、私すごく被害を被っているのです。今日なんてシエンさんに会ってから一つもパンが売れないのです。」


 あ、うん。確かにそれは邪魔をしたかもしれない。オリビアに壁際に連れて行かれた。


「シエン様。何をされたのです?」


「リラに近づくヤツを牽制した。」


 オリビアは困った顔をして


「シエン様。言いましたよね。リラの頭の中にあるのは仕事と美味しい物と聖女様だと、リラの仕事を邪魔すると嫌われますよ。」


 嫌われるのは嫌だ。しかし、リラを見るとここの奴らに笑顔を振りまいてパンを手渡している。彼奴等、許さん。


「シエン様。それです。駄目ですよ。」


 オリビア、言われたことは頭では分かっているが、俺に見せたことのない笑顔を他の奴らに見せていると思うと腹が立つ。


 リラの家に行き、ご両親に挨拶をしようと思えばリラの母親はキオナだった。確か、炎国の外交官を命じられているメリナの娘だったと記憶している。だったら話が早い。


「実はリラは俺の聖女なのだ。だから、リラを俺にください。」


 そう言ったら、リラから殴られた。リラの父親に殴られるかと思ったが、まさかリラから殴られるとは思わなかった。


 リラが何故か怒って二階に上がってしまった。


「シエン様。申し訳ございません。リラはシエン様のご事情を分かっていませんので、あのような態度を取ってしまったのでしょう。リラには私から説明をしておきます。」


「いや。それは俺から言うべきことなのだろう。」


 確かにリラに何も説明をしていなかったな。その時リラの、番の気配が消えた。立ち上がって二階の気配を探るも何も感じない。二階に駆け上がり、昨日居た部屋の扉を開けると、部屋には誰もおらず、窓が開け放たれていた。


 何処だ何処に行った!何も感じない。先程まで感じていた番の気配が何も、何も感じない。

 思えば番であるリアのことは何も知らない。何処によく行くのか知らない。オリビアのところか?オリビア・・・確かあの聖女を慕っていると言っていたな。聖女のところにいるのかもしれない。そう思い、慌てて外に出る。


 道中色々災難に遭ったがなんとか聖女が住む屋敷にたどり着き、屋敷の扉を叩く。

 ここにいるのか?少し待つと大兄が出てきた。


「お前、失敗しただろ。」


「失敗?」


「俺の言ったこと聞いていなかったのか?」


「聞いていたけど・・・リラはいるのか?」


「はぁ。入ってこい。」


 何かすごく飽きられている?部屋に入るとリラがいた!青い外套を羽織ったリラが!思わず駆け寄り抱きしめる。良かった。本当に無事で良かった。


 しかし、後ろに引っ張られ、リラから引き離されてしまった。そして、床に投げつけられる。一体誰が俺からリラを引き離したと睨みつけると、聖女が見下した目で俺を見ていた。


「言いましたよね。貴方の想いを押し付けるようなことはしてはいけないと、リラさんにまず言わなければならないことがあるのではないのですか?」


 それはもちろん


「俺の聖女になっt・・・gっ。」


 頭に途轍もない圧力が!ミシミシいっている!聖女って普通の人族だよな。なんで龍人の俺に攻撃が通じているんだ?


「死にますか?一回死にますか?世界から解放されると、そんなくだらないモノどうでも良くなりますよ。ダイジョブです。私セイジョなんで生き返りますヨ。」


 一回死ぬ!世界からの解放?意味がわからないが、それはヤバいような気がする。

 なんだ?この聖女、恐すぎないか?

 そう言えば初代様が聖女と関わるなら、良好な関係は崩すなと言っていたな。それは怒らすなと言うことだったのだろうか。


 俺は解放され、聖女から言われた。


「シエンさん。貴方がなぜそうあるのか、貴方の言葉できちんと話してください。リラという一人の女性をきちんと見て話しなさい。それでもリラさんから拒否されるようなら諦めなさい。でも、リラさんは優しいですから、貴方の精一杯の言葉で紡げば許してもらうことはできるかもしれませんよ。」


 と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る