第25話 リラは俺の番だ

シエンside 3

 

 どうやら、番の彼女はあの列車に乗っているようだ。一度だけギラン共和国のダンジョンにある列車に乗ったことはあるが、同じでいいのだろうか。


 走って行って列車の停車駅まで行き、ギリギリ間に合った。途中で、何も無いのに足が引っかかったり、猫の集団に襲われたが、避けきって、ギリギリだった。


 列車の一番うしろに駆け込めば、俺の番がいたが、なんて格好をしているんだ。こんなに足を出しているなんて、他の人の視線に晒されているなんて・・・。


 これは駄目だろう。犯罪だよな。


「この短い服は何だ?」


 目の前の番に聞いてみた。


「制服。」


 制服だと!確かにこの王都に学園があると聞いていたが、コレが制服?


「こんな短い制服があるか!犯罪だろこの短い服は!」


「お前が犯罪だ!」


 番から腹にパンチされたが、俺からしたら可愛らしいものだ。

 番が『学園前』という駅で降りたので、一緒に下りる。途中で人に止められたが、番だと言えば通してもらえた。


 細い入り口がある石造りの建物の前まで来て、番の足が止まった。ここが目的地なのだろうか。番の彼女は振り返って、俺を見てきた。番である彼女に見てもらえることがこんなにも嬉しいことだなんて、心が浮きだったようになる。


「で?なんの用?私は今から食材集めをするから邪魔なんだけど?」


 しかし、彼女から発せられた言葉は俺を否定する言葉だった。


「う・・・。」


「なぜ、付いてくる?」


 彼女からの質問に俺は素直に答える。


「一緒にいたいから。」


「一緒にいたい理由は何だ?」


 理由?そんなもの決まっている。


「俺の聖女だから。」


 彼女は俺の答えにため息を吐き、背を向けて歩きだした。その行動の意味はなんだろうか。ついていっても良いと言うことなのだろうか。


 しまった。忘れていた。ダンジョンに潜ると不運の強制力が大いに働くのだった。

 炎国にダンジョンがないため、2番目の兄上に連れられてギラン共和国にあるダンジョンに連れて行ってもらったことがあった。

 それは、俺にダンジョンでの強制力を教えさすためだった。ダンジョンの10階層まで潜る予定だったのだが、2番目の兄上から8階層まで攻略した時点で『お前の面倒を見るのはこれ以上無理だ。』と言いわれ、強制的に昏倒させられた経験がある。それから、ダンジョンというものに関わりが無かった。


 ここの魔物自体はそんなに強くない。しかし、攻略に頭を使うようだ。リラが(強引に本人から名前を教えてもらった)ダンジョンの通路にある何かをいくつか拾っているかと思えば、それが次の階層の鍵となるものだったり、光玉を置くと進める道が開かれるが、置く場所を間違えると階層の始めの地点に戻されたりするような仕組みだった。まぁ。その間も罠を散々発動させ、怒られたが。


 10階層のジェネラルオークを倒した後に転移の感覚に襲われたかと思えば、変わった部屋に転移させられた。部屋の右端に入り口に戻る転移陣があったが、左側には白と黒と赤に色分けされた円状の物が置いてあった。

 それが気になり少し触ると円状の物が回転を始めた。


「なぜ、それを触るんだ!」


 と後ろからリラの声がして振り向くと、その円状のものを見て『地獄コースに止まった。』と言って頭を抱えているリラがいた。地獄コース?その後また転移の感覚に襲われたかと思えば、何故か魔力の糸でぐるぐるにされていた。


「リラ。これは何?」


「もう、どこも触れるな。罠を発動させるな。地獄コースでそれをやられると、私が死にそうだ。」


 そう言ってリラは俺を魔力の糸を浮遊させて、駆けていった。俺って役立たず?



 朝日が目にしみる中、リラが地面に打ちひしがれていた。俺が悪かったのか?悪いのだろうな?俺はリラにかける言葉が出てこなかった。


 ゆらりと立ち上がったリラは、駅に向かって列車に乗り、見覚えのある風景のところで降りた。そして、これまた見覚えのある建物の前まで来てしまった。


 ヤバい。未だにこの国に居ることが大兄にバレたら何を言われるか。しかし、リラから離れることは考えられない。


 リラが扉を叩くと、幾度も顔を合わせたことのある人物がでてきた。中に入るように言われ、リラの後に付いていく。

 あぁー。大兄になんて言い訳をしよう。


 大兄を目の前にしたリラが言った。


「これ、国に帰してもらえません?」


「シエンか。」


 大兄は呆れたような目をしながら俺を見る。


「これのせいで散々な目に遭っているのです。とても、酷い被害を被っているのです。ですので、国に帰してもらえません?」


「シエン。少し話をしようか。」


 そう大兄に言われ、部屋の外に連れ出され、裏庭らしきところまで連れてこられ、大兄は俺を見る。


「シエン。浄化してもらって、なぜ、まだこの国にいるんだ?この3日で大分闇を取り込んでしまったんじゃないのか?この国は炎国のように人々の闇の浄化は行われていないんだぞ。」


「わかっている。」


「だったら、さっさと転移で帰りなさい。余り遅いと皆が心配するだろ?」


「嫌だ。」


「シエン。」


 大兄に帰れと言われようがそれは嫌だ。


「リラは俺の番だ。だから、帰りたくない。」


「番?リラが?」


「そうだ。」


 俺の言葉を聞いた大兄は額を押さえ、ため息を吐いて、『これはどういうことだ?』と言葉を漏らした。そして、俺の首根っこを掴んで屋敷の中に戻っていく。いや、自分で歩けるぞ。大兄。


 先程の部屋に入り、大兄は聖女に向かって言った。


「シエンから話を聞いたが、リラが番だと言っている。」


 そうだ。リラは俺の番だ。大兄の言葉を聞いた全員が一斉に無表情の聖女に視線を向ける。


「初めて会ったときから、知っていましたよ。しかし、選ぶのはリラさんです。シエンさん貴方は彼女に選ばれますか?それとも捨てられますか?」


 捨てられる!なんでそんな言葉が出てくるんだ!


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