第21話 希望?なにそれ?

 シエンが『無くなった』と言葉を発した瞬間、なんとも言えないモノに空間が支配された。物凄い圧迫感?おぞましいほどの恐怖感?死が足元に迫って来ているような危機感?

 よくわからないが、今すぐここを立ち去りたい。立ち去りたいが足が竦んで動くことができない。歯の根が合わなくダチガチと音をたてている。


 パンパン


 と手を叩く音が鳴り、よくわからないモノに支配された空間が消え去った。顔を上げると、どうやら聖女様が手を叩いたようだった。


「シエンさん。そもそも、守りまじないの護符は効力が無くなれば、壊れるものです。なぜ無くなったときに、そう言わなかったのですか?」


 聖女様の質問にシエンは小声で『そんな事を言えば殺されるじゃないか。』と言っているが、そんな小声じゃ、私に聞こえても聖女様に聞こえないぞ。

 代わりに言ってやろうか?


「シエンさん。別に無くなった事に対して怒っていませんよ。」


 流石、聖女様。自ら作った護符が無くなったと言っても怒っていないなんて、とてもお優しい。


「シエンさんの場合は守りまじないの効力は他の人と比べて保たないことも、わかっていますから、次はもう少し強力な物をと思っていたぐらいです。それに、料金は炎王に請求しますから、いつでも言ってくれて良かったのですよ。」


 普通の人より保たないか。ダンジョンの件にしても今回の件にしても普通じゃ起こり得なかった事ばかりだったからな。護符があったら、もう少し何か変わっていたのだろうか。


「それからシエンさん。リラさんに言いましたか?貴方の言葉を。」


「言った。俺がこのような状況になっている理由を話した。」


「リラさん。その話を聞いて何を思いましたか?」


 思ったこと?決まっているじゃないか。


「私でなくても良いという結論でした。」


 私のその答えに聖女様は頷いてくれました。やはり、私の答えは間違っていなかった。

 しかし、聖女様のイケメン達の反応は違っており、5人が私の答えを聞いた瞬間立ち上がって、シエンを何処かに連れて行ってしまった。

 一体どうしたんだ?


 聖女様と二人っきりになったので、思いきって聞いてみる。


「昨日の話の続きを教えてください。」


「覚悟はできたのですか?」


「私がいつもしている事に覚悟は必要ありません。」


「そうですか。後悔しませんか?」


「しません。」



 私はそう言い切った。・・・言い切ってしまった。私は今とてつもなく後悔をしている。

 なんで、あんなに自信満々で言ってしまったのか。1分前の自分を殴ってやりたい。


 はっきり言って無理だ。私にはそんなことできない。聖女様は私にこうおっしゃった。


「人々の心を浄化すること、それが世界から定められた貴女の役目です。」


 と。無理じゃない?何?その人々の心の浄化って?規模が大きすぎない?


「私には無理そうです。」


「そうですか。」


 そう言う聖女様の表情は変わらないが、あんなに堂々と言ってしまった後なので、失望されてしまっただろうか。


「普通に旅をするだけならできるでしょうし、自分の好きなように美味しいものを食べることもできるでしょうが、各地で料理をして売るってことですよね。色々、無理がありますよね。」


 私が気ままに旅をするのはできると思う。なんせ魔術はチート並みに使えるからな。でも、旅先で多くの人に作った料理を食べてもらおうと思えば、屋台でも引っ張って旅をしろってことだろ?それって道中、魔物に襲われたら終わりだし、食材を各地で購入して売るって割に合わなくない?


「色々ですか。希望は確認されましたか?」


「?」


 希望?なにそれ?頭を傾げてしまう。


「パンドラの最後には希望がありました。そうですよね。」


 パンドラ?・・・あ!地獄コースの最後の宝箱の中身を確認していない!

 制服の内側の拡張収納から両手で抱える程の大きな宝箱を取り出す。真っ黒い箱を開けると青い指輪が一つと手紙が一枚だけ入っていた。あとは何も入っていなかった。これだけ?

 私はまず手紙を取り出し、中を確認した。その手紙にはこう書かれてあった。



『パンドラコース初攻略おめでとう!

 もう途中からおねえさん、可哀想過ぎてお荷物の彼を絞め殺そうかと思ったぐらいだよ。だから、大魔導師様に頼んで急遽作ってもらったよ。これから君に必要になるもの!

 一つは結界付きテント。中は見た目と違い1LDKの広さがあるよ。もう一つはキッチンカー。自走は無理って言われたから、必要があれば騎獣に引っ張ってもらってね。使ってくれると嬉しいな。その二つを亜空間収納が付与された指輪に入れているからね。それじゃ、リュウ君と仲良くね。』



 色々つっこんでいいかな。これ書いたの絶対に転生者だろ!この世界に1LDKもキッチンカーもない!それになんで私にコレが必要になるって知っているんだ!

 最後に大魔導師って誰!


「聖女様。色々おかしいのですが?それになぜ、聖女様が宝箱の中身をご存知なのですか?」


「キッチンで使用する必要最低限の物は何かと聞かれましたので、アドバイスをしておきました。それから、リラさんが昨日帰られたあと、こういう物を贈ったと報告をされました。」


 もしかして、送り主と聖女様は知り合いか!

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