第22話 ズッキューンメロメロ・・・無いわ

「それは、聖女様は私が世界の思惑に乗せられればいいと、思っているということですか?」


「リラさん。」


 聖女様は私の名前を呼び、手を後ろにやったかと思えば、白い器を持って私の前に差し出してきた。


「黄金のリンゴで作ったシャーベットです。リリアンビーの蜂蜜を掛けたものですが、いかがですか?」


 お、黄金のリンゴ!それに甘い香りと上品な甘みがあると言われているリリアンビーの蜂蜜だって!その組み合わせとても美味しそう!


「いただきます!」


 聖女様の手からシャーベットを受け取って、一口食べる。お、美味し!黄金のリンゴはそのままでも美味しかったけど、シャーベットにしたら甘みが増して、その上から蜂蜜のハーモニーや~。失礼。

 

 はっ!一瞬で無くなってしまった。たくさんダンジョンに潜ってきたけど、黄金のリンゴは1度しか巡り合っていない。そんな貴重なリンゴをシャーベットにだなんて、私は思ったこともなかった。


「この世界には美味しい物がたくさんあるのですよ。けれど、パンと同じく、あるものをそのまま受け入れるのが、この世界の人々なのです。もったいないですよね。」


 もったいない。確かにもったいない。こんなにも美味しい物があるのに・・・。あっ!私が黄金のリンゴをそのままで食べたことも同じか。美味しい食べ方を知っているのにそうしなかった。でも・・・。


「それって、聖女様が美味しい物を広めてもいいのではないのですか?大陸中を巡っているのですよね。」


 だって、私を今のパンに出会わせてくれたのは聖女様なのだ。


「興味ありません。どこの誰がどのような物を食べていようが、私は興味ありません。私にはやるべきことがありますから。」


 そうだった。聖女様は世界を浄化するという壮大な使命があるのでした。それで、私なのか。美味しいものを料理してさらに美味しい物にする。それを売ってたくさんの人に食べてもらって人々の心の浄化を行う。

 なんか、できそうな気がしてきた。世界の思惑に乗ってやろうじゃないか。


「ああ、でも。」


 なんですか!


「多分。このままだとシエンさんが付いて来ますよ。」


 なんだと!何故についてくるんだ!


「なぜですか!今でもストーカーされているのですけど?」


 はっ!ストーカーだからか!

 私の言葉に聖女様は困った顔をされた。


「ストーカーですよね。はぁ。この世界の人々にとっては受け入れられることなのですが、困ったものです。」


 ん?シエンのことで聖女様が困っている?


「もし、本気で逃げたくなったら、私があげた外套を常に身につけておけばいいです。そうすれば「駄目だ!」」


 シエンが聖女様の言葉を遮って部屋に入ってきた。なんて失礼なヤツだ。


「それは絶対に駄目だ。」


 そう言って、シエンは私と聖女様の間に入って来て、私を背にして聖女様を睨んでいる。


「リラは俺の唯一だ!俺の番だ!リラから離れるのは絶対に嫌だ。」


 つがい・・・。ツガイ・・・。番ーつがいぃぃぃ!!

 え?なにそれ?

 いや、聞いたことはある。この世界には誰しも番が存在すると。一番身近な人で言うと、鬼バ・・・オリビアさんとサブマスが番だ。

 オリビアさん曰く、あった瞬間ズッキューン♡メロメロだったらしい。

 私も番というものに興味はあった。出逢ってしまったらどんな感じなのだろうとか、出逢った瞬間恋に落ちるのだろうかとか思っていたりした。

 しかし、シエンが番?いや、違うだろ。私は何も感じないぞ。


「シエンさん。それはリラさんの前で言ってはならないと言いましたよね。」


「そう!それだ!言ってはいけないのだったら、どうリラに説明すればいいんだ!」


「はぁ。だから、貴方の言葉でリラさんに言ってくださいと言いましたよね。後ろのリラさんの顔を見てください。それが貴方の今までの行動の結果です。」


 聖女様にそう言われ、シエンは振り向き私を見る。青い顔をされても私は聖女でも番でもないぞ。


「なぜだ。なぜ、わからないんだ?」


「私に付き纏うのは、いい加減止めてくれないか?」


 目の前のシエンが膝から崩れ落ちた。いや、マジで違うし


「シエン。お前の気持ちを素直に言えと言っただろ?変革者に番の感知能力はない。」


 リオンさんがいつの間にか側に来ていた。変革者?もしかして称号の『変革をもたらす者』のことか?ってか何で私の称号がバレているんだ!

 はっ!もしかして、学園で習っていなかったが、鑑定っていう魔術があるのか。


 そんな事を考えているとシエンが膝を突いたまま、私に抱きついてきた。離れろ。

 引き剥がそうとするが、全く離れそうにない。人族と龍人族の力の差があり過ぎるのではないのだろうか。


「好きなんだ。俺はリラがいないと駄目なんだ。大好きなんだ!」


 ストレートな言葉が降ってきた。おぅ。イケメン耐性がある筈なのに、ドキッと胸が鳴ってしまったじゃないか。

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