第20話 災難って言葉で済むのか?
なんだ。あれは。あんなもの見たことなんてない。私はシエンに抱えられ、首が無い鎧に追いかけられている。そして、その後ろから多種多様な鎧が追いかけてくる。すっごく怖い。これはホラー映画かっていうぐらい怖い。
それにメチャクチャ速い。鎧ってこんなに速く動けるのか?私が身体強化しても出せない速さだ。いや、中身がないから人の可動域は関係がないのか。
しかし、龍人ともなると、人を一人抱えても後ろの鎧共と変わらないスピードがだせるものなんだな。
この先に分かれ道が見えてきた。真っ直ぐだと今の大きさの道が続いてそうだが、右側の道は一回り狭そうだ。
「シエン。そこの分かれ道を右に曲がれ。」
シエンが右に曲がったところで、土壁で道を塞ぐ。
「『土の障壁!』」
向こう側からガンガンと音がしているが、これで少しは時間稼ぎができるだろう。と思っていたら、塞いだところではない壁が崩れ、今度は首が3つある犬が出てきた。
うん。これは知っているぞ。ケルベロスだ。って何で地獄の番犬と言われているケルベロスが王都の地下にいるんだよ。
なんか口から青い炎が漏れているんですけど?
「シエン。こんな狭いところで戦えないから、逃げろ。」
こんなに狭い洞窟で、魔術で攻撃しようものなら、下手したら洞窟が壊れ生き埋めになってしまう。
「無理だ。挟まれている。」
何!先程まで何もいなかった進行方向に洞窟の幅と同じぐらいの巨大な蛇がいた。後ろから土壁が崩れる音が響いてきた。塞いだはずの土壁が脆く崩れさってしまった。これもう、つんでない?
一番生き残れる確率があるのが、進行方向の蛇を倒すことなんだが、ここで背中を向けると、ケルベロスの口から漏れている青い炎が襲って来るだろう。しかし、洞窟と同じぐらいの幅の蛇をどうやって倒すんだ?洞窟の壁と蛇の隙間って通れるのか?
そんなことを考えていたら、シエンに抱え直され回転Gがかかり、シエンが巨大な蛇の頭を素手で殴った。殴った?
巨大な蛇は一撃で撃沈し、シエンは蛇と洞窟の天井の隙間を通って行く。
その後ろから、爆発音と地響きが響き渡ってきた。
あんな大きな蛇を素手で一撃で倒せるもの?いや、取り敢えずピンチを脱したのだから、それでいい。
いいのだが、背後からガシャガシャという音と獣が走って来る音が近づいてくる。
本当に、ココは何!ダンジョンなら魔術をバンバン撃っても崩れることはないだろうから、いくらでも攻撃はできるのに、さっき地響きが響いていたということは、そうではないということなのだろう。
はぁ。今度は私がお荷物になっているということか。
一体どこまでこの道が続いているのだろう。もう、王都の端まで行っている距離を移動しているのではないのだろうか。
私を抱えたまま走っているシエンがいきなり止まった。
「どうした。」
「前から、何かが来る。」
また、ピンチの再来か!本当にシエンの運の悪さは酷いな。後ろから獣の足音が近づいてきた。後ろを見ると口から青い炎が漏れている3つの首を持つ獣がすぐそこまで迫っていた。
まだ、あのケルベロス一匹だけならいけるかもしれないと思い、シエンに降ろすように言おうとしたところで、後ろから一陣の風が吹き抜けた。
先程までケルベロスがいたところには、見たことある人物が立っていた。
「オルクスさん。」
金髪に黒が斑に混じった豹獣人の男性の足元に3つ首がバラバラになっているケルベロスが倒れていた。
「こんなところで何をしているんだ?普通はここには来れないぞ。」
私が、私達が逃げるしかないと判断したケルベロスを一瞬で倒し、いつものように飄々とした感じで聞いてきたのは、聖女様の側にいるイケメンの一人だ。
「ここがどこか分からないのですが?」
「ん?王都の地下だ。」
そんな当たり前のように言わないでほしい。それに王都の地下にあんな訳のわからない魔物がいてたまるか。
「まあいい。出口はこっちだ。」
オルクスさんがもと来た道を戻ろうとしていたので慌てて言う。
「後ろから鎧が襲って来ているのですが。」
「それは大丈夫だ。」
何が大丈夫なんだ!
本当に大丈夫だった。鎧共は追いかけて
洞窟を抜けて、石づくりの道を抜けて階段を上って出てきたところが、聖女様の屋敷の中だった。
なにこれ、聖女様の屋敷とあの怪しい洞窟がつながっている!
「災難でしたね。」
相変わらずイケメン達に囲まれている聖女様に言われてしまった。
「シエンさん。こうならないように、いくつか護符をお渡ししたはずですが、どうされたのですか?」
聖女様が直々に護符を作った!それ私も欲しい。
しかし、シエンは聖女様の質問に答えない。ちょっと待て、オリビアさんが言っていたな。財布にも護符を施してもらったと、アレは闇喰い云々の話じゃなかったのか?
「それって、闇を取り込まないようにする護符ですか?」
「護符というものは本人にとって害のあるものから護るというものです。ですから、シエンさんの闇を取り込む事を完全に無くすことはできませんし、不運を避けることもできません。ですが、それらからシエンさんを護るものとしてあります。」
ああ、シエンの本質は変えれないので、それらからシエンを護るという意味合いなのか。でも、財布以外壊れたとか取られたって言ってなかったか?財布もとられていたが。
「シエン。初代様が頼み込んで作ってもらったものをどうしたんだ?」
リオンさんがシエンに厳しい視線を向けながら聞いてきた。その言葉にシエンはビクリと肩を揺らし、小さな声で呟いた。
「無くなった。」
閑話
「ヤバいよ。マジであの不運の子やばいよ!」
ショートヘアの黒髪を両手で押さえながら、一人の女性が聖女の前に現れた。
「どうしたのです?」
聖女は突然現れた女性にも驚かず淡々といつもどおり尋ねた。
「王都の地下に落ちた。」
「は?どうやって落ちるのですか?穴でも空けたのですか?」
流石にその言葉に聖女も驚いたようだ。
「穴なんて空けるはずないでしょ!開いたのよ。穴が!慌てて閉じたけど、道を歩いてて穴が開くって何?」
「今はどうしているのですか?」
「今?大魔導師様がお遊びで作った呪いの鎧達に追いかけられているけど?」
「ああ、あれですか。」
聖女には心当たりがあるらしい。
「ねぇ。誰か助けに行ってくれない?あの地下はヤバいヤツを詰め込んでいるから、二人共死んじゃうよ。」
「二人?」
「あの不運の彼と美味しいものには目がないリラちゃん。」
「はぁ。仕方がありませんね。」
聖女が立ち上がろうとしたところで一人の男性が部屋の扉を開ける。
「俺が行った方が早いだろ?直ぐに戻ってくる。」
そう聖女に声をかけ、豹獣人の男性が部屋を出ていった。
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