第19話 幼子でもできる配達だ

 私の腕を掴んだままシエンは立ち上がり、未だに書類に向かっているサブマスの前に連れて来られた。怪訝そうな視線を目の前に来た私達に向けるサブマスにシエンは言った。


「なんで分からないんだ。」


「何の話だ。主語を言え。」


 確かに何の話かわからない。サブマスもタバコを吹かしながら、眉間にシワを寄せている。


「言うなって言われているから、分かってもらうことができない。」


 その言葉でサブマスは思い当たったのか、私の顔を見てため息を吐いた。


「わからないものはわからない。そういうモノらしい。お前、あの問題児になんて言われた?」


「想いを押し付けるようなことはするな。言わなければならないことがあるのではないのか。」


「その言わなければならないことはいったのか?」


「俺がこうなっている理由を話した。」


「で?」


「終わり。」


 サブマスは新たにタバコを取り出し、火をつけて一吸いしてから煙を吐き出す。


「お前バカだろ。隔離されて育てられたにしても程があるだろ。リオンに聞け、俺は関わらん。」


 隔離されて育てられた?なんだそれは。


「リラ。お前はもう帰れ。あと、明日暇だろ?」


「暇ではないです。」


「今日一日中ウロウロしていたが、明日の用意はしているのか?」


 は!何も準備をしていない。今日一日コイツに振り回されただけだったと頭を抱えてしまった。


「そんなリラに仕事を送ろう。」


「私、冒険者ギルドに入ってないです。」


 そう言っているのに、サブマスは一枚の紙を私の前に差し出してきた。


「大丈夫だ。幼子でもできるただの配達だ。」




 何が幼子でもできる配達だ!今、狭い坑道のようなところで私は大量の鎧に追われていた。

 途中まではよかった。


 夕方までに届けてくれればいいとサブマスから言われていたので、朝の家の手伝いと翌日の仕込みを終えた昼過ぎに、冒険者ギルドに行き、配達する物を受け取った。配達先は東地区第二層の技術者が住む一軒家に届けるだけだった。中身は大物の魔物の魔核だとしか聞かされていなかった。技術者が何かを作るモノの核とするのに使うものなのだろうから、私はそれを届けるだけだ。


 その配達物を受け取った私はギルドを出て、列車に乗ろうとしたところで、私の前にシエンが現れたのだ。何故。私がココにいることがわかるんだ。


「なんで、今日もその短い服なんだ?」


 会って早々そんな事を言われた。何で制服を着ているかって?決まっているじゃないか、帰りに学園のダンジョンに寄って今度こそ食材を手に入れるためだ。

 なのに、それを妨害したシエンが何故私の目の前にいるのだ。


「何か問題でも?シエンには関係ないよな。私は今から配達に行くから、付いて来るなよ。」


 付いて来るなと言っているのに、列車を東教会前で降りてから私の後ろをシエンが付いて来ている。

 東第二層門を通り抜け、目的の住所まで行こうと坂道を登っていたら、何もしていないのに足元の道が無くなった。いや、道が陥没したと言ったほうがいいのだろう。それもシエンも共に落ちている。

 何だこれは、舗装された王都の道が陥没するってどういうことだ?確かに王都は逆さの椀状となっているがその山の一辺が崩れたのか?底まで落ちて行き、上を見上げれば空が見えず、穴も無かった。

 なんだ?何が起こった。


「シエン。何かしたか?」


 シエンに聞いてみるが、首を横に振るばかりだ。本当に何もしていないのか?


「前も思ったが、シエン。お前おかしくないか?オリビアさんは運が悪いと言っていたが、そんな言葉では言い表せないよな。」


「あ、いや。その。」


 私の質問にシエンは目を泳がせ、しどろもどろに言葉を詰まらせる。


「はっきり言え。」


「はぁ。俺のステータスのLUKはカンストしているんだ。」


 LUKがカンストだって!それじゃ、めっちゃ運がいいことになるはずだよな。


「でもそれは運がいいってことじゃなくて、運の振り幅が大きいということなんだ。これは種族的に由来するものらしい。大祖父様もそのお母様もそうだったらしい。だから、幸運が訪れれば、不運が訪れるというのを繰り返している。」


 良いこともあれば悪いこともある。これは当たり前のことだ。しかし、こんなことは起こり得るのだろうか。

 まぁ、百歩譲って、ダンジョンでのことはあり得ることかもしれない。だが、整備された王都の道が陥没し、落ちて上を見上げればその穴が無くなっていたということはおかしすぎるだろう。

 そして、この落ちたところ。空中に浮遊する光を発する小さな物体が飛んでいる。まるで、ダンジョンのようだ。


 しかし、王都にあるダンジョンは北地区の学園の敷地内にあるのみと聞いている。ではここはどこだ?


「で、これはシエンの不運によって引き起こされたことと思っていいのか?しかし、こんなことはありえないだろ。」


「ありえないことが起きるのが、龍人の宿命らしい。大祖父様は12歳でSクラス級のブラックウルフと遭遇して倒したとおっしゃっていた。」


 Sクラス級の魔物を12歳の子供が倒した!龍人だから倒せるのか?私が今、Sクラス級と遭遇して戦えるかと言えば無理だと答えるだろう。そんなものレベル100を超えていないと対処できない。


 何か、首元がザワザワする。何だっと思っていたらシエンに引っ張られていた。振り返ると私が立っていたところには、首の無い鎧が剣を振り切った形で存在していた。


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