第15話 聖女とは

 私が否定の言葉を言うと聖女様のイケメンたちから


「やっぱり駄目じゃないか。」

「厳しいとは思っていましたがこれ程とは」

「焦りすぎたんじゃないのか?」

「どちらかと言うと今の方が焦っているだろうね。」

「シエンはバカだな。」


 と言う声が聞こえていた。聖女様からは、ため息が漏れ


「リラさん。一つ忠告しておきます。多分、リラさんがそう言ってもシエンさんは諦めないと思いますよ。」


 なんだと!私がこれだけ拒否しているのに諦めないとはどういうことだ。


「どうしてでしょうか?私を聖女だなんて巫山戯たことを言っているのですよ。そもそも、聖女とは何者なのですか?私は聖魔術なんて使えません。」


「聖女が何者ですか。私は世界を浄化する役目を与えられています。世界から聖女と定められた者は全てこの為に存在しています。」


 お、大き過ぎる。世界を浄化?無理すぎるだろ!


「私個人としては誰が聖女と名乗ってもらっても構いません。」


 いや、無理だから。


「そして、私の口から貴女の世界から与えられた定めを言うことは簡単です。しかし、その定めの道を歩むかはリラさんが決める事です。」


 私の定め?ああ、聖女様に初めて会ったときに言われたなぁ。『あなたは何を定められていますか?』と。私が聖女?ないない。


「私の定めとは何ですか?」


 これは聞いておかなければならない。聖女云々と言われたなら、それは絶対に無理だ。


「貴女の好きな物を作って、人に与えることです。」


 ん?どういうこと?


「具体的には何ですか?」


「今もしていますよね。パンを作って街の人達に売り歩いている。それが、貴女に与えられた定め。」


 そんな簡単なことでいいの?じゃ、シエンの聖女云々は全く関係ないじゃないか。


「そんな簡単なことって思っています?」


 え?聖女様って心が読めるのか!


「簡単なことではありませんよ。しかし、この先の話をするとなれば、色々覚悟を決めてもらわなければなりません。」


 なんか重い話の感じになっている。覚悟って何?パンを作って売るのに何の覚悟がいるんだ?


「今のまま、暮らしていくのなら、それで構いません。今のリラさんのままで。

 もし、世界の思惑に踊らされる覚悟ができたなら、また、訪ねて来てくだ・・・・リラさんお迎えが来たようですね。」


 聖女様が何か恐ろしい言葉を言っていたが、何?世界の思惑って?それから、ここに来るとは誰にも言っていないのに迎えなんて来るはずないだろう。

 そう思っていたら、玄関の方から激しく扉を叩く音が響いて来た。私の知り合いで扉が壊れそうな程叩く人は鬼ババァぐらいしか思い当たらない。


 リオンさんが部屋から出ていき、連れてきたのはシエンだった。何故ここに来た!

 シエンの目が私を捉えたかと思ったら、転がるように私のところにやってきて、私を抱きしめた。


 なんだ?いきなり。誰の許可を得て私に触っている!

 距離を取ろうにも身動きが取れない。この腕を放せ!


 抵抗をしているとやっと解放された。顔を上げるとシエンは聖女様に首根っこを引っ張られ、床に投げ捨てられていた。そして、聖女様は腐った羽虫を見るような目をシエンに向け


「言いましたよね。貴方の想いを押し付けるようなことはしてはいけないと、リラさんにまず言わなければならないことがあるのではないのですか?」


「俺の聖女になっt・・・gっ。」


 せ、聖女様が!あの優しい聖女様がシエンの頭を足蹴にしているなんて。


「死にますか?一回死にますか?世界から解放されると、そんなくだらないモノどうでも良くなりますよ。ダイジョブです。私セイジョなんで生き返りますヨ。」


 聖女様が恐い。とてつもなく恐い。なにかすごく怒っていらっしゃる。

 そんな聖女様から逃げられないシエンは手の平で床を叩くことで意思表示をしているが、恐ろし過ぎて声がでないのだろう。


「シエンさん。貴方がなぜそうあるのか、貴方の言葉できちんと話してください。リラという一人の女性をきちんと見て話しなさい。それでもリラさんから拒否されるようなら諦めなさい。」


 でも、リラさんは優しいですから、貴方の精一杯の言葉で紡げば許してもらうことはできるかもしれませんよ。


 聖女さまはそんな言葉をシエンに言って、私とシエンは屋敷の外に追い出されてしまった。

 夕食の準備中にお邪魔いたしまして、すみませんでした。と、心の中で謝った。




閑話むだばなし

 聖女が居なくなった部屋の片隅で


「あれを言われてしまったら、駄目だよな。」


「死んで世界から解放されるってヤツだろ?」


「究極の脅しですね。解放と言うより、絶望ですよね。」


「本当にシエンはバカだよな。怒らすような事を言うなんて。」


「この甘美な想いを知ってしまえば、それを失う恐ろしさは死より深いものだ。」

 

 他の者たちはこの言葉に深く頷いた。

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