第14話 もう関わりたくない

 家に戻ると母さんが裏口で待ち構えていた。なんだ?店の方はいいのだろうか。


「リラちゃん。帰ってきたのなら、帰ってきたと言いなさい。」


 ああ、戻ってきても昼のパンだけ作ってそのまま出かけてしまったから、母さんはお怒りのようだ。


「ごめん。父さんとロイにはただいまと言ったから、いいかと思った。」


「本当に心配しましたのよ。ダンジョンに行って戻ってこないなんて初めてでしたもの。」


 ああそうだ。確かに酷い有様だった。


「すまなかった。俺が付いて行ったばかりに」


 背後霊のように付いてきたシエンが母さんに頭を下げていた。お前はさっさと国に帰れ!


「まぁ。シエン様!シエン様が頭を下げることはありませんのよ。」


 いいや、全てシエンがいることで引き起こされた事だ。


「しかし、シエン様はどうされたのですか?リラが何かしたのですか?少々お転婆が過ぎることはあるかもしれませんが、悪い子ではありませんのよ。」


 母さん。何故私が悪いことになっているんだ。全部シエンが悪いだろ。


「その事で話がしたいのだが、時間をとってもらえるか?」


 おい!その言い方だと私が全て悪いみたいになっているだろう!


「ええ、もちろん今すぐに!」


 母さん待って!私は悪くないから!


 急遽、作業台兼食卓で家族とシエンが席につくことになった。今日のパンは焼かなくていいのか?今日はもういいって?王族を待たすなんてとんでもないと・・・ああ、シエンは王族だったな。あまりにのムカつきすぎて忘れていた。


「それでシエン様、リラが何をしたのですか?殴ったり蹴ったりしたのですか?」


「ねーちゃん。王族に手を上げたら駄目だろ。」


 ロイ。あの状況は殴っても許されるはずだ。


「実はリラは俺の聖女なのだ。だから、リラを俺にください。」


 シエンはそう言って家族に頭をさげたが


「私は物じゃない!」


 思わずその頭を殴った。その反動で作業台にシエンの額が当たり、作業台にヒビが走った。あれ?そんなに力を入れていないのにヒビが走るなんて、取り敢えず時間の魔術で、時を戻して無かったことにした。


「リラちゃん、暴力はいけませんわ。シエン様。よろしゅうございましたね。巫女様の予言のお言葉が真実になったのでございますね。」


 巫女様の予言?なんだそれは?


「リラがお役に立つならどうぞ連れて行って下さい。」


「母さん!私は聖女じゃない!聖女様はきちんといらっしゃる。私が聖女を騙ることはない!」


「ねーちゃんが聖女かー。かなり目つきの悪い聖女様だな。」


 ロイは黙っていろ。


「リラちゃん。一度炎国に行って来なさい。」


 母さんは私を見ながらそんな事を言ってきた。何故。シエンの言葉を信じる。王族だからか。娘の私より権力に従うのか。


「なぜ。」


「巫女様のお言葉をいただきなさい。」


「嫌だ。」


 そう言って私は私の部屋に駆け込んで行った。私の味方は誰もいないのか!母さんは王族であるシエンに逆らうことはしない。ロイはおちょくってくるばかり。父さんは何も言ってこない。

 聖女ってなんだ?本人に聞いてみるか。朝も訪ねたのに夕方も訪ねたら迷惑だよな。

 しかし、はた迷惑なシエンに付きまとわれ続けるのは嫌だ。


 部屋にあるものを片っ端から、未だに着ている制服の内ポケットに入れていく。最悪このまま出ていってやる。元から出ていくことは決まっていたのだ。それが早まっただけのこと。

 聖女様から何かあればこれを使うようにと渡された隠蔽の術が掛かった外套を羽織り、部屋の窓から外にでる。そのまま屋根伝いに南教会がある広場まで行き、そこから下に降りそのまま歩いて聖女様の屋敷に向かった。



 聖女様の屋敷の前にたどり着いた。マジでこの隠蔽の外套凄い。誰も私の存在に気が付きもしないし、門兵がいる第二層門も素通りだった。


 朝も叩いたドアノッカーで扉を叩く。内側から扉が開き、リオンさんが出てきた。


「なんだ?シエンは失敗したのか?」


 どうやらリオンさんは私の存在がわかるようだが、今聞き捨てならないことを言っていたな。


「失敗したとは?」


「こっちの話だ。シェリーに話があるのだろう?入ってくるといい。」


 はぐらかされた。私はリオンさんの後に付いて部屋に入ると、エプロン姿の聖女様が・・・あれ?朝と同じ光景だった。しまった今度は夕食の時間にお邪魔してしまったのか。


「このような時間にお邪魔してしまって、すみません。直ぐに帰りますので」


「構いません。リラさんお困りなのでしょ?」


 本物の聖女様となるとそんなことも分かってしまうのか。すごいな。

 聖女様は手を止めてくださり、私に座るように勧めてくれた。そして、私は今日の昼からの事を話しだした。


「もう、私には手に負えません。付いてくるなと言っても付いてくるし、私を物の様に両親にくださいと言ってきたのです。リオンさん何故国に帰してくれないのですか?」


「ああ、国から追放された身としては、国事に関われないからな。」


 お前もか!何で鬼ババァと同じく追放されているんだ!


「リラさんはどうされたいのですか?」


 聖女様がそう聞いてきたので私ははっきりと言った。


「シエンさんとは関わりたくありません。」

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