第13話 勉強になった
私はどうやら寝てしまっていたらしい。聖女様のお屋敷で寝てしまうなんて、恥ずかしい。寝ていた時間は二時間程だったが、起こされ慌てて家に戻ってきた。
二時間しか寝ていない割には体が軽い。
あまり時間がないのでサクサクとパンを成形していき焼いていく。その間にダンジョンで手に入れたジェネラルオークをトンカツにして揚げていく。今日はこれ一種類しか作る時間がない。
キャーべというキャベツに似た野菜を千切りにして、冷暗所に入れておけば、少ししんなりして、口当たりが良くなるのだ。
焼き上がったパンにキャーべとトンカツを挟み、料理スキルで再現したトンカツソースを掛けて完成だ。
時間を確認するとギリギリだが、お昼の時間に間に合いそうだ。出来上がったパンを販売用の籠に入れ、裏口から外に出て急いで西地区に向かって行く。
列車から降りて、冒険者ギルドに向かうのだが、お昼は冒険者達に販売するために行くのではなく、そこの職員に販売するのだ。余れば、そのまま商業区で移動販売のように売り歩いて売り切って帰るというのが今日の予定だ。
ギルドで5つ売った後、残りを商業区で売り歩こうとしていたら、横に引っ張られてしまった。
「リラ。俺の聖女になって欲しい。」
私を抱きかかえているのは、今朝聖女様の屋敷に置いてきたはずのシエンだった。イラッとする。
この距離感、ダンジョンで凶悪で使い物にならない魔術を使われた事が思い出されてしまう。
私は籠から今日販売しているトンカツを挟んだのコッペパンを取り出し左右に動かしてみると、シエンの目はコッペパンを追っている。
そして、私は思いっきり遠くにパンを投げた。日々パンを作り続けている私の剛腕もとい魔術でコッペパンは遠くに飛んでいき、シエンはコッペパンを追いかけていった。
その背中を見ながら、やはり、シエンはパンの方が魅力的だったのかと思いながら私は商業区に向かうのであった・・・しかし、私の後ろから口をモゴモゴさせているシエンが付いて来ている。
おかしいな。大分遠くに投げたはずなのに、戻ってくるのが早すぎじゃないのか?
おかしい。おかしすぎる。いつもなら直ぐに完売してしまうのに、全くもって客が寄り付かない。いつも買ってくれるおじさんに声を掛けても、今日はいいと断られてしまうし、フラフラと歩いていた知り合いの冒険者に声を掛けても断られてしまった。
何故だ。何故売れないのだ?いつもと違うのは後ろにフードを被った怪しい人物がいることなのだが、振り返っても別に何をしている風でもない。
っていうか、なんでリオンさんはコレを国に帰してくれないのだ!
今度は鬼ババァに頼んでみるか!私は売れなかったパンを持ったまま冒険者ギルドに戻って行く。
「オリビアさん。シエンさんが邪魔なので、早く国に帰してもらえません?」
「そう言われましても、私は炎国を追放された身ですから」
なんだと!鬼ババァは炎国で何をしたんだ!ヒッ。なんでもありません。
「でも、私すごく被害を被っているのです。今日なんてシエンさんに会ってから一つもパンが売れないのです。」
オリビアさんはシエンを見て、ため息を吐きながら手招きをして壁際でコソコソ話を始めた。
私は併設の食堂のカウンターに行って中の厨房のオヤジに声をかける。
「ジェフさん。パンが余りまくっているので買いませんか?」
「俺はそんなに腹は減ってねーから、買わん。」
「ケチですね。じゃ、ここに置いて帰るので代わりに売ってくれません?」
おお、いい考えかもしれない。場所代と販売料を引いても儲けはあるんじゃないのだろうか。
「それ、面倒くさいから。もうすぐ帰って来る冒険者に自分で売ればいいだろ?」
「私はそろそろ戻って明日の準備をしなければならないので、無理です。」
「じゃ、帰って店の方におけよ。」
「これは私が日替わりで作っているので、店に置けるほどの数は作れないのです。今日なんてジェネラルオークの肉で作ったのに全く売れなかったですし。」
「「「なんだって!」」」
私の耳に目の前で話していた厨房のオヤジの声でなく、早めに帰って来た冒険者たちの声が聞こえてきた。
「ジェネラルオークの肉がこの値段で食べられるのか!」
「安い。安すぎるだろ。2つくれ。」
「俺は3つだ!」
冒険者達に囲まれ残り全てが売れた。おお、ジェネラルオークの肉って売り出せば売れるのか勉強になったな。
「めっちゃコエー。恐すぎるだろアレ。」
私の後ろから厨房のオヤジの声が聞こえ、振り返るが、何が恐いのだろう。
目線の先には鬼ババァとシエンが居るだけだ。ああ、鬼ババァが恐かったのか。
鬼ババァは怒らすと恐いからな。ん?でも怒らすようなことはしていないはずだ。
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