第8話 聖女になって欲しいだって?

 行き倒れていたボロ布の中身はイケメンだった・・・が、凄く必死になって惣菜パンを貪っている。

 金の目はパンをガン見して、口の周りにはケチャップソースがついており、毛先が黒い白髪には茶色いトンカツソースがついている。それでもイケメンはイケメンだ。見た目がいいって得だよな。

 私が口の周りにソースつけていたら、ロイにバカにされるだけだ。


 しかし、私が気になるのが頭の横から生えている角だ。

 オリビアさんの額に生えている鬼族の角ではなく、羊獣人のうねった角でもなく、先が割れた龍族の角だった。

 鬼族のオリビアさんが『様』づけで呼んでいたことで若干嫌な予感はしていた。

 絶対にこいつ王族だろ!なんでそんなヤツが行き倒れているんだ!


 なんだ?食べ終わって私を見ているが、まだ食べ足りないのか?私は金を払わん奴にパンをやる気はないぞ。


 しかし、ロイの幼い時を思い出すほど、口の周りが酷い有様だな。タオルで口の周りをぬぐってやると、その手を掴まれた。ああ、自分で拭くと


「俺の聖女になってほしい。」


 意味がわからない事を言われた気がした。頭に栄養が行かなくて、おかしくなったのか?


「オリビアさん。元気そうなので、ギルドに連れて行ってください。」


 側にいたオリビアさんに大丈夫そうだと行ってみるが、オリビアさんは微笑んで


「まぁ。シエン様、見つけられたのですか?おめでとうございます。」


 こちらも意味がわからない。


「言っておくが私は聖女ではない。そういうのは、本物の聖女様に言ってくれ。」


 そう言いながら、掴まれた手を引こうとするが、びくともしない。痛くはないが、なんで離れないのだ。


「本物の聖女様はお会いしたことがあるが・・・」


 なぜか目の前のイケメンはブルリと震えた。


「大兄が恐いから近づけない。今回もお願いに行ったが、凄く恐かった。」


 大兄?オリビアさんを見る。黒髪に二本の角の鬼族。

 聖女様の周りにいるイケメンの中に鬼族がいる。子供の頃から私に飴やクッキーなどのお菓子をくれる優しい人で鬼ババァとは・・・すみません。オリビアさんとは違う。

 微笑んだまま睨まないでください。


「何をお願いに行ったんだ?それにリオンさんは優しいぞ。」


「大兄が優しい?それは聖女様の前だからだ。はぁ。聖女さまに浄化をして欲しいとお願いに行ったのだ。」


「シエン様は人の闇を取り込んでしまうのです。」


 目と表情が合っていないオリビアさんが話しだした。


「幼い頃はまだよかったのですが、大きくなられてからは、その闇は徐々にシエン様を蝕むようになってしまったのです。無くさないように財布に護符を施してもらっていたようなのですが、それを取られるなんて、相変わらず、ついていないのですね。」


 財布に護符?お金が貯まりますようにとお守りを入れることは聞いてことはあるが、普通の護符はペンダントやイヤリングなどの装飾品に施すことが多い。そもそもそこに間違いがあるのでは?


「取られない様にペンダントにしてもらえればよかったのでは?」


「それは、魔物に襲われたときに壊れた。」


「武器に施す人もいるが?」


「それは真っ二つに折れた。」


「服の裏地にする人もいたが?」


「追い剥ぎに遭った。」


 だめじゃん。もう国に帰れよ。


「シエン様は運もついていないので、良くあることです。」


 なおさら帰れ。


「国に帰れば何だっけ?光の巫女様って言う人がいるって聞いたけど?帰って浄化してもらえばいい。」


「光の浄化ではもう無理なのだ。」


「ん?私は聖魔術は使えないぞ。それ以外なら使えるが」


「パンに浄化作用がある。」


 これもまた意味がわからない事を言われた。パンはパンだ。それ以外の何物でもない。


「ではお店で購入すればいい。私は仕事があるので、いい加減に手を放せ。」


 しかし、手を放す様子が全く見られない。


「手を放してくれないのなら、聖女様に連絡してリオンさんに迎えに来てもらおうか?」


 低い声でボソリと呟けば、速攻に手を放してくれた。


「そんな事をされたら、俺が殺される。」


「それではオリビアさん、連れて行ってください。」 


 そう言ってオリビアさんに目を向ければ、可哀想な子を見る目で私を見ていた。なんで、そんな目をされなければならないんだ?


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