第9話 今になって新たな真実が!
取り敢えずシエンと言う行き倒れをオリビアさんに引き取って貰い、無事解決したところで、時間を確認してみれば昼の時間をとっくに過ぎていた。
あの厄病神め!昼の売上が半分になってしまったじゃないか!
仕方がなく調理場に戻れば、母さんが待ち構えていた。一体何だ?
「リラちゃん。オリビア様が来ておりましたけど、どのような御用でしたの?」
下町のパン屋の女将としては些か上品すぎる話し方をするのが私の母さんだ。
「探し人を保護しに来ただけ。」
「まぁ?探し人ですの?」
首を傾げながら聞いてくる姿は娘の私すらドキリとしてしまうほど、色気がある。母さんはすっごい美人だ。薄い青い髪に金色の目。16歳になる娘の私と変わらない歳に見えてしまう。
多分、獣人だからなのだろう。いや、背中から髪と同じ色の翼が生えているので鳥人というべきなのだろうか。
以前から思っていたのだが、父さんと結婚したのが不思議なぐらいだ。父さんは何処の裏組織幹部かと言うぐらい目つきが悪い。何人も人を闇に葬っているように思えてしまうのだが、本人は凄くビビリの気弱な性格だ。
一度母さんに何処が良かったのかと聞いてみれば、『勇ましい目に一目惚れしましたのよ。』と言われた。
勇ましい?凶悪の間違いじゃないのか?
「リラちゃん、お昼のお仕事に行かなくてよろしいの?」
「はぁ。シエンっていう行き倒れが邪魔したせいで、今日は散々だったから、明日の準備をして食材探しに行ってくる。」
「しえん・・・もしかして、シエン・グラシアール様?」
ん?なぜ母さんがシエンって名前だけでフルネームがわかるんだ?
「リラちゃん、シエン様に失礼なことはしなかったでしょうね。リラちゃんは少しお転婆だから弱っている殿方には優しくするのよ。」
何だ?シエンってヤツを母さんは知っているのか?
何か嫌な予感がする。鬼ババァを様付けで呼んでる時点でおかしいのだ。鬼ババァだから様付けなのかと思ったがこれはもしかして
「母さんは炎国の出身なのか?」
「あら?言っていなかったかしら?」
初耳だよ!母さんが父さんのところに押しかけ女房の様に嫁に来たから、母さんの家族とは疎遠になったとしか聞いていない。
炎国は鬼ババァの出身国でもある島国なのだが、唯一お米様を作っているところなのだ。
これは聖女様に恵んでもらわなくても母さん経由で手に入れることができたのでは!いや、家族と疎遠ではそれも難しいか。
もうすぐ16になるのに、ここに来て新たな事実を知ることになるなんて思わなかった。
「シエンっていう行き倒れにパンを恵んだだけだ。あとは鬼・・オリビアさんに任せたから大丈夫だろう。明日の準備をしてから出かけてくる。夕食には戻るつもりだけど、間に合わなかったら先に食べていていい。」
「また、ダンジョンに行きますの?」
「そう。」
そして、私は明日のパンの生地作りをする。大量の強力粉に前もって作っていた酵母を混ぜた種を投入し、砂糖と塩少々、お湯を用意して捏ねる。ある程度まとまったら植物の種から取った油とお湯を混ぜて今度は魔力を生地の周りに沿わせて生地を捏ねる。魔力で捏ねまくる。
これは子供ながらパンを作るために考えたやり方だ。腕が疲れなくていい。
満足できる生地の出来上がりになったら、冷暗所に入れて低温発酵させておいて、翌朝焼き上げるのだ。
やることは終ったので、自分の部屋に戻り制服に着替える。ダンジョンは魔術学園の敷地内にあるため、学生服を着なければならないのだ。
この国は多種多様の種族がいるために制服の改造を認められているのだ。尻尾がある獣人や翼のある鳥人などは必要なところに穴を空けないといけないからな。
私は水色の制服のワンピースの丈を短くして下にレースをつけることだけにとどめた。裾が長いとダンジョンの食材探しに邪魔になるからな。それにニーハイとショートブーツ、内側に色々仕込んだ上着を着て完璧だ。
パンを焼き続けている父さんと弟に食材探しに行ってくると言って裏口から家をでた。朝から
ここ王都メイルーンは城郭都市のように区分けされた街なのだが、第三層の庶民が暮らす地域を一周するように列車が走っているのだ。いわゆる環状線だ。
私が住んでいる南地区から列車に乗って北地区の学園前で降りて、学園に行くのだが、こんな昼の時間に制服を着て乗っているのは私ぐらいだろう。家の手伝いをしなければならない者以外は寮に住まわなければならないので、元々通いの学生は少ないのが現状だ。
昼と夕方の間の時間帯で人のまばらな列車に座らずに車両の一番うしろで立ったまま風景を見ていると嫌なモノを視界が捉えた。ボロ布が普通の外套になっていたが、フードからはみ出ている白い髪の先が黒い色をしている人物など、一人ぐらいしかいないだろう。
なぜ、列車に向かって走ってきている!
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