第7話 ボロ布の中身はイケメンだった

 サブマスは私にジャラジャラとお金の音がしている分厚い革財布を差し出してきた。え?何気に札束が財布パンパンに入っている。卒業祝いを私にくれるのか?


「これの持ち主を探してくれ。」


 そうですか。持ち主ですか。

 っていうかこんなパンパンの財布、相当入っているよな。そんな物を落とすなよ。


「落とし物ですか?」


「いや、手癖の悪いやつが盗んだらしい。昨日の夜、酒に酔った勢いで嬉しそうに話しているバカを見つけてな。このままだと、国際問題になりそうだから、さっさと本人に返したいのだ。」


 何?国際問題って!


「え?それ面倒くさそうなので断りたいです。それに私、冒険者ではなくパン屋の娘ですから。」


「リラさん。依頼料は支払いますよ。あと、お昼の販売は今日もココでしてくれて構いません。」


 鬼バ・・・。ひっ!


「オリビアさん。いきなり後ろから声をかけないでもらえますか?」


 恐いし、額から二本の角が生えており、赤い目の瞳孔が開いた鬼族の美人に後ろから迫られたら、恐怖で足がすくんでしまう。


「はっ!聖女様に頼めばよろしいのではないのでしょうか?全属性がつかえましたよね。」


「頼めないから、お前に頼んでいるんだ。」


「?。依頼料のことですか?」


「リラさん。いいですから、探しなさい。野垂れ死んでいる可能性が大なのです。」


 そんなに大事おおごとなのか!それはそれで嫌だ。

 そして、瞳孔開いた目で迫ってこないでほしい。痛い・・・掴まれた腕に爪がめり込んでいる。


「リラさん?」


「はい!喜んでさせていただきます!」


 私の弱い精神は鬼バ・・・オリビアさんの視線に耐えることが出来なかった。



 革の財布に残っている魔力の残滓から本人の魔力を探し当てる。どうやら南地区にいるようだ。


 しかし、この財布の持ち主こんな大金を普通に持ち歩いていたのか?いや、もしかして、大金過ぎて挙動不審だったとか?それでカツアゲされて取られてしまったとか?・・・取られた?少し前に聞いた言葉のように思えたのだが気のせいだろう。


 気のせいだと思いたい。後ろからピリピリと視線が突き刺さるが、何か悪いことをしただろうか。私の後ろからオリビアさんが付いてくる。

 サブマスに近寄る女性は蹴散らしていると噂に聞くが、さっきのはサブマスから近寄って来たのだ。決して私から近寄ってはいない!


「オリビアさん。付いてこなくてもギルドまで持ち主をお送りしますよ。」


「いいえ。動けないようでしたら、私が担ぎますので。」


 お金を取られただけでなんでそんな状態になっているんだよ。

 おかしいよ・・・あれ?ここは我が家のパン屋ではないか。相変わらずの行列だ。


 従業員を増やしたが、パンが焼けたら直ぐに売り切れてしまう。嬉しい悲鳴と言いたいところだが、そろそろ飽きてくれないだろうかと言うのが私の本音だ。

 調理場のパンの匂いはいいのだが、それ以外の甘い匂いは未だに苦手だ。

 店の商品は甘党の家族にまかせている。一週間ほど前に、新チョコパンを試食してくれとロイから言われたので一口食べると、ジャリッと口の中から音がしたので、そのままロイの口の中にチョコパンを突っ込んで言ってやった。「チョコパンを愚弄しすぎだ。これはなんだ?黒い砂糖か?チョコクリームのなめらかさは何処にいった!口の中がジャリジャリするパンがよければ周りに砂糖を振りかけておけ!」と


 話がずれてしまったな。しかし、魔力の残滓は何故か店の奥の方から感じる。表からでは入れなさそうなので、裏から回ることにするか。


 裏に回れば黒い鳥がボロ布を啄いていた。まだいたのか?いい加減引きずって第6師団に営業妨害と理由を付けて、つきだそうかと思っていたら


「シエン様」


 後ろから私を押しのけてオリビアさんがボロ布に向かって駆けていった。え?あの大金の元主がこれなのか?


「生きていらっしゃいますか?」


 オリビアさんが抱え起こすが反応が無い屍のようだ。


「リラさん。勝手に殺さないでいただきたい。」


 流石鬼ババァ、私の心を読むなんて・・・いえ、すみません。狭い我が家ですがお入りください。


 今の時間は皆が忙しく働いているため、調理場の端を歩き階段を上がっていく。私の後ろから、ボロ布を俵担ぎした鬼ババァ・・・ヒッ。後ろから殺気が!オリビアさんがついて上がってきた。

 我が家は狭いので客室もリビングも存在しないので仕方がなく私の部屋に通した。余分なスペースがあるなら、調理場を広げただろう。


 水とパン3個を置いて後はオリビアさんに任せた。私は昼の販売の準備をしなければならないからな。



 お昼の販売用の惣菜パンが半分ほど出来上がったとき、オリビアさんが調理場にやってきた。どうやら、ボロ布もといシエン様という人が目覚めたらしい。私に札束を出しながら


「今出来上がっているお昼の販売分を全て購入しますから、それを貴女の部屋に持って来てください。」


 オリビアさんは言ってきた。お金を払っていただけるなら、喜んで持っていきます。


 そして、私は2種類の惣菜パンを部屋に持っていけば、私の部屋にイケメンがいた。毛先が黒い白髪に金色の目。オリビアさんの知り合いだから角が生えているかもと思っていたが、鬼族じゃないー!

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