第6話 私の情報がダダ漏れだ

 今日も早朝から、南門の前で惣菜パンを販売するため、日が昇る前から用意をする。南地区は一般庶民が多く住むところだが、王都の外には広大な農地が広がっている。この王都メイルーンの住民の食料を賄わなければならないからだ。

 私のターゲットはその農地に行く人達の朝ごはんまたは昼ごはんとして惣菜パンを売ることだ。


 まぁ、愛妻弁当を持っているからいいと断られることもあるが、私のふわふわコッペパンの魅力には敵わないようで、惣菜パンのファンを増やす事に成功した。

 たまに甘いパンは無いのかと聞かれるのだが、店で買ってくださいとお断りしてる。店の方で好きなだけ買ってくれ。


 もうすぐ夜が明ける頃に準備を完了して私は家を出た。家の裏口から出ると、またしても、何かを踏んだ感触が・・・いつまでここにいるつもりだ?もしかして、ここに居ればタダでパンがもらえると勘違いしてるのか?

 死体のように動かない、ボロ布を纏った人を飛び越えて、先に進もうとしたら足首を掴まれてしまった。

 なんだ?こいつは。


「食べ物を恵ん・・さい。」


 とボロ布から声が聞こえた。何を言っているんだ?


「パンが欲しければ表の店で買え。何でタダでやらなければならない。一度施しをしたのだから、いいだろ?」


「お金を取られてしまって、買えない。」


「それは災難だったな。私は仕事に行くから足を離せ。」


「お願い『ギュルルルル』。」


 声と腹の音が重なって腹の音の方が大きく最後は何を言っているか聞こえなかったが、空を見ると明るくなり始めている。こんなところで時間を使っている場合ではない。農家の人達が南門をくぐってしまうではないか!油紙で惣菜パンを二個包み


「これをやるから手を離せ、そして二度とくるな!」


 パンを受け取るために、私の足が解放された。そして、猛ダッシュで南門まで走り抜ける。ああ!お得意さんの後ろ姿が南門を通り抜けていくのが見える!遅かった。客を一人逃してしまった。いつも3つは買ってくれるお得意さんなのに!


 しかし、逃した獲物は多かった。いつも買ってくれる顔触れが、5人も少なかった。少しの時間差で、半分も売れ残ってしまった。

 私が売れ残りを出してしまうなんて!あのボロ布め!今日は大損だ!


 いや、ターゲットを変えるために西地区に急いでいく。この時間ならまだ冒険者の人達がいるはずだ。



 結果的に冒険者ギルドの前で売り切った。ほとんどの人達が依頼を受けて出ていった後だったが、顔見知りを見つけて脅・・・お願いして買ってもらった。


 思ったより朝の販売に時間をかけてしまった。急いで戻ってお昼の販売の準備をしなければならない。

 しなければならないのに、外に出てきたサブマスに呼び止められてしまった。


「リラ。暇だよな。」


「暇ではありません。今から昼の販売の準備に帰るところです。」


「確か、魔術学園の成績トップだったよな。」


 なぜ、そんな事をサブマスが知っているんだ。


「選り好みした学科ですからね。」


「一年で魔術を修めたよな。」


 何処のどいつだ!私の情報を流したヤツは!


「よくご存知で。」


「それはそうだろう。優秀な使い勝手冒険者になりそうな者のいいヤツの情報は掴んでおかないとなぁ。」


 何か副音声が聞こえたぞ。あれか、庶民で魔術が使える人物を冒険者に引き抜こうということか。


「リラは探索系も得意だと聞いたが?」


 だから、誰だ!私の情報を流したヤツは!


「別に得意ではないです。普通です。普通より下ぐらいです。」


「ははは。謙遜することはないぞ。ダンジョンで迷子捜索をよく頼まれていたらしいじゃないか。」


 学生の個人的な情報は保護されるべきではないのか?それとも、このサブマスが何かしらの権力を持っているのか?もしくは、就職先となりえる冒険者ギルドには情報開示がされてしまうのか?


 確かに迷子捜索を頼まれたことは幾度かあるが、食材探しのついでに迷子を捜索していただけだ。メインは迷子ではなく食材だ。


「探索系使えるよな。」


 まるで逃しはしないと言わんばかりに、私の両肩を掴んできた。サブマス。止めろ。入口の扉からメッチャ睨まれてるじゃないか!すっごく恐いんだが、サブマスの奥さん。思わず頷いてしまった。


 ズルいぞ。頭から角が生えている奥さんをさり気なく使って脅すなんて。だから陰で鬼ババァって呼ば・・・いえ何でもありません。


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