第13話 ローザの戯言

 ローザは、見事にヴァイオリンの演奏をやりきった。


 わざわざローザの演奏を聴きにきていた貴族の一部は、ローザに握手を求めて列を成している。


「貴女の演奏は心が洗われるようでした」


「悩みが吹き飛んで行きました!」


 口々にローザを持て囃す言葉を並べていく男達を遠くから眺めていると、何かを思いついたような仕草を一瞬見せたローザが突然、驚く事を叫んだ。


「これは、私の“ギフト”なんだわ!」


 ざわっと、その場にいた者達が一斉にローザを見た。


「ねえ。きっとそうだわ!私の音楽は祝福を人々に与えるのよ!これは、“ギフト”なんだわ!」


 両手を組んで、側にいるリュシアンに訴えている。


 言われたリュシアンは、戸惑っているようだったけど、でもすぐに持ち直して冷静に対応し始める。


「あいつ、何言っているんだ?」


 隣に立つテオが呆れた声をあげている。


「ほっとけば?本当にギフト持ちなら、みんな喜ぶでしょう」


「ありがたがって、ますますあの子に心酔する奴が増えるだろうな」


 そう。


 ローザの周りにいる男は、一部は心酔と言っていい程ビスクドールのように綺麗なローザに傾倒している。


 見た目に騙されているバカな輩だ。


 この時のリュシアンの動きは早かった。


 騒ぎになりかけたその場を見事に治めて、ローザを何処かへと連れて行った。


「あいつも大変だな……」


 そんなリュシアンを見て、テオが呟く。


 確かに。


 ローザのお守りも大変でしょうね。


 オマケに男癖も悪いし。


 ギフト所持者が現れたかもしれないと、どこか浮ついた空気で残りの音楽祭の時間は過ぎていき、家に戻ると、使用人達までもが浮ついた雰囲気で玄関にいた。


 ローザの話を聞いて、帰りを待っているのだろう。


 私の顔を見て、お前じゃないと、あからさまに落胆していた。


 使用人達が話している内容を盗み聞くと、ローザは聖獣を祀っている聖域へ行って、ギフトの審議に入るらしい。


 その聖域では、時々聖獣がギフト所持者の前に姿を現してくれるという。


 聖獣が姿を見せてくれたら、確実にギフトを持った者だとの証明になる。


 勝手にやってくれと思った。


 結局、ローザがあの男と帰ってきたのは夜中になってからだった。


 聖獣はあの子の前には現れなかったらしい。


 けど、ギフトの認定は保留となり、様子を見ることになったそうだ。


 あの男は、もう確定したも同然だとローザを褒めちぎっていた。


“自慢の娘”だと、あの子を抱きしめていたな。


 薄ら寒い光景だったけど、玄関ホールで荷物を持たされて、それを見せつけられていた。


 使用人に無理矢理起こされて、玄関に出迎えに連れてこられたから、睡魔に負けて立ったまま寝そうだった。


 翌日、ローザは学園を休んで一日中ダラダラと寝ていたけど、私は学園へ行かなければならない。


 眠い目をこすって学園へ行くと、ローザの噂で持ちきりだった。


 努めて平静を装うリュシアンの隣に、テオが寄り添っていたのが印象的だった。


 ローザは元々リュシアンの婚約者なのだから、その立場が危ぶまれる事はないだろうけど、直系以外からギフト所持者が現れた可能性があるのだから、少なからずリュシアンに動揺があるのだと思う。


 今日はテオの邪魔にならないように、私もいつもよりもさらにひっそりと過ごした。


 何で私が気を遣ってやる必要があるのかは疑問に思ったけど、別に今、テオが必要なのは私じゃない。


 今じゃなくても、別にテオは必要じゃない。


 自分に言い聞かせているわけじゃない。


 絶対に違うと、せっかく面白い本を前にしてもその内容が少しも頭に入ってこなかった。


 ローザは本当に厄介な状況を作ってくれたと、今更ながら忌々しく思っていた。














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