第14話 初めての贈り物

 ローザのギフト騒動から随分と日にちが経つけど、相変わらず曖昧なローザの音楽の効果を求めて、貴族が御機嫌伺いにやってくる。


 あの男は調子に乗り、ローザはチヤホヤされるものだからいつも機嫌良くしている。


 防護壁の外にでも連れて行って、本物のギフト所持者か確かめればいいのに、リスクを冒してまで確かめるつもりはないようだ。


 壁がある。


 それが重要なだけで。


 ローザが王太子の婚約者なのも大きいようだ。


 それはそれで、都合がいいのだろう。


 私は存在を忘れ去られているように、何事もなく静かな日々だ。


 だから、ローザの戯言がどうでもいいとも言える。


 リュシアンはどうなんだろうな。


 淡々と学業や公務や、ローザの相手をこなしているように見える。


 そんな王太子様の力になってやっている上で、どこにそんな時間があるのか相変わらずテオは私に纏わりついている。


 でも、私の横で、テオも何やら難しい本を読んでいる事が増えた。


 そんな、気難しそうな本の間に挟まっているものに目がいく。


 テオが使っていたのは、ステンレス製の変わった形の栞だった。


 そういえば、今使っている栞はボロボロだから、何か代わりの物を探さないとな。


 自由になるお金があったら、ちょうどこんな感じの栞が欲しいな。


「いる?」


 テオが栞を抜き取って、私の目の前に差し出してきた。


 そんなに物欲しそうな顔をしていたのだろうか。さすがに恥ずかしい。


「やるよ。本を読むのは好きだから、毎日使うだろ?前から何か贈りたいとは思っていたんだ。今はこんな物しかあげられるものはないけど、俺が自分で稼げるようになったら、絶対にキーラが泣いて喜ぶ程の物を贈るよ」


「何よそれ。別にいらないし。けど、これは有り難くもらっておくわ」


 別に、人生初の贈り物が嬉しいわけじゃないんだからね!と、嬉しさを押し殺してその栞を受け取った時に、頭の中に流れ込んできたものがあった。


 テオと、リュシアンの関係だ。


 彼らは、異母兄弟だと。


 リュシアンは王妃と伯爵家の当主の男、つまり、テオの父親との子。


 テオは、伯爵家の正妻との子供。


 そして、王妃には王家の血は入っていないけど、元侯爵家の伯爵夫人には王家の血が流れている。


 王妃と伯爵夫人が言い争っているのを、隠れて小さなテオが見ていた。


 小さなテオの前で女二人が、伯爵から愛されているのは自分だと、それぞれが主張している。


 醜い、嫌な光景だった。


 二人は、こんな関係だったんだ……


 テオはこの事を知って……


 知った上で、王家の血筋ではないリュシアンを守ろうと決めた。


 私はため息をついた。


 別に知りたくなかったんだけど。


 テオを見ると、自分の髪の毛を触りながら少しだけ視線を逸らしている。


 は?


 じゃあ、ローザとリュシアンも異母兄妹て事にならないか?


 ローザの父親は、あの伯爵、テオの父親で確定している。


 知ったところでどうしようもない事実を知ってしまい、私には関係ないのに、気が重くなった。


 みんな腐っている。


 汚い。


 やっぱり、こんな国、早く、全部壊してしまいたい。


 再び視線を向けると、テオはボーッとどこか遠くを眺めている。


 その視線の先にある空を見ているのかは知らないけど、私の思いとは裏腹に随分と綺麗な青空が広がっていた。










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