第6話 王立学園
自分の教室に入ると、意外なことに会いたいのか会いたくないのか、微妙な奴がいた。
人との交流がない私に、知り合いなんかいない。
唯一知っている奴と言えば、
「よぉ!」
その人は、私の顔を見るなり、片手を上げて随分と軽い挨拶をむけてくる。
その気軽さに呆れる。
そういえば、これまでどこの家の人か聞いた事がなかったな。世間体などは気にしないのか。
「よく、平然と私に話しかけられるわね」
テオはさも当然とばかりに私を見る。
「別に構わないだろ」
「貴方が変な目で見られる」
「気にする必要もないだろ」
「………」
何も考えていないようで、呆れる。
「仲良くしようぜ、キーラ。俺ん家は、アニストン伯爵家だ」
手を差し出してきながら、何の含みもない笑顔を向けてくるものだから、そんな人の手に触れることに躊躇してしまい、結局握り返す事はしなかった。
「別に、気にしなくていいのに」
私の気持ちも知らずに、そんな事を言ってくる。
「貴方がよくても、私が嫌なのよ」
「キーラは、いい奴だな」
どこをどう解釈すればそうなるのか、私の心でも読めるのかと首を掴んで問い詰めたかった。
そんな事を私が思っているとも知らずに、テオは何が面白いのか吹き出して、そして口を押さえて笑いをこらえているようだった。
我慢し過ぎて、肩が震えている。
ちょっと笑い過ぎじゃないか?失礼な奴だな。
「横、座れよ。隣が俺の方が、知らない奴よりはまだマシだろ?」
まだ笑いを噛み締めている彼から促され、確かにそうだと、テオの隣の席に落ち着く。
ひと息つく間もなく、また廊下の方が騒がしくなって、案の定そっちを見ると、リュシアンがローザをエスコートして教室へ向かっているようだった。
あの二人と同じクラスではなくて本当に良かった。
「へー。アレがお前の妹か。今までまともに見たことがなかったな」
隣から声がかかる。
「綺麗なものしか見ない奴だな。リュシアンの婚約者があんなので大丈夫なのか?未来の王妃だろ」
テオの感想に驚く。
10人が10人、ローザの事を善と呼ぶのだと思っていたのに、テオの言い方では、ローザのことを全否定している。
正にその通りなのだけど。あの子は、自分に都合の悪い事は全く見ようとしない。
あんなんでも王妃教育を受け始めているはずなのに。
そしてみんな、精巧に作られたあの子の綺麗な笑顔に騙されて、ローザの本質を知ろうともしない。
「意外か?」
机に頬杖をついたテオからそんな風に聞かれたけど、特に返事もしたくないから、鞄から本を取り出して自分の世界に入ることにした。
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