第10話  過去と現在 母子の想い

 年中行事を家族で楽しむ事すらさせて貰えなかった。

 

 この物言いはまるで私がプレゼントを貰えなかった子供と同じ!?

 いやいやそこは強く否定をする。

 ただ私の言いたかった事はだ。


 ほんの少しの家族と共に楽しむ時間すらもこの透析センターにいる限りさせては貰えないと言う事なのだ。



 まあ今回のクリスマスの一件で益々私の心の中にと言うものはなくなっていく。

 そして12月26日ともなれば普通に言って年末。

 お正月まであと五日。


 今になって思い起こせばこの一週間はある意味私の心の死へのカウントダウンそのもの。


 その後たった七日間で私はある意味社会より抹消されてしまうのだ。

 まさか八年以上たった今でもまだ社会へ復帰出来ないだ何てこの時は欠片程も思っては……いや、この時既に私の心は恐ろしく病んでいたのだろう。

 何故ならその証拠に心が病んでいる事に自覚はなく家族の、母の止める声さえも私の耳と心には全くと言っていい程に届く事はなかったのだ。



 私の知る女性の中の誰よりも気丈で精神的に強い女性だった母が、東京に住んでいる妹へ毎日の様に私の事を相談していた事実を知ったのはつい先日の事。


 私の様子が可笑しいと、このままでは取り返しのつかなくなる可能性もあると母親ながらに何かを感じてしまったのだろう。

 そう言えば私の記憶の片隅で母が毎日の様に退と言っていたのを何となく、そう微かだけれども覚えてはいる。


 ただあの時の私は外側より入ってくるだろう全ての情報に対し心を閉ざし始めていた。


 だから母の悲痛な叫びも微かにしか覚えてはいない。

 そして無情にもその叫びへ私は応える事はなかった。

 


 先日妹と何気ない会話をすればである。

 何気に……いや、この物語を書いているにつれてまざまざと思い出してしまう悍ましい過去の出来事に、やはり何年経過しようともこうして正面より向かい合う事に本当は辛いのだと愚痴を零してしまった。

 そうそんな時である。

 妹が私へある事を教えてくれたのは……。


 『雪ちゃんが仕事を辞めてくれへんってお母さんは毎日の様に悲嘆に暮れていたよ。どうしたらあの病院から辞めさせられるんやろうって。しまいには私から雪ちゃんに連絡して病院を辞めさせてって……』


 そんなにも、本当に幼い頃より弱音を吐く母の姿を見た事もなければだ。

 泣く姿何て一度も見た事はなく、酒と賭け事に溺れる父を子供の為にならないと情け容赦なく切り捨てた強過ぎる母親。


 凛として誇り高く筋の通らない事を何よりも嫌う女性。

 決して他人……家族、親姉妹にすら弱みは殆ど見せた事はなかったらしい。

 そこまでに心の強い女性だからこそ、当然私達子供の前でも常に強い女性であり母親として君臨していた。

 だがその晩年は元気な頃と比べて信じられないくらいに可愛らしい少女となっていった。


 そんな母が弱音を吐いてまで私を病院より辞めさせたいと願っていたのにだ。

 母が亡くなってもう五ヶ月を過ぎた頃になって初めて知ってしまった真実と深い愛情。

 親不孝な私はもう母へ直接謝る事は出来ない。


 


 勿論仏前と言うかお骨の前でちゃんと謝ってはいる。

 でも直接、そう出来れば生きている時にちゃんと顔を見て謝りたかった。

 

 って。


 親孝行したい時には親はなし――――とはまさにあれは今の私の事だろう。


 母が亡くなって初めて母親と言う存在と偉大さに気づかされている毎日と親不孝過ぎる自分への後悔と懺悔。

 

 ママ、私はほんの少しでも貴女にとって良い娘だったでしょうか。

 


 

 

 

 

 

 

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