第17話  看護部長にとってどうでもいい話 Ⅱ

 ああ、私は一体何を頑張ってきたのだろうか。

 何故准看護師としてしなくてもいい資格の範疇を超えているだろう仕事を無理やり強いられたかと思えばである。

 看護部長の見込み違いだったと言う烙印めいたものを押されてしまった私は、何の後ろ盾もないままラスボス藤沢さんと対立する立場となり、勇者の従者の尻尾程度である私は当然の事ながらあっと言う間に敗れてしまうのである。



 本来透析センターのあるべき形。

 それは師長または主任や正看護師の指導の下で、准看護師である藤沢さんの目に見えない支配権を剥奪すれば大人しく一スタッフとして押し留めたいと看護部長は色々と画策していたのだろう。

 だが透析センターに在籍する二人の正看護師は大人しい性格故にあっさりと藤沢さんの軍門へ下ってしまった。

 いや、彼女の下へ下らなければ公開弄りの日々が今も続いていたのかもしれない。

 責任者のいない無法地帯の中我が身を守る手段を取らざるを得なかった二人の正看護師を責められる筈がない。


 しかし何とかこの状況を改善したい看護部長の次の一手として投入されたのがMEの武井さんである。

 だが彼は昔はこの病院でもやってこれたけれどもだ。

 その当時の心情はわからないけれども武井さんは一旦外の世界を見て、そして知ってしまった。

 外の、違う病院での十年と言う時間は武井さんのこれまでの考えをがらりと変えさせるには十分な時間だったと思う。


 またどの様な理由なのか何て私には知らない。

 それでも武井さんは再びこの病院へと戻りセンター長として立つ事により、藤沢さんの力を削ごうと考えられたのだろうがしかしである。

 彼の思った景色と今のこの病院の景色は余りにも変わり過ぎていた。

 そう、悪い意味合いで……。



 武井さんは辞めるまでの四ヶ月もの間、何度も看護部長を含む管理職の人間と話し合った結果この病院を再び去ってしまった。

 何も改善出来ないまま次々とスタッフが辞める中で慢性的な人員不足とリーダー業務を行う人間がいない現実。

 そこで余り期待は出来ないけれどもだ。

 常勤の私はまだ藤沢さんの軍門へは下ってはいない中立派と言うか、のんびりマイペースに働いていただけなのだけれどね。


 それでも看護部長の中ではでの投入だったのだろうね。

 試さないよりかは試した方がいい的……な?

 あー自分で書いていて何とも複雑で失礼極まりないよね。

 ほんと、今思い出しても迷惑でしかなかったからね。

 


 まあそんな軽い感じで私のリーダー業務は始まりそうして今へと至っている。

 そして結果は言うまでもなく――――だ。


 だがそんな軽い感じで投入された私は声を大にして叫びたい。


 あんた達は色々と勝手過ぎるんだよ!!

 何でっ、最初から、准看護師である藤沢さんに便利だからと言って様々な権限何て与えずにっ、看護部長もだけれどもこれまでこの病院で勤めていた正看護師がもっとしっかり自分達の資格に誇りを持って働いていればである。


 こんな時代錯誤で異常な看護体制なんてあり得なかったでしょ!!

 人のっ、私のっ、八年以上もの大切な人生と言う時間を返してよ!!

 この八年もの時間をっ、准看護師として働く事の出来た時間を返して!!

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