第五章  じりじりと

第1話  私は心の中で盛大に叫ぶ

 リーダーとなってからの私は今まで以上に仕事へ忙殺される日々を送るとなる。


 勿論リーダー業務は毎日ではないけれども業務に慣れるまではと、コンスタントにリーダーとなっていた。

 別にリーダー業務を行う事は嫌ではない。


 ただ何をどうしていいのかがわからないだけ。


 確かにリーダー業務を請け負う前に看護部長はと約束をした筈。

 だが結局教えてくれたと言うか、リーダー業務についての説明をしてくれたのは最初の日だけ。

 メモは勿論取っていた。

 だがその日に教わった以外の業務については何も説明はなく全てがぶっつけ本番である。

 と言うかである。

 流石に何の情報もなしに仕事を行う事は出来ない。

 そこで私はあるモノを探し始めるのだがその……。


 マニュアルが見当たらない!?


 忙しなくホールの中を移動し患者さんへ対応しているリーダー経験者へ訊くにしてもである。

 先ず初めにマニュアルへ記載されているだろうリーダー業務の内容とそれに付随するだろう各種書類関係の処理の仕方を自分自身で調べ、それでも理解出来ない場合は『お忙しいところすみません』と頭を下げ教えを乞うてみようと、それが社会人としての姿勢なのだと私はそう捉えていた。


 看護師だけでなくそれは全ての業種に当て嵌まるだろうと思うし、何でもわからなければ自分で答えを見つけ出さずに訊いてばかりと言うのは成人前の子供だけしか許されないと思う。


 それに私達の仕事は患者さん相手。

 あやふやで不確かなままでの行為は事故を誘発しまい兼ねない。

 確認何て何度を行っても足りないくらい。

 何度確認しようともミスする時はしてしまう。

 でもそれだからこそそのミスを防ぐ為にも細かな事から確認を行い確実に進めていかなければいけない。


 なのに忙しい仕事の合間を縫ってマニュアルを探そうともその姿は何処にもない。

 あの輸血の際に発見しただろう薄っぺらい冊子の様な看護マニュアルはあった。

 ただあれは看護技術に対して……と言ってもいいのか甚だ疑問だけれどもである。

 取り敢えずは看護技術のマニュアルらしきものはあれども、肝心の各業務についてのマニュアルは何処にも見当たらない。


 そうしている間に看護部長が詰め所へとやってきた。

 そこで私は看護部長へマニュアルの所在について尋ねたのである。

 その答えは――――。


「ないよ。よ」

「――――っっ⁉」


 嘘だ!!

 あり得ない!!

 病院なのにマニュアルがないなんて絶対に有り得ない!!


 でも当の看護部長は至って普通に返答してくれた。

 然も当然とばかりに……。


 一体ここは何時代の、そして何処の国の病院なのだと、私は心の中で盛大に叫んだのである。

 



 

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