第11話 別れ……あなたもですか
「桃園さんなら上手くリーダー業務も出来るって」
「またそんないい加減な事ばかり言って、一体何処をどうすれば私がリーダー業務を行えると思うん」
「大丈夫や、俺はこれでもちゃんと桃園さんの仕事を見ていたから……」
軽快に、そしてめっちゃ軽~く笑いながら話していた武井さんは、私がリーダー業務を始めるとほぼほぼ同時期にトンずらしてしまった。
いやいやN病院より正式に退職してしまったのである。
『ごめん、悪いな』
そんな簡単な言葉を残して彼は颯爽と辞めてしまった。
まるで辞める時期を虎視眈々と狙い澄ませていたかの様にも思えた。
気付いたのは最近。
何となくだが徐々にその存在をなくし、でも仕事では手を抜かなかった。
それに私は何時かこうなる日が来るかもしれないと、心の何処かで思っていたと思う。
それはそうだろう。
十年前この病院をどの様な理由かはわからないが一度は去った者をである。
自らの意志ではなく、透析の責任者待遇として病院側より迎え入れたと言うのにだ。
何時まで経ってもその椅子は用意されずまた彼曰く……彼のいた十年前よりも今のこの病院の、透析センターの状況は酷いと言っていたのだ。
詳しい事は想像するしかない。
でも戻ってきた武井さんの見た光景は、彼の思い描いていた世界とは大きくかけ離れていたと思う。
そんな中での仕事はめっちゃ辛かったと思う。
第一看護師長のいない透析センターって。
然も取り仕切っているのが准看護師。
普通にあり得ない世界だよ。
なのに私は辞める事も出来ずに一人ぽつんと取り残されてしまった。
しかし今からでも退職はしようと思えば出来た筈。
なのに私はそれを善しとは思わなかった。
『今まで色々と出来なかった事も沢山あるし、これからいい方向へ変えていこうな』
リーダー業務をたったの一日だけれどもっ、私へ仕事を教えてくれた看護部長よりそう言われたのである。
一体今の私に何が出来るかなんて全くわからない。
ただ叶う事ならばこの異常な状態を何とかしたい!!
いい事も悪い事、そのどちらにしてもここのスタッフは何も言葉を発する事無く、ただ指示された事をまるで血の通ったロボットの様に動いているだけ。
因みに派遣の二人は自分達の気の向くままと言うか自分勝手に動いている。
はっきり言って糸の切れた凧状態。
そして大前提の看護体制云々は私のする仕事ではない。
でもっ、定期的に行われるカンファレンス……一方的にリーダーからの指示と連絡事項となっているのが今の現状。
しかし私はそれを普通のカンファレンスにしたいと思った。
そう一つの議題について一方的に指示をされ頷くのではなく、カンファレンスへ参加するスタッフ全員が自分自身で考えた意見を口に、言葉として意見を発しお互いの意見をディスカッションさせていく。
少しでも生きた人間として自分の意志を持って働きたいと、そうする事で藤沢さんをどうこうするなんて事は出来ない。
ただ意志を持つ皆を強引に纏め上げる事を少しでもやめて欲しかっただけ。
でももうこれからは愚痴を零す事の出来る武井さんもいなくなってしまった。
本当に私はこの先どうすればいいのかな。
私の胸は不安で一杯になっていく。
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