第7話  恐怖

 土山さんが退職し寂しく感じる間もないくらい毎日が怒涛の様に過ぎていく。

 そんな中私と武井さんは顔を合わせる度、まるで合言葉の様にある言葉を紡いでいた。


『『』』


 まるでお子様かっ――――と突っ込み満載ではあるけれどもである。

 お互いに抜け駆けでここを退職するのは厳禁だよ……と、常にお互いへ言い聞かせていたのだ。


 そうは言っても武井さんは何時正式にセンター長へなるのだろうか。

 MEとしての実績が認められての出戻りヘッドハンティングの筈だったのに……。



 ひと月二月と時は過ぎ行くけれども一向に彼が正式に就任すると言う噂もなければ彼自身からその様な話の一つとしてなかったのである。

 まあ元々とっぽい感じのお兄ちゃんキャラで下ネタぶっこんでくる様な人物ではあるけれども、だからと言って決して口が軽い訳ではない。

 抑々そもそも私達へ話をしてくれるのはきっと問題のないレベルのモノばかりだったのだろうと思う。


 そう、私が肌で感じる程の異常さを武井さん自身が気付かない訳もなくと言うか、十年前既にここで働いていたのだからそこの所は十分過ぎる程に知っていただろう。

 知った上での出戻り。

 でも彼曰く十年経ってもっと状況は酷くなったとある日ぽつりと呟いていたのを今も覚えている。


 出戻りさんまでもが怖気ずくくらいに酷くなっているって一体どんなのだよ!!


 はあぁぁぁ、本当に声を大にして叫んでやりたい。

 武井さんはセンター長になる様子はなく未だここの責任者は看護部長が兼任と言う体を取っているけれどもである。

 実質上の権力者はドンである


 そしてもし彼女が正看護師ならば別に独裁体制を取ったとしても――――として済んでしまうのが現実だろう。

 だがリアルの藤沢さんは間違いなく正看護師ではなく准看護師だし、そこは法律上医師、歯科医師正看護師の指示の許で准看護師は動かなければいけないのである。


 そんな彼女を毎日見て、接しているとこれまでの私の価値観までもが可笑しくなりそうで怖かった。

 そうこの状況に決して慣れてはいけない。


 これはあり得ない事!!


 この日本では許されない異常な世界なのだとっ、私は心の中で自分を戒める。

 この状況に慣れた瞬間私のこれまでの准看護師としての何もかもが終わってしまう感じがして怖い――――。


 お願いだから誰かこの異常事態を正して欲しい。

 特別な事は言わない。

 世間一般的なお願いなのである。

 誰か、この病院の真実を知って!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る