第三章 疑問
第1話 最初の疑問
土山さんが入職してからほんの少しずつではあるが、私は周りを見る余裕が出来てきたと思う。
それまでの毎日は兎に角与えられた仕事を必死にこなすだけの毎日だった。
経験の浅い透析業務に加えての目に見えない命の重さと訳の分からない
だからそれ以外は全く何も見えていなかったのである。
このセンターが異常なまでに歪なのだという現実を……。
最初の疑問は人間関係。
それは何処のどの病院にも明らかに力を握る者と支配……断じてそこまでとは言わない。
ただ目に見えないグループや派閥なるものは何処にでも大小様々に存在はしている。
でもこのN病院の透析センターではそれは如実に露わになっていたのである。
然も完全に歪な状態で――――だ!!
先ず私の所属する主に外来の患者さんが透析を受けているBチームを支配しているのは藤沢
表向きは小柄で恰幅のいい肝っ玉母ちゃん体型と性格をしたここで18年間勤めているベテランの准看護師。
まあ何処の病院にも必ず一人はいる頼りになる肝っ玉母ちゃん的な、それはいい意味での表現と場合である。
裏を返せば今の医療の世界では接遇やマナーを重視されていると言うのにも拘らず、職員患者さん関係なく上から目線で話しかける存在。
でもその分仕事が出来るから誰も、常に上から目線的な医師でさえ気を遣っているのが見て取れた。
また何時もこのセンターを纏めそしてリーダー業務をしていたのだ。
誰かがミスをすれば直ぐに飛んでいき解決していく。
元透析センターの師長であった看護部長や院長さえも一目置く存在。
だから私は普通に彼女は正看護師なのだと思い全く疑う事もなかったのである。
勤務表を見ても普通は正看護師と准看護師の間に少し間を開け区別されていたのだが、ここではそれはなく続け様に一覧として表示されていた。
確かに藤沢さんの上には二人程の名前は記載されてあったのだが、職員間のコミュニケーションをほぼほぼ取れていない現状の中患者さんの名前と顔は直ぐに覚えられてもである。
そしてひと月経てども悲しい事に同じ職場で働くスタッフの顔と名前が一致しない。
その結果その疑問に気付く事に時間を要してしまったのである。
また藤沢さんはスタッフの誰かがミスを犯した際に直ぐに駆け付け解決してくれるだけではなかった。
その裏では気に入らなければ正准看護師問わず、衆目監視の中で弄る等の陰湿な面もあったのである。
ほぼそのターゲットとなっていたのは少し気の弱いけれども優しい男性の正看護師の古川さんと臨床工学技士(ME)の三田村君だった。
そう彼らが出勤した日は必ずと言っていい程皆の前で、それもどの様に些細な事でも弄られる。
だがそれへ異を唱える者は私を含めて誰もいなかった。
朝の申し送りの際でもだ。
本当に見て聞いて気分の良いものではない。
あれははっきり言って苛めだと思う。
しかし入ったばかりの私に一体何がどう言えただろう。
苛めはするのもされるのも嫌い。
まるでただの鬱憤を晴らすかの様な光景。
私は皆の前でそれを止める事が出来なかった。
それはまだまだ私が何も出来ない、何の力もなかったからだ。
きっと入って直ぐに藤沢さんへ面と向かって言えばその瞬間から色々な面で村八分にされていただろう。
そう、結局私はそれが怖かった。
入職したばかり、親しい人すらいない新しい環境。
然も少し……どころではない。
何とも重い空気の中で何も持たない私は魔王へ立ち向かう勇者の助手の尻尾にもなれなかったのである。
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