第13話  疲弊しきった先

 どんなに傷つき悲しもうとも状況は全く変わらず……いやほぼほぼ眠れてはいない。

 食事も摂れない日々にあの日堕とされてしまったタールの様にとろりと粘りのある黒闇の大海で、ただ一人ボロボロの、今にも転覆するだろういかだの上ですすり泣く私が縋れるものと言えば、悔しい事にあの院長の処方した薬なのである。


 ただし一向に改善しているとは思えないのだけれど!!


 しかしそう自己分析をする事も全く出来ず私は処方された薬に縋り付くしかなかった。

 縋りついたところで改善されたものは一つとしてない。

 相も変わらず狭心症の発作の合間に感情が昂れば発作的に自殺を何度も図り、その度に家族から監視をされれば傷つき心を閉ざし、更にまた自分自身を追い込んでいく。

 傷つくのは自分だけでなく家族も同じなのだと気づかず、まるで悲劇のヒロインそのものだった。


 自殺の邪魔をする家族を恨み罵った事も一度や二度ではない。

 私を全力で護ろうとしてくれるのに、何故なのか私は敵であると同時に恐怖の対象として認識したのである。

 本当の敵である桜井達を憎めばいいのにいや、憎む事すら出来ない最大の恐怖の対象である彼女達の存在は――――そのもの。


 そこは決して偉大な、尊敬をしている意味ではない。

 本当に怖くて恐怖の対象として恐れおののいていたのである。

 悔しいけれどあの頃の私は彼女達を憎む事すら出来なかった。



 そんな出口のない堂々巡りの様な毎日。

 更なる絶望へ堕とされたと言うのにも拘らず薬がなくなれば困ると言う理由だけで判で押された言葉しか吐かないクリニックの院長の許へ受診すれば、処方された薬を飲み自殺未遂を繰り返す。


 そうしてひと月半を過ぎた頃だろうか。

 完全に心も身体も疲弊したある日の事だった。

 家族より別の病院へ行こうと告げられたのは……。

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