第5話 眠れない日々
状況は良くなるどころか酷くなる一方だった。
一番の問題は不眠。
眠れない――――と言う事がこれ程までに辛くて厄介なものだとは今まで想像だにしなかった。
確かにNsと言う職業上常に夜勤はつきものだったし、ましてや私は38歳で過労による狭心症で倒れる瞬間まで本業とは別に夜勤のバイトを掛け持ちしていたとは言えである。
仕事で一晩寝ずに起きてはいても家へ帰れば次の勤務時間まで、少ない時は二、三時間も眠れない日もあったのだが、それでもしっかりその時間は朝夕関係なく眠れていたのである。
確かに睡眠不足で身体は気怠い事は多々あったのだが、それも白衣を纏えば意識はがらりと変わってしまう。
自分の身体よりも目の前の患者さんが第一。
Nsになったからと言って別に人の為に役に立ちたいから……等と言う高尚な思いなんて私にはない。
生きていく為……まあぶっちゃければズルズルと何となく今に至ったと言う表現が一番しっくりとくるのかもしれない。
まあそんな私でもである。
白衣を纏えばそれなりにしゃんと背筋は伸び、Nsとして働いてこられたのだ。
そして話は戻りそんな激務の中でも一切不眠へ陥る事のなかった私は鬱状態と診断されて初めて眠れない苦しみ=死にたい、楽になりたいと無性に思い始めたのである。
でもその辺りの記憶は物凄く曖昧でしか覚えてはいない。
また何時の時点で死を望むようになったのかはわからないし、詳しく思い出したいようでいて余り思い出したくもないのかもしれない。
それこそが人に与えられた忘却と言うものなのかもしれない。
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